Last UpDate (09/04/17)
「優しい光と共に」
雲１つ無い青空の下、多くの人々が、城と見間違うほど大きな建造物へと集まっていた。
大樹のような大理石の柱が何本も建ち並び、白く重たい屋根を支えている。
光をイメージし、白を基調とした内装は、来る者全てに祝福を与えるかの様に優しく包み込む。
ここはとある世界の、とある街の神殿。
「光の三姉妹」と呼ばれる、「剣の女神」エルヴィナ、「知の女神」ワルキューレ、
そして「光の女神」フレイアを祭っており、ここは三女神の大神殿として、信者やファンが多く集う聖地である。
日頃から多くの人が観光や参拝に訪れ祈りを捧げているが、今日はいつにもまして多くの人々が集まり、一層賑わっていた。
それもそのはずで、この日は三年に一度三日間だけ行われる祭り、「三神祭」の日であり、その最終日なのだ。
祭りが最高潮を迎える最終日には、毎回、大神官やいずれかの女神の天使が人々への感謝と共に祝福の花火をあげる。
人の世のものとは思えない美しさと言われるほどで、見た者には必ず幸福が訪れると言われている。
花火の時間も近づき、祭りの興奮が最高潮を迎えようとしていた。
＊ ＊ ＊
祭りの喧噪が遠くから聞こえてくる。
神殿の一番奥に位置するこの場所にも聞こえてくるほど、外の祭りの盛り上がりが伝わってくる。
ここは人々の目にとまる祭壇がある表側とは違い、柔らかな光の射し込む落ち着いた作りになっていた。
神官達が日々神事を行う為に作られたそこは、表のような華やかさがない代わりに、
自然光を取り込む事を考え尽くされ、常に一定の光量を保つように作られている。
その廊下を歩き、白い司祭服の男が神殿最奧の扉の前に立った。
その胸には位を示す紋様が刺繍されており、この神官が高位の者であることが解る。
扉をノックし、返事を待って扉を開ける。
「こんにちは、今日も良いお天気ですね」
部屋の中に射し込む光の中にありながら、優しく微笑んだ彼女は眩しく見えた。
白を基調とした、気品の漂うドレス。その下に隠された玉のような肌。
小さな顔に大きな瞳。少女のようなあどけなさを残しているが、落ち着いた物腰の所為かどこか大人びている。
光をほどよく吸収し輝く栗色の髪の毛と、それに添えられた一輪の花が可憐さを際だたせる。
どこをとっても「美しい」……そう思えてしまう程の美女。
彼女の名はフレイア。
この祭りの主役の一人であり、神々の世界において１２ある属性のうちの１つ、「光」の頂点に座す「光の王」。
元は「光の女神」であったが、先代「光の王」が反乱を起こした際、これを討った事により現在の地位に至った。
この祭りは、フレイアが人々と接することが出来る最後の機会となる。
「光の王」となると「光」の安定のために様々な制約を受け、固定された世界から出ることを禁じられてしまうのだ。
目を閉じ、今まで出逢った世界や、そこに住む生き物や人々に思いを馳せる。
数々の冒険、戦い。
辛いこともあったが、今となっては良い思い出であり、これからも彼女の道を照らす導となるだろう。
何より、これからも支えてくれるそれらの優しい光たちは、ずっと一緒いてくれるから。
「もうすぐ祭りも終盤です。人々が貴方を待っています。どうぞお越し下さい」
フレイアの憂いを秘めた表情に、目を奪われながらも白の司祭服の男は扉の横へと移動し、フレイアに道を空けた。
「はい、解りました。それでは、この子をお願いしますね」
そう言うと傍らに置かれたベビーベッドに眠る赤子の頬に手を添えて、
「いってくるね、ワナセリス。良い子にしていてね」
小声で呟き、扉の横で待つ神官に小さく会釈すると一人、祭りの会場へと向かう。
「いってらっしゃいませ」神官は深く頭を下げ、フレイアを見送った。
＊ ＊ ＊
神殿のテラスがライトアップされ人々の注目が集まる中、美しい女性が現れる。
背から美しく大きな翼が現れ、光の花びらが舞い、人々の頭上へと降り注ぐ。国中がその幻想的な空間に包まれた。
「全ての生きとし生けるものに祝福を！」
空を抱くように両手を広げる。そして、全ての感謝の気持ちを込めて、ぎゅっと抱きしめた。
背の翼は消え、人々を見渡して深く頭を下げる。透き通る声で、
「有り難うございました。貴方たちにも優しい光が現れますように」
想いを込め、そして微笑みかけた。
その静かで優しい微笑みに一瞬、沈黙する人々。
しかし、その反動のように先程にもまして、人々は叫び力一杯盛り上がった。
彼女が去った後も、暖かく優しい光が、興奮冷め止まない人々を包み込んでいた。
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