夜の闇が白い月に照らされて、ほのかな青を帯びる、コバルトの空。
多くのサンタが飛び交うこの日の空に、何とも頼りなさげに飛ぶ一風変わったサンタの姿があった。
トナカイの着ぐるみに身を包み、涙ながらにソリを引く銀髪の少年と、そのソリに乗り、たくさんのプレゼントを入れた白い袋を必死に抱える、赤いサンタ特有の服を着た長い銀髪の少女。

「ミューゼル〜、やっぱりこの量を二人でなんて無理だよぅ」

気弱な声で気弱な発言をするトナカイの少年クロ。
頭に刺さっているかのように見える角が無ければタヌキにも見えてしまうのがちょっぴり悲しい。

「何を言っていますの。いつも頑張って下さっているのですもの、この日ぐらい恋人と二人きりで過ごさせて差し上げたいと言い出したのはクロですのよ!?」


反して、よろめきながらも意志の強い声を上げるサンタの少女ミューゼル。
赤い、コートとも付かないサンタ特有の服を着こなしてはいるが、形成されたボディーラインは胸の肉付きの残念さを強調するかのようにしわが少ない。

「い、言ったけど、こんなに引き受けたのはミューゼルじゃないか〜!」

普段から頑張っている主に、たまには出身世界のイベントを楽しんで貰おうと、この日の仕事は無いと偽り「恋人とゆっくり過ごして下さいな」と休ませたミューゼルとクロ。
しかし、この日は世界の子供達のために、神も天使もサンタとなってプレゼントを配るという、一年の内でもっとも忙しい日である。
その日を休むのはとても許される事ではなかった。

それでも、二人は麻莉亜に休ませたかった。

神になってから休むことなく仕事をこなす彼女。言葉に出した事はないが、天使である自分達に迷惑がかからないように出来る以上の事をやって、周りの評価を上げようとしていた。


熾天使があの落ちこぼれ天使のクロだから……と、

能力が高く優秀な天使ミューゼルの主のクセに……と、

決して言わせないために。


「かといって休ませてまた評価を下げては元も子もありませんわ。ですから、普通の神々や天使達の倍以上をこなして見せますわよっ!」

と、ミューゼルがクロを説得し、プレゼントを他の者達の三倍袋に詰めて出発したのだ。


   * * *


悪戦苦闘の末、全てのプレゼントを配り終えた二人は仕事場に戻り、ソファーでそのまま眠ってしまった。

目覚ましが鳴り、目を覚ましたのはミューゼル。クロは隣静かに寝息を立てていた。時計を見やりいつもの時間通り、麻莉亜がやってくる1時間前で在る事を確認する。
帰ってきてそのまま眠ってしまった事を思い出した彼女が、身なりを整えようと身を起こすと、初めてそこがベットの上で在る事に気がついた。そして、枕元に小さな包み。

ミューゼルは小さくため息をつくと、

「私とした事が、他のサンタ達への口封じを忘れていましたわ」

枕元の包みを手に取り、胸の前でそれをそっと握りしめた。

「天使がサンタにプレゼントを貰うなんて、世も末ですわ」

言葉とは別に、口元をほころばせ、初めてのクリスマスプレゼントに喜びの笑みを浮かべるのだった。



(勇者屋キャラ辞典:蔵(クロ)ミューゼル・エスカティア
文:若菜綺目羅
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