コロンッと、柔らかな太とももに頭を預ける少女。
暇をもてあまし、太ももを覆う黒の布地を掴んだり離したりを繰り返し、「う〜」とうなったり「あ〜」とノビをしたりしている。

「ほらシルク、もう少し落ち着きなさいな」

少女の頭を愛おしそうに撫で、優しく声をかける太ももの主、マユラ。
美しく伸びたブロンドの頭に結んだリボンが、大人びた顔を少々幼く見せている。

「む〜、だってお兄ちゃん遅すぎるもん〜!」

マユラよりも深い色のブロンド、まだまだ幼さの残る将来有望そうな可愛らしい少女、シルク。
年頃に合ったワンポイントのリボンは大好きな兄から貰った宝物。

今でこそこうして仲の良い姉妹の風だが、この世界を訪れ兄と出会うまでは、大した会話もない冷めた関係の姉妹だった。


   * * *


数多の世界を内包する、広大な世界の一つ、「全ての空」。
その「全ての空」すら、個にしか過ぎない、さらに広大な「外」世界の管理者の一人。それがマユラだった。

「全ての空」には、全ての世界を滅ぼす危険な因子がある……消滅させるべし。と、その任を与えられたマユラは、いつものようにその「空」を訪れ、一方的に破壊を行い消滅させるはずだった。

しかし、その時はいつもとは違うことがあった。「全ての空」には創世の為に降りた母と弟がいたのだ。

母と弟に警告をし、二人だけでも脱出の機会を与える。応じなければ共に滅ぼすだけ。

そう考え訪れた「全ての空」で出会ったのは、弟の魂を持つ「軍神」マルスだった。
しかし彼はマユラの警告に応じず、「全ての空」を守ると主張し、逆にマユラを説得しようとする。

仕方なし、と判断したマユラは、「全ての空」を破壊し始めた。
邪神、聖神問わず「大戦」で名を馳せた神々が、これを阻止せんと挑んだが、彼女の強大な破壊の力の前に、多くの者が消され、多くの者が傷つき、倒れていった。

もはや為す術もなく、「全ての空」が滅ぼされようとしたその時、奇跡は起きた。
マユラに挑み、倒れた者達の力と、「全ての空」に生きとし生けるものの希望を託されたマルスが彼女に挑み、「全ての空」史上最も激しい戦いの末、辛くも勝利したのだ。

倒れた彼女を前に、多くの神々が彼女の消滅を唱える。
消されていった者達の無念、彼女の存在への危険性……一つとして、彼女を許し解放する理由はなかった。
しかし、「全ての空」を消滅させようとした彼女を、多くの者の命を奪ったマユラを、マルスは許し、手をさしのべた。

彼の行動に、多くの神々は激しく反対し、罵倒する。
「たぶらかされた」と、「姉弟だから」と、「所詮人間あがり」と、様々な非難の声が彼に浴びせられた。

それらの声を一身に受けつつも、彼は笑って彼女に声をかけた。

「姉さん達「外」の神にとってこの空の存在は危険かもしれない。だけど、そうしないようにする事だって、俺たちには出来る。
ただ闇雲に「危険だから排除」する行為こそ、全てを滅ぼす危険を持っているんだ。
だから姉さん、俺たちがお互いを理解して、共に歩んではいけないかな?」


敵となり、世界を賭して戦った相手に、優しく笑って手をさしのべた彼の行為を、その時は理解出来なかった。向けられた憎しみなど雑音に過ぎない。世界の安寧のために行わなければいけない「破壊」。
「優しさ」を向けられたのは初めてだった。
それを持つ事を理解してはいけないと、必要はないと、生きてきた。

彼女の中の「今まで」が彼の言葉を否定した。
しかし、彼女の中の「別の何か」が彼の言葉を欲した。


その答えを。


   * * *


「ただいま〜。お、二人とも来てたのか」

そして今、あの時と変わらない笑顔が、自分達に向けられている。
答えはまだまだ見つからないけれど、何か暖かいものが、マユラの中に、シルクの中に生まれたのは確かだ。

「おかえりなさい、マルス。今日はフレイアさんが留守だったから、貴方が寂しがってはいけないと思って」

柔らかな笑顔を人に向けられるようになった。

「全く、お姉ちゃんもお兄ちゃんが大好きな癖にそう言う風に言うんだから。素直に会いたくて来たって言えば良いのにっ」

ちょっとした冗談も言えるようになった。

「もう、シルクったら」

姉妹で笑い会えるようになった。

「そっか。良し、じゃあ今日は俺が腕を振るうからご飯を食べていきなよ」

暖かな時間が過ごせるようになった。

「おおー! お兄ちゃんのお料理!!」

ただただ使命に従い過ごしてきた時間の、何倍ものかけがえのない時間が、これから続いてゆくのだと思えるようになった。


――私達の「それまで」以上に、「これから」は大切な時間を過ごせる。
あの時の答えは、そういうものかもしれませんね。
(勇者屋キャラ辞典:マユラ、シルク
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