ギリシア 7
         ニューヨークの画家ピーターさん
5月13日 今日は一日中、この魅力的な町を歩き回ってスケッチする。昼食もフリーなので時間がたっぷりある。ミコノス島の総面積は85平方キロ、人口は5000人と言う小さな島である。ここが何故エーゲ海の真珠と呼ばれて、世界中の観光客をひきつけるか、歩いているとひとりでに納得する。大小の教会も多い。小さなこの島に何と365もの教会があるという。
ギリシアの海は何故だか、磯くさい匂いがない。海水はねっとりと光沢がある感じがする。ギリシアの最終日に、島巡りの船上から見た海水は深く濃いウルトラマリンだった。誇張でもなんでもなく、白い紙コップにすくい取ったら、そのままの藍色をしているのでは、と思わせた。

路地から海に向かって、海から山に向いて描いて行く。革細工の土産物屋。島の顔でもある粉引き風車。客を待つレストラン。描く対象はそこいら中に転がっている。テーブルセッティングを終えた2人の男がくつろぐレストランを描きおえた時、一人の男性が声をかけてくる。「あなたはプロフェッショナルのアーチストか?」「ノー、私は日曜画家だ」「日本人か」「イエス」「自分はニューヨークから来た画家で、名前はJ・.ピーターと言います」彼は言って、私の名前が覚えにくかったのか2,3回繰り返して確認する。それから肩にかけていたカバンから何枚か絵を取り出し見せてくれる。そんなことをしている時4,5人の若い女性たちがやってきて、「おお、ピーター」その中の一人が、感激の声をあげた。どうやらここで思いがけない再会をしたらしい。

握手をし、肩を叩き夢中になって話し込んでいる。わたしはそうっとその場を離れた。2,3時間ほどしてその場を通りかかると、ピーターさんが地面に座り込んで、スケッチをしていた。「いいアングルなので自分も描いている」そういってにっこりした。「グッドラック」と手を振って別れた。
          ウッカリ連れ合
昼食のために夫と待ち合わせた風車の見えるレストランに行く。
料理を注文したが、夫は何だかそわそわと落つかない。案の定、スケッチをしていた場所でカメラを無くしたという。いつも身辺を整理しないまま次の行動に移ってしまう。夢中になって我を忘れる。立ち上がったら最後、後ろを振り返らない。
せっかちで、うかつで、慎重さに欠ける。
仕方がない、ここで夫を責めてみても性格がなおるわけではない。添乗員のKさんに相談しましょうと言うことにして、私は町の中を探し、夫はホテルまで探しに行ったが会えなかったらしい。もう仕方がない、集団旅行だし迷惑はかけられない、諦めましょう、ということになった。

気を取り直して、スケッチをしながら、山に向かって歩く。夫は8時の夕食ぎりぎりまで描いて帰るというが、私は何だかどっと疲れが出た感じだ。今日は早めに切り上げることにした。