ギリシア 11
5000年の時を垣間見た旅
5月17日、10時、アテネを発って2時間15分でフランスのオルリー空港へ着く。 パリは雨だった。 最近爆破事件などが起きているパリはピリピリしている。 この日も引き取り手の無い荷物がいつまでもターンテーブルを回っている。物々しい警戒で乗客は遠ざけられて、荷物のタグの持ち主の名前が呼びつづけられる。最後にやっとウッカリ持ち主が名乗り出て、足止めされていた乗客たちが開放された。

やれやれ。迎えのバスに乗り込んでルーブル宮近くの免税店の前で降りる。 ここでお土産を買う人、オランジェリー美術館へいく人と、しばしの自由行動。 パリは寒かった。 現地ガイドさんは分厚いコート姿だった。
「みなさんをギリシアに見送ってから、パリはずっとこんな天気です」といっていた。
 さて前回の家族旅のパリで私はオランジェリー、オルセー美術館はは観た。
 何度でも観たいところだが今は時間が短すぎる。ティルリー公園に行く。マロニエはピンクや紫の淡い花をつけて新緑の季節を迎えた公園。
 その下で語り、散策する人々がみんな、オーバーコートやダウンジャケットを着ている。公園内で少しスケッチ。 この日、夕刻8時40分、ドゴール空港を飛び立つ。
 <I 先生と行くスケッチの旅>という魅力あるキャッチフレーズにつられて旅立ったギリシアだったが、スケッチの手ほどきを受ける機会はほとんどなかった。たかが10日程度の旅で先生の蓄積をかすめとろうなどと考える私のほうが浅はかだった。
 絵なんて結局、自分で作っていくしかないんだよ、と改めて教えられた旅でもあった。

 そして今度の旅は、人類の過去に巡り会えた旅でもあった。生活に追われて、これまで歴史というものに殆ど興味を向けられない私だった。 西洋史を学んだ長女とヨーロッパを歩くようになってから、少しずつ変わってきている。 5000年というのは地球の歴史から見たら一瞬のような出来事かもしれない。 しかし人間が文化を持ってからの5000年という歳月は何ときらめき、輝きに満ちていることか。

 今、発掘されつつあるサントリーニ島のアクロティリ遺跡からはこれからもどれだけのものが現れてくることだろうか。 2000年も前から無人島になったデロス島。その日の殺戮の後は風雪にさらされて消えている。 しかし崩れ行く白いライオンたちは、その日をつぶさに見たにちがいない。


 人間は凄いものを造る。しかしとてつもなく愚かな生物だ。争い、破壊する。 ヨーロッパを歩くとき、いつもつくづくそのことを思う。 5000年という時は、個人の一生に比べたら気が遠くなるほどの時間だ。 その時間の谷を飛んで人類の遺産に巡り合えたギリシアの旅だった。(終わり)