京都駅JR奈良線ホームには緑青の錆が浮いた吊り燈籠が下がっていて、古都の風情を演出している。フラッシュを焚いて撮影すると、退屈そうに電車に立っていた。
小さな駅舎を出るとすぐに、「料理旅館玉屋」と文字が入った行燈のような形をした燈籠が目にはいる。橙色の明かりが灯り、暗い焦げ茶の格子を背景に、風情のある雰囲気を漂わせている。建物の二階は土壁で、虫籠窓(むしこまど)と呼ばれる細長い窓が切られており、暖かそうな明かりが漏れていた。白い暖簾の端が招き猫の手のように少しめくられていて、玄関の様子を覗かせていた。
玉屋の角を曲がるともう伏見稲荷大社の入口で、朱色の巨大な鳥居が聳えていた。右手の玉屋の側面は白土壁で、2階部分に紋様が立体的に彫られていた。
境内の入り口付近では白装束に薄緑色の袴を付けた神社の職員が、おみくじや御守を売っている。御守は商売繁盛、家内安全、学業成就など用途毎に袋の色が異なっている。好みの色と用途が合致しない場合にはどちらを優先するべきか悩みそうだ。
修学旅行の女子高生が御守を買っていた。御守を袋に入れながら神社の職員が話しかけていた。
「京都はもう長いんですか?」
「……?」
「修学旅行ですか?もう長いこと京都にいやはるんですか?」
「え〜と、もう今日が最後で〜、明日東京に行くんです」
「ああ、そうですか?東京にも行きはるんですか。ほなお気をつけて」
土産物を売らんかなの寺の売店とは異なり、神社の売店は妙にほのぼのとした印象である。
妻が2種類の御守を手に持って、「こっちとこっちで、どっちがいいと思う?」と尋ねた。本来的用途を無視して、来年受験する娘がどちらのデザインを好みそうか訊いているのである。興味がないので、適当に右側の御守を指さして「こっち」といった。