黒ずんだ氷を浮かべるお釜を正面から見る蔵王山

蔵王山は宮城・山形にまたがる山塊の総称だが、山形出身の両親を持つ私は山形の山である印象が強い。蔵王エコーラインを車で上れば主稜線の一峰である刈田岳の山頂直下まで歩くことなく行けて、そこから徒歩少々で火口湖のお釜を見下ろすことができる。観光客が町中と同じ格好でお釜をバックに記念写真を撮っている。かつてJR東日本のポスターにもあったが、稜線をさらに熊野岳方面に進んで正面からお釜を見るとまるで鮫の顎のようで、背後の五色岳の荒々しい火口壁の眺めと併せてかなり不気味だ。
子供のころ両親の故郷に行くと2、3回に一回は蔵王山に行ったような気がするが、何せ子供なので珍しい光景だけで満足してしまい、お釜を眺めただけで帰っていたようだ。一度ばかり、いとこたちと一緒に行ったときだったか、最高点である主峰の熊野岳まで歩いたような気がする。刈田岳から一時間くらいだから子供の脚でも行けるのだが、本人たちは蔵王山域にある個々のピークの名前など全然気にしておらず、ただ蔵王に行ってお釜を見て帰ったとしか思い出にならなかったようだ。子供にとっては蔵王イコールお釜だったのである。

主峰の熊野岳に登る機会は就職した翌年あたりの5月の連休に回ってきた。ひさびさに両親の生まれ故郷を訪ねた後、乗ってきた車で蔵王に行ってみようと思い立ったのである。
 
刈田岳まで行ってみると車道はともかく山の上にはまだ雪が残っていて、お釜の水面にも融け残った氷が宮城県側から吹いてくる強風で手前方に吹き寄せられ、たがいにぶつかりあっては脅かすような鋭い音をたて、それが稜線にまで聞こえてくる。湖面の氷を揺さぶるほどの風は当然のように山の上でもかなり強く、山登りをするつもりがなかったので風対策の衣服がない私には吹きっさらしの中を熊野岳まで行くふんぎりがつかず、結局子供のころと同様にお釜を眺めただけで刈田岳の駐車場に引き返してしまったのだった。
左:熊野岳 右:お釜を抱く五色岳 左:熊野岳 右:お釜を抱く五色岳
すぐ行けそうな場所はなかなか行けないものだが、私にとって蔵王山はその一つであるらしい。できれば北方の笹谷峠から始まる蔵王連峰縦走をしてみたいのだが、そういうことを考えていると日程の都合とかでなおさら行くに行けない山になってしまいそうでもある。

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