利尻山 沓形より利尻山

利尻山は深田久弥の「日本百名山」の筆頭に出てくる山でもあり、知名度は高いと思う。かつてはこれも有名な事実として海抜0メートル近くから登らなくてはならない、つまり山の高度がそのまま獲得標高差、という山だったが、沓形からの山腹途中までの車道が通されてからはいくらか楽になっただろう。でもこの山は海抜1718メートルを全部登って欲しいと思う。そうして初めて利尻山が利尻島である、という事実が実感できると思うからだ。
この山はできれば横断登山すべきだと思う。というのも、これまた有名な事実としてこの山は海洋上の独立峰であり、片側は悪天候でも反対側は好天、ということがあるからだ。上の写真で言えば、向こう側の雲が覆っている側は鴛泊方面で、雨模様なのだが、こちら側の沓形では晴れている。この島の天気はこの山が作っていることがはっきりとわかる。もっとも、晴れ側から雨側へと積極的に行こうとする登山者はそう多くないだろうが。
なお、写真中央のリヤカーに山と積まれているのは昆布である。近寄ってみると薄い材木のように見えた。


もう秋に近い学生時代の夏休み、前年の九州に続き、今はなき国鉄のこれも廃止されたワイド周遊券を使って北海道を旅行したのだが、出発後一週間して到着した利尻島の西にある沓形で風邪をひき、まるまる一週間というもの利尻町立ユースホステルに泊まり込んだ(このYHはいまはもうない)。夕日を眺めるには最適の場所のため、日本海に沈む真っ赤な夕日とそれが照らす利尻の赤富士を眺めながらのひじょうにのんびりした一週間を過ごした。体調不全と体力不信のため利尻登頂は決断できなかったが、宿で手にした「思い出ノート」に前泊者の一人が夜間登山して見た山頂での夜明けの光景をイラストに描いて「生きててよかった」と一言だけ付け加えていたのを目にしても、夜間登山はともかくいつかはこれを登らねば、と思ったのだった。
それから4年後、雨中の利尻島に再上陸して鴛泊キャンプ場に幕営し天候の回復を待つ。だがいつまでたっても回復しない天気に業を煮やして登った山頂からはせいぜいガスの切れ目越しに沓形しか見えず、360度の海岸線は残念ながら見られなかった。それでもこの年の初めからこの山に登るために準備してきた身としては、憧憬の山に登れたということで充実感に溢れた山頂だった。ハイマツに覆われた尾根をガスが渦巻く谷を見下ろしつつ登っている最中でも、利尻山が作る利尻島の自然というものを体感した気になれる。この日は沓形に下山し、バスで鴛泊に戻ってキャンプ場まで歩いた。
1986/8/6

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