高原山頂直下からの尾出山尾出山

前日光や安蘇山塊などの栃木県南西部には個性的な低山が多い。しかしこのあたり共通のことらしいが、山中はもとより登り口からしてルートのはっきりしないところがあり、下調べをせず他人任せの態度で訪れるとたいへんな目に遭う。この尾出山がいい例で、国土地理院発行の地図を持参し複数のガイドブックを読んでおきながらそもそもの登り口を間違えてしまい、同行したグループメンバの誰一人として気づかないまま予定外のルートを山頂まで辿る羽目になったのだった。


ガイドによれば、この山の南東に延びる寺沢林道の終点から沢沿いに進み、沢が二俣に分かれるところを左に入ってさらに詰め、山頂に続く尾根に出る、とある。だがこの二俣とされる地点がわからないまま、山道は沢のどん詰まりに来てしまった。「尾出山周回コース」と書かれた紙がポリ袋に覆われて植林の杉の木に貼りつけられているが、目の前の斜面をジグザグに登り出すと踏み跡は左手急斜面に広がる植林のなかに消えてしまう。
右に行ったり左に行ったりして山道らしきを探してみたが、それらしきものはない。しかたないので左手上に見える稜線に向かって、崩れやすい急斜面の植林帯をトラバース気味に上がっていく。しかしこの道のりが見た目以上に長い。足下がいよいよ不安定なうえにヤブやら倒木まで出てくる。稜線はすぐ上に見えるので、直接登っていった方が楽だとばかり強行突破の直上を図り、ヤブのない尾根に出た。
しかしここがほんとうに歩くはずの尾根だろうか?岩稜もあれば急登もある細い踏み跡を訝りつつ進んでいったものだから、ひょっこりと山頂に出たときには多かれ少なかれメンバー全員に安堵感が広がったものだった。ここは日光の男体山を開山した勝道上人が修行した山とのことで、「勝道上人修行第二宿堂跡」という石碑と小さな社があり、その脇には梵天まで飾られている。まずは皆して気抜けしたようにこれらを眺めるのだった。
尾出山山頂から隣の横根山
山頂から隣の横根山 
山頂からの展望はそれほどよくないのだが、広い谷を隔てて隣の横根山が大きく見える。雪こそかぶっていないが、ほとんど冬枯れして寒々しい。そちらから冷たい風が吹き付けてきては登りで火照った身体を急速に冷やしていく。木立の陰に避難し防寒具を着込んで食事休憩とした。


登りのルートだが、二俣とされるところを過ぎて左に行くべきを右に行ってしまい、本来たどるべき稜線よりひとつ北側にある短い尾根を登ってしまったようだ。高原山へ続く稜線の縦走路から振り返ってみると、その尾根がよく見えたが、かなり急なものだった。しかしその二俣はいったいぜんたいどこにあったのだろう?機会があったら確かめに行きたいものだ。
尾出山から高原山への稜線にしても、一カ所、まっすぐ進むべきを右手の支尾根に誘い込まれてしまうような場所がある。尾根筋が広くなっているところで、踏み跡は右手に進む方が広く思えるが、よく見るとまっすぐ進む方の木々にテープがいくつか付けられている。ここは二万五千分の一図とコンパスを引っ張り出し、地形を照合してまっすぐ行くものと決めたが、ガスで見通しが悪ければ自信が持てなくなるところかもしれない。とにかく山頂標識以外は指導標などないところなので、何も考えずに歩いていると予想外のところに着いてしまう。今回は車で山のなかに入ったが、この迷いやすい分岐で右に行ってしまうと、山の反対側に下りてしまうことになり、車の回収に一苦労することになるのだった。
この稜線は雑木林の道で、黄葉の木々が気持ちよい。左手彼方には古賀志山や鹿沼の二股山がよく見える。高原山の山頂直下に至って振り返れば、名の通り幅広の横根山を背景に、尾出山が鋭角的な姿を見せて好対照を成している。この日、日曜だというのに山中では自分たち以外の誰にも会わなかった。稜線を雑木林が覆い、静かな山歩きができるという謳い文句を事前に聞いていたが、間違いではなかった。俗化していない山は栃木県南西部に多く隠されているのかもしれない。前日光や安蘇山塊には、ルートファインディングをしなければ山頂に行き着けない山々がたくさん残っている気がするのだった。
2002/11/4

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