小河内神社から三頭山紅葉のヌカザス尾根

奥多摩の三頭山はそう高い山でもなく、檜原側は山腹にまで車道が通じていて山頂に至る歩行は1時間強で済むが、小河内から奥多摩湖を渡ってヌカザス尾根をたどれば4時間で、ほんとうのところの山体は大きい。この尾根、長すぎて敬遠されるのか奥多摩の秋の好日というのにひとの姿が少なく、色づき始めた山道脇の木々を眺めて深山めいた雰囲気に浸るには手頃なコースと思えた。


奥多摩駅前からのバスを小河内神社で降り、ドラム缶を浮かべて人が渡れるようにした橋で奥多摩湖を渡り、騒々しい車道を右に長々とたどって登山口に着いたのは10時半だった。半時ほど急登を続けて、そろそろ休もうかと思えるころ斜度がようやく緩む。途中のポイントであるイヨ山は雑木林のなかの細長い頂で通路のようだ。あたりにはブナだろうか、黄葉がそこここに散らばっている。ここから下り、コブを二つ三つ越えて植林の回廊を通り抜けると、壁のように立ちはだかる急坂があり、これを越えてツネナキ峠に出る。
ツネナキ坂は名の通り坂のようだった。雪の季節はスリップに注意すべきところだ。このころから雑木林が続いて嬉しくなる。いったん下ってからは緩やかな道のりが続き、右手に見える鶴峠からの稜線がなかなか低くならない。長い時間を歩いているのでちょっとした登りでもこたえるようになってくる。目の前に山頂らしきが見え始めると、それまでほとんど平坦だった山道がようやく登り気味となっていく。
山中の秋
山中の秋


頂には2時過ぎに着いた。声の大きな三人組がいるだけだが、十分うるさいので離れたところに腰を下ろして湯を沸かしコーヒーを淹れる。権現山方面が霞んでいる。空気の通りがよいのか、いきなり寒くなった気がした。手袋なしの手が冷たい。カップの飲み物もどんどん冷めていく。
控えめな秋の色づきを左右に眺めながら西原峠方面に下りだす。新築された避難小屋が途中にあり、入口の二重扉を開けて覗き込むときれいな内部だった。今朝は寝不足のまま出てきたのでここに至ってとても眠く、靴も脱がずに床に腰掛けて横になり、少し寝た。もう誰もこのあたりを歩かないのか、邪魔する人はいない。頭がはっきりしたところで再び山道に戻った。なんどか登り下りを繰り返したので、体が温まり、手の血行もよくなってきた。
まとまった登りをこなして行き着いた先は槇寄山で、4時前だった。西面が開けて左に権現山、右手奥に三ツ峠山と黒岳が夕照をシャワーのように受けている。御正体山は雲に隠れつつあった。本日最後の展望点であり、こんな時刻だがすぐ立ち去るには惜しい。湯を沸かし、紅茶をつくった。人の気配は去り、山々は眠りにつこうとしている。まだ下山は終わっていないが、今日もよい山の上の一日だったと思えた。
槇寄山から夕暮れの三ツ峠山(左端)方面を望む
槇寄山から夕暮れの三ツ峠山(左端)方面を望む


槇寄山から西原峠はすぐだ。足下も定かでなくなってきたところを檜原側に下り、数馬のバス停に着いてみるとおおぜいが待っていた。日も落ちたころに体験の森から下ってきた満員のものは見送った。すぐに来た数馬発にひとり乗り込んで発車を待ち、ほとんど眠りながら夜の武蔵五日市駅に出た。
2003/10/25

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