初夏の権現山雨降山との縦走路から権現山山頂部

公共交通機関を使うことが多い身としては夏になると下山後の入浴は必須で、これができない山はまず最初からこの季節の計画対象にならない。だから2005年の6月になって、大月駅のすぐそばに銭湯があることを知ったのは遅ればせながら朗報だった。しかもほとんど駅前なので風呂から上がってすぐ冷房の効いた電車に乗って帰れるという。これで夏でも大月周辺の日帰り山行がしやすくなった。「では」というわけでまずは静かでなだらかな権現山を再訪してみた。


上野原から朝の飯尾行きバスに乗り、用竹で下車。かなり前の早春にここから歩いたときは集落のなかをめぐる道を上がっていったものだが、今回は標識に導かれていくとすぐに山道に入った。どうも前回は案内を見落として右折すべきところを直進してしまったらしい。今日は梅雨の合間の好天だが、木々のなかにつけられた山道を行くので日差しが遮られ、それほど暑くない。稜線に近づき雑木林の比率も多くなるにつれ、風も通るようになる。
稜線にて
権現山山頂へは3時間以上かかるようにガイドには書かれているが、淡々と歩いていくと比較的早めに着く。途中の雨降山で食事休憩していると後から追いついてきたパーティーが同じように休憩の準備をしながら「ここはどこですか」と尋ねてくる。場所名を教えるともう雨降山なのかと驚いていた。苦しい登りが続くこともなく、雑木林はもとより植林の木立を眺めているうちに日々の慌ただしい気持ちが鎮まってきて、いつのまにか稜線の高みに来ている。権現山はこうやって無理なくハイカーを導いてくれる。山梨百名山の一つにさせられて昔よりは賑やかになったかもしれないが、山そのものの落ち着きは変わってほしくないものだと思う。
稜線から浅川峠への途中で
この日、下界ではかなりの湿度が充満していていたらしく、稜線から分かれて扇山につながる浅川峠へと下っていくとそれまでは暑いだけだったのが蒸すようにもなってきた。峠から浅川集落に下り、ここから出るバスの時間待ちが長かったのでだいぶ先の浅川入口バス停へと出たのだが、日を遮るもののない車道を一時間ばかりも歩いたものだから全身が雑巾状態になってしまった。次来るときは稜線でゆっくりし、浅川集落から午後に一本だけ出るバスの時刻に合わせて下るよう計画しよう。
こうして小菅へと通じる車道に出て、幸いなことに10分程度の待ち合わせで上和田から来る数少ないバスをつかまえ、風呂を楽しみに大月駅に出た。目当ての銭湯の入口には暖簾が下がっていて「よしの湯」とあった。早い時間だからか客のいない男湯に入ると、浴室内はさんさんと光が回って明るい。そのガラス窓越しに隣家の二階から丸見えであったのには多少ひるんだが、適度な熱さの湯に手足を伸ばしてつかれるのはなにものにも代え難い。これでこのあたりの日帰り山行は夏でも問題なしだ。十分に汗を流し、脱衣室に貼られた駅時刻表を眺めながら風呂上がりの牛乳を飲んだ。番台に座る愛想のよいおばあさんにお礼を言って、駅に向かった。
2005/06/26

大月駅前の銭湯「よしの湯」は残念ながら2008年5月に廃業してしまった。1925年に創業の由緒ある銭湯だったが近年の経営難はいかんともしがたかったらしい。これで大月に出向く楽しみが一つ減ってしまった。
2009/5/31

回想の目次に戻る ホームページに戻る


Author:i.inoue
All Rights Reserved by i.inoue