雁河原日向山

日向山の山頂近くには花崗岩の砂礫地である雁河原があり、山上の砂浜を構成している。この雁河原からの眺めはよく、すぐ近くの南アルプスの山壁、甲州街道を隔てて立ち上がる八ヶ岳の眺めがことによい。かつて台ヶ原宿に泊まった初夏や盛夏に車で林道を上がって訪れたものだが、それきりしばらく無沙汰をしていた。ある年の残暑もようやく去った頃、久しぶりに連れとともに台ヶ原宿を訪ねる機会ができたので、ならば日向山にもと出かけてみた。


前日に宿泊した韮崎で車を借りて白須を目指す。竹宇駒ヶ岳神社への道を分けて林道を上がっていく。随分と高度を稼いで着く矢立石の登山口はすでに車が鈴なりで、狭い林道に停める余地を探すのに苦労する。これは雁河原は人で溢れているのではないかと危惧しながら出発する。
山道はところどころ斜度があるものの、人気の山なのでよく踏まれて歩きやすく、入山者が多いので差し渡されたクモの巣に引っかかることもない。よく踏まれて連れにも歩きやすい道で、ほどほどに斜度があり運動としても快適だ。天気が佳ければ樹間から八ヶ岳や富士山が垣間見えるところもあるようだが、本日は雲が山にかかるような空模様なので遠望は利かない。それでも雑木林の森は目にやさしく、カラマツの林は光を通して明るい。
登路にて
登路にて
コース途中には合目が記された金属板が木の幹に取り付けられており、8合目あたりまでくると登りはだいたい終わる。林床が広がって穏やかな風情となったなか、雨量計測器の立つ鞍部様の9合目を過ぎると山頂は近い。右手に分岐する踏み跡の先に三角点が人待ち顔でいるのが山頂だが、眺めはなく、雁河原が先にある以上ここで休む人はいない。コースに戻り、散策路のような森のなかの道を行くと、前方に人声が聞こえてきて目指す地点が近いことがわかる。
雁河原手前の森。この裏が白砂の斜面。
いままでが閉塞した森のなかだったので、飛び出した先の雁河原の開放感には初訪でないのに二人とも思わず感嘆の声を上げてしまう。足下は浜辺と見まごう白砂、周囲は間近に深い谷間からそそり立つ山々。町中の路地裏を歩いていて角を曲がったら巨大なモニュメントが並ぶ広場に出たような感覚だ。ガスが舞い降りつつあるので見上げる稜線はほとんど視界に入らず、フォッサマグナの谷間を隔てて広大な裾野の上に立つ八ヶ岳も見えなかったが、また来てよかったと思える場所だった。
周囲の山々には目を懲らさずとも白ザレの斜面が見つかる。甲斐駒ヶ岳にしても鳳凰三山にしてもそうだが、このあたりは花崗岩質の山が多いらしい。それも山頂部ばかりではなく、この日向山にしても山道の途中に砂礫となった花崗岩が目についた。花崗岩は陸地を構成する岩石としては珍しくないものだそうだが、山の上にあって白く輝いているのを見る機会は首都圏近郊だとそう多くない。この日向山のように登山口から一時間で登れる山となるとさらに少ないだろう。(連れの実家の岡山では海岸部の低山によく見られるが、里帰りしない限り登れないので高さはともかく遠い山だ。)
雁河原より谷を隔てて望むガス湧く山々
10月の上旬で、登っている最中は日差しもあって暑く大汗をかきながら登ったものだが、雲が被さる山頂部は乾いた空気が快適を通り越して冷たく、連れが言うには「冷蔵庫の中にいるようだ」。汀なき山上の浜辺に長居を決め込んでいる人たちはみな雨具の上着など着込んでいる。半袖Tシャツで元気に見えるひとは早々に下っていくようだ。湯を沸かしてコーヒーを淹れ、麓の台ヶ原宿にある和菓子屋で買い込んできた生クリーム入りどら焼きを食べ終わるころには相当に冷えてきた。展望は少々待ったくらいでは好転しそうになかったので下ることにした。


下りは錦滝へのルートを取りたかったが、かつて歩いたこともあり、安楽な山歩きにもしたかったので往路を戻ることにした。車を置いた場所に戻ってみると山頂にいた人数に比して多すぎる台数の車が残っていた。日向山の奥の山に泊まり込みで向かった人たちのものだろう。
一汗も二汗もかいたうえに冷えもしたので風呂に直行することにした。国道20号沿いに多々ある日帰り入浴施設を考えたが、比較的最近にできたと思われる入浴施設がすぐ近くにあるので行ってみた。白州・尾白の森名水公園という施設内にある「尾白の湯」で、主要道から離れているせいかそれほど混んでいなかった。源泉の露天風呂は肌に柔らかくよい湯で、二人とも男湯と女湯とで涼風に吹かれながら長湯をしたのだった。
2009/10/4

回想の目次に戻る ホームページに戻る


Author:i.inoue
All Rights Reserved by i.inoue