八幡平 八幡沼  背後は岩手山

八幡平頂上のバス停から山道に入ると、真っ青な空を映す小さな池が次々と現れ、ほとりには紅葉した木々が彩りを添えている。懸命に歩けばすぐだが、今日はこのあたりを散策してから茶臼岳下のバス停まで、穏やかな秋の日和を楽しみつつ散歩気分で歩いていく。


八幡平には三つのビューポイントがあって、いわゆる八幡平頂上と、源太森、それに岩手山の眺めの良い茶臼岳がそれに当たる。だいたいの人は八幡平頂上まで来て八幡沼を見下ろして帰っていくようだ。沼を回って源太森まで来る人はまれであり、茶臼岳に至ると誰もいない。そこに着いたときは日暮れ前だったからかもしれないが。
その茶臼岳の下のバス停で最終バスを待っていたら、ちょっとよそ見をしていたくらいの間にバスに通り過ごされてしまった。赤いテールランプが無情に遠ざかる。しかたない、車道を歩いて下りるか、といったん思ったが、ヒッチハイクを試みると親切な方が停まってくれ、山麓のユースホステルまで送ってもらうことができた。車でもそれなりの時間がかかったので歩いたらどうなっていたことか。大いに助かった。
翌日は再び八幡平頂上までバスで出て、今度は蒸ノ湯側に下る。二、三組のパーティくらいにしか会わず、静かなものである。樹林越しに焼山が見え始めると蒸ノ湯も近く、車道になった道を進んで後生掛温泉まで歩いていく。ここの浴場は一度は入ってみたいと思っていたところなので、焼山越えという計画も魅力的だったがこれは後日に回すことにして、早速入浴する。木造の古さびた造りのわりにはどことなく明るい感じで、泥湯だの蒸し風呂など滅多に入ることのできない風呂に浸かって時を過ごす。
たまたま泥湯にいっしょに入った男性は離れて暮らす私くらいの息子さんがいるそうで、しきりにいつ結婚するのか心配している。すでに結婚することが決まっていた私は僭越にも「誰しも結婚したいと思っていれば、時が来ればできるものですよ」みたいなことを言ったような気がする。うかがってみれば、息子さんは私と同じような職業(情報処理産業)だったので仕事の状況もほぼ同じらしい。「どうもコンピュータ関連の仕事ってよくわからなくてね」と言われるので、仕事の内容や特性(責任が重い、仕事が不規則等々)についても説明を試みる。納得してもらえたかどうか。


風呂上がり後、後生掛温泉裏にある火山活動現象観察、通称「地獄巡り」をしたのち、バスで友人らが待つ乳頭温泉に向かった。明日は明日で皆して乳頭山に登る予定なのだった。
1988/10

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