法華院温泉山荘前から大船山 

久住山と坊ガツル(二)

 宿に荷物を置いて早速坊ガツル散策に飛び出す。まだ湿原はキツネ色で春という感じもしない。山腹が新緑に覆われているのにどうしたことだろう。尾瀬のようにちょうど中央には川が流れ、そのへりに沿って拠水林が発達している。葉が茂っていない木々は枝振りのおもしろさがよくわかる。大船林道に沿って左右を眺めつつ歩く。
坊ガツル点景1
坊ガツル点景2 坊ガツル点景3
 静けさとほどよい明るさに嬉しくなってくる。一時間ばかり歩いて、さすがに寒くなってきたので宿に戻る。夕食を摂ってから風呂に入って暖まり、部屋に上がって持ってきたラジオで中波を聞こうとすると入りが悪い。試しにFM放送にしてみるとなぜかこちらの方が聞こえがよい。天気予報やニュースを聴き、そのままクラシック音楽の番組で流れるバイオリン独奏を聴きながら宿の売店で買った梅酒を飲んで寝た。


5/2 法華院温泉で停滞
 昨夜ラジオの天気予報で聴いたとおり本日も天気は朝から曇りだ。昼からは雨になるという。では降る前に計画通り大船山(だいせんざん)にでも、と朝食を摂って宿を出る。坊ガツルを横切り大船山につづく斜面を上がり出すと、これが樹林帯の中を行く見通しのわるい道になる。道は溝のように抉れ、あちこちに登山者の付けた迂回路がある。それに九州四日目でもう疲れたのか、身体に力が入らない。どうせこのまま登っていっても山頂はガスの中で見通しもなく、昨日の久住山や中岳と同じで山頂標識を見て帰ってくるだけになると思うと意欲がわかない。結局一時間も登らないうちに登るのをやめて見通しは悪いがちょっと開けた場所を選び、地べたに座り込んでお茶を湧かし出してしまう。ハイビスカスとオレンジピールのハーブティーで、気持ちがすっきりする。上から中年女性3人組が下ってくる。聞いて見ればやはり山頂は何も見えなかったとのこと。お茶を二度も入れて坊ガツルに下る。
道ばたにて 道ばたにて
 下ったところで再びお茶を入れる。それから宿に戻ろうとするが、やはり山に未練があって振り返ってしばらく平治岳をながめているうちに、少なくとも山頂が見えているあの山には登ってもいいな、と思い、また来た道を戻って登山口に向かうと、雨が降り出す。ここで本日の意欲は全て失せ、法華院温泉山荘に戻って部屋で寝てしまった。3時頃、従業員が部屋の外まで来て受付をするよう促すのにようやく目を覚まし、行ってみるとガラスドアを通じて食堂のテレビでサッカーJリーグのアントラーズ−ベルマーレ戦をやっているのが見える。そのままテレビのそばにかじりつき、5時まで動かずじまい。試合はホームのアントラーズがベルマーレを1点差で下したが、結局この一日は昼御飯さえ食べず、お茶とテレビでのサッカー観戦で終わってしまった。


5/3 九重山を出る
 法華院温泉での二回目の朝は今までの中でいちばん晴れ渡った空で迎えた。ようやく大船山の鋭角的なピークが顔を出し、三俣山も山頂まで晴れている。そういう日に限って移動日なのはどうしたことだ....と天候を恨んでもしかたなく、宿を後にして三俣山を東側を巻くように南から北へ、坊ガツルを出て長者原(ちょうじゃばる)に向かう比較的ゆるやかな尾根を乗っ越していく。進むに連れて、山に入ってくる人たちとすれ違うようになる。平治岳は法華院温泉からだと単独のピークに見えていたが、雨ヶ池越の峠が近くなればなるほど双頭の山であることがわかるようになる。そんな平治岳を右の坊ガツル奥に眺め、左手には頂までの浸食谷の切れ込みが鋭い三俣山を仰ぎながら雨ヶ池の湿原に出る。ここで坊ガツル周辺との眺めともお別れで、他の山が顔を隠していたのにひとり愛想良く毎日山頂部を見せていた平治岳もこれが見納めになる。
雨ヶ池越付近から平治岳(左)と北大船山 雨ヶ池越付近から平治岳(左)と北大船山
 しばらく行くと平坦な長者原の高原が見えてくる。だが道は広いものの樹林帯の見通しの利かないものになり、そのまま登山口までつづく。周囲が湿原というよりは草原になっている木道の道を通り抜けると長者原のバス停の前だった。
1998/5/1-3

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