ストラトフォード・アポン・エイボン散策シェイクスピアの妻アン・ハザウェイの生家

イギリスのストラトフォード・アポン・エイボンはシェイクスピアの生誕地として世界的に有名だ。ロンドンから一泊旅行するには手頃な距離でもあり、2004年冬の訪英のついでに連れと二人で足を延ばしてみた。ほぼ天候に恵まれ、よい旅となった。


ロンドンにいる外国人がストラトフォード・アポン・エイボンに行くというと、日本でいえば東京にいる外国人が日光に行くというのと同じなのだろうと連れが言う。パディントン駅の旅行案内窓口の女性が見せた表情がその通りだと教えている。しかし一日の運行本数が少ない直通列車の車内は土曜の午前中だというのに空いていた。バスや車で行くのが多いのだろう。約2時間と15分で終点の目的地だが、短いせいか楽しみにしていた車内販売はない。同じ理由でか一等車も連結されていなかった。
ところで、ストラトフォード・アポン・エイボン行きはパディントン駅からは出ない。切符を買おうとしたら「ここじゃなくてマリルボン駅に行け」。じつは見ていたガイドブックが古かった、とはいえわずか2年前のもの。そこにはパディントンからと書いてあったわけなのだが…。イギリスの列車会社は複数あり、運行元が変わって出発駅も変わったということなのだろう。
初日はシェイクスピア生誕の家を眺めたりしつつも、クリスマス前で賑わう町中散策で愉しんだ。言い方は悪いが田舎町を想像していたが、小さいながらも繁華街は洒落た町並みで、と思うと片隅には下町のような市場も立つ。すこし歩けばごく普通の住宅街だ。それでもロンドン市内とは違って、とくに中心街には白壁に黒い柱が目立つチューダー朝様式の家(もしくはそれをまねたもの)が目立ち、しかも新旧が混在しながら不調和を感じさせない。通りの名が書かれた地図さえ持っていれば、適当に歩いたところで迷うこともない。夕方にはエイボン川からナロウ・ボートが運河に入る様も見られた。
イルミネーションも愛らしい町並み
イルミネーションも愛らしい町並み
夜はこの地に本拠を構えるロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)の芝居を観た。シェイクスピアの”ジュリアス・シーザー”、舞台を現代に移し、メディアを表すプロジェクターを活用しての演出。群衆に手を振るシーザーの姿が映し出されて幕が開く前半の政治劇ではスーツ姿のシーザーやブルータス。暗殺のテロリズムが内戦に発展する後半の戦闘シーンでは迷彩服のブルータスやアントニー。現代世界の紛争地域での指導者交代劇を思わせる演出の幕切れ…。16世紀に書かれた芝居なのに現代劇を見ているようだ。言葉はわからなくても、メッセージは痛いほど伝わる芝居だった。


二日目は連れも承諾してくれたので町はずれまで歩いてみることにする。シェイクスピアの妻となったアン・ハザウェイの家というのが中心部から2キロ弱のところにあり、バスでも行けるのだが歩いていったほうが楽しかろうと、旅行案内でガイドを求め("Stratford walks")、これに従って歩いてみた(walk6 - Shottery & Anne Hathaway's Cottage)。
まずは住宅街のなかを抜ける裏道のようなところを歩かされるが、連れも言うように鎌倉の住宅地を歩いているような感覚で、どことなくくつろげる。やがて草サッカーをするようなオープンスペースに出て、再び住宅街を抜け、小さな川を渡ると、劇作家の妻の生家、藁葺き(茅葺き?)屋根の家の前に出る。
じつは本日のハイライトはここから裏手の丘に登るところだ。右手へ主要道を辿って左に別れる農道を上がっていくと、左右に牧草地が開け、背後に市街地が眺め渡せるようになる。観光客はもとより地元のひとの姿もない。一度こういうところに連れを歩かせたかったので、山中でも森のなかでもないが、まずは田園地帯のイギリスを見せられて満足といったところだ(別にイギリスが自分の故郷ではないのだが)。
くだりは別な道をたどったが、これが馬の蹄の跡も明瞭なぬかるみの道で、町歩きの足回りだった連れはやや困惑していたようだ。それでも最後には面白かったと言ってくれていたので、決して悪い一日ではなかったように思える。もっとも、わたしは「もっと景色を見なよ」とか文句を言い通しだったようだ。次はもう少し黙っていることにしよう。
市街地を見下ろす下り
市街地を見下ろす丘からの下り
前年の初夏にイギリスを訪れたときの経験としては、ショートウォークに関してはこのように現地の旅行案内(Tourist Information Centre,TIC) でガイドを入手して歩くのが一番確実なやり方だと学んだ。もっともこれには日程上の余裕が必要で、選べるルートも短いものに限られる。しかしTICで売られている現地ウォーキングガイドには歩程2〜3時間程度のものが多く、当日午前中に入手して午後の予定を立てるとしても、(見るべきものをすでに見ているのであれば)無理がないはずと思う。ただし、湖水地方やウェールズ、スコットランドなどの山を歩くには、現地入りする前の調査と準備が必要なことは言うまでもない。なんと言っても天候が変わりやすく、ガスに巻かれると危険なところも多いので。
2004/12/18~19

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