『贋The schizophrenic princessの闘病日誌(2)』

 肋骨の繋ぎ目邊り心臓付近に、鉄製の雲丹(うに)の存在があることを自覺したのは、一昨年の暮れでした。硬く尖つた刺がびつしりと生えた球體の、内部に滿ちた活火山のマグマが、とろりとろりとおいしさうです。駒*病院神經科の*山*丸醫師はわたしの知能テストと精神分析テスト結果を樂しんでご覧になり、あなたはあたまがいいんだからよくないことがひとつあつてもじゆずつなぎにわるいほうにかんがへないやうにしたはうがいいでせう、と言つた。腦波檢査の波波山山の線が描かれた白い紙の帶を、これは名古屋帶ぢやないから二重太鼓で結べますね、帶止めは緋色が似合ひますか、と尋ねるのを遠慮したのは偉かつたのでしたが、これを五線譜にしたらどんな音樂になるのかしら?と聞いたわたしに、前衛音樂で試みた人がゐますよ、でも、全然面白くないらしいですよ、退屈なだけなんですつて、と答へた。人間の腦波形を音樂にするとつまらないなんて、わたしはやつぱりさうなのね、と納得したものの、雲丹をおいしく戴く可能性が皆無であることを宣告された氣になり、それからは食べられもせず育つだけの雲丹がただただおとなしくありますやうに、と祈る修道女になりました。


 以下の民間療法を眞に受けてなりません。
専門醫に診て貰ひませう!!

『ニキビを除く法』

 ニキビは皮脂線の中へ脂肪が蓄積し、皮脂の排泄口をふさぐ為め、脂肪がバターの様になるのですから、先づ皮膚に適度の刺戟を与えてよく洗ひ、熱いタオルを温めて排泄口を開かせる様につとめるのが肝心です。次に膿を去らせるためには加里石鹸一、アルコール二十二、蒸留水十七の割合でまぜ、溶かした液でよく洗ひ、熱いタオルをあてて蒸し後五パーセントのサルチル酸アルコールを塗つて置けば除けます。俗にニキビの親といふ大きいのは毎晩就寝前五パーセントのベリウドル酸アルコールを筆でつけ、暫くして微温湯で石鹸を用ひて洗ひます。

『眉の艶をよくする法』

 艶出し油のブリリアンチンを指先きにつけ、眉なりに、よく眉の根元へすりこむやうにいたします。これを三日に一回くらゐの割りに行ひ、怠らずつづけますと、見違へるほど美しくなります。また緑茶の煎汁をつけましても、かなり効果があります。

(無斷轉載:昭和三年一月一日發行『婦人倶樂部』大日本雄辯會講談社)


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