『贋The schizophrenic princessの闘病日誌(1)』

 銀座『鳩居堂』前、夕刻6時、和服を召しまして大學の入學式以來の友人、雅子さまと待ち合はせで御座います。「おねえさん、此れからご出勤ですか?」とバーのカウンターの向かうから聲を掛けられたら、「只今、肋骨内に鉄の雲丹を飼育中で、酌婦の手先器用な振る舞ひなんぞもつてのほか、爆破したら銀座が焦土と化して戰爭犯罪人を誕生させるやも知れず、柳そよそよ、どぜうはうねうね、滿月の導く儘に生きるが正しうございませう」ときつぱり申し上げる所存です。


以下の民間療法は大變に危險でありますから、
決して眞似をせず専門醫に診て貰ひませう!!

『ナマズの療法』

 普通のナマズはサルチルサンアルコールを塗つてゐますと取れますが、最もひどいのは大黄を酢の中に付けたのを塗ると除り去ることが出來ます。然しナマズによく似たものに、惡性の病氣がありますから、これと混同してはなりませんから、その鑑別のためにも一度専門醫の診察を受ける方がよろしうございます。

『ハタケの治療法』

 ハタケの出來たときは、なるべく刺戟を興へぬやうにすることが大切で、そのため洗顔に石鹸をお用ひになつて居た方なら洗粉にかへるやうにいたします。そしてテール軟膏を薄く患部に塗り、その上に亞鉛化澱粉をたたきつけて置きます。なほ藥をとるにはオレーフ油を用ひるやうにし、取り去った後は必ず油性のクリームをつけて、決して皮膚を乾かさぬやうにすることが肝要です。

『ホクロを除く法』

 ホクロを除くには、十パーセントの苛性加里の液に糯米を五六粒入れて一晩おくと濃い舎利別になります。それを楊枝の先につけてホクロに塗ります。これをムクレニンといひ非常に効果があります。

        (昭和三年一月一日發行『婦人倶樂部』大日本雄辯會講談社)

 和服は寸胴でなければいけません。出る杭は打たねばなりません。♪鳩胸、げんなり、突き出さう、爽健美茶♪と歌ひ乍、締めるべき處を締め、耐へ難きを耐へて、見事なお姫様に變身するので御座います。用も無いのに和服で出掛ける、これぞまさしくコスプレで御座いませう。

                  


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