ピッキングパターン

 まず、絶対に看過できない筆頭必須項目としてアップピッキングを叩き込む必要がある。右手のアップ方向への視覚効果が過度にまで得られないとRB風に見えない!ことをまず肝に命ずること。シングルノートで比較的ゆったりしたソロフレーズを弾く場合は、まず9割かたアップピッキング(バッキングのシングルは結構も多い。以下,up、ダウンは,dpと表現)だ。べっ甲ピックとアップピッキングの組み合わせは、視覚効果に限らずあの独創的な引っかかり気味のピッキングトーンに近づけるための大幹を為すといっても過言ではなく、中心を癖づけずしてRB奏法の根源は成り立たないであろう。
 
 14歳の頃に唯一購入した市販の教本 によりブラックモアのピッキングはオルタネイト(間違いではないが・・)だというのを誇大・過大に認識してしまったため、実際のライブを見たとき「やられた!」と思ったものだ。とにかく方向への顕著な動きにショックを受け、ピッキングの大改革を断行すべく大鉈を振るった記憶がある。真のブラックモア奏法に近づくには独学によるほかない。以降、現在に至るまで一度もスコア(楽譜)を見てコピーした曲はない。すべて耳コピだ。
 R「バッハの曲を覚えようとしているんだけど、まだ覚えられないんだ。」
 C「まだダメなの?(笑)」
 R「”ラヴァーズ・コンチェルト”だけど知ってるかい?」
 C「♪ララララララララ・・・・」
 R「それだ。そのミドルパートに、典型的なバッハのスタイルで、音が凄く飛ぶところがあるんだよ。その音をまだ拾えない。」
 1996年のインタビューを抜粋してみた。当時51歳のブラックモアもバッハの耳コピに苦労していたようだ。Difficult To CureMaybe Next TimeCarry On...Jonあたりのスライドギターは,ほぼ100%upで弾かなければならない。

 かなり弾けるようになってから矯正したので、パターンを憶えるまでは結構苦労した。下弦(1弦)から上弦(6弦)方向へ移る場合、した場合はそのまま上弦もさせることが多く、ピッキング自体がかなり軽め(べっ甲使用のため強力なピッキングは必要ない)なことと相まって、右手の動きはかなりおとなしく、遠目には停止しているように見えるくらいだ。いわゆるエコノミーピッキングと呼称されている方法である。右記のパターンでスケールを弾くとかなりブラックモア風のピッキングとなる。ただし上昇についてはオルタネイトさせること。
 

 下図のみのフレーズ(スイープとかの俗称もあるようだが)で5音で1サイクルのラン奏法で、ピッキングについては1サイクルにつきアップ方向に緩慢に1回上昇しているだけのように見える感じだ。そしてRun奏法におけるピッキングにおいても同様にPull Offを活かしたエコノミックによる技法(Love's No Friend 1979.12.1中間部solo)は、フルピッキングとは趣きが異なり、RBの特徴的なピッキングの風貌(もちろんトーンも含み)を醸し出すひとつの要素といえよう。         
     
 

    

 ソロに伴うキメのトライアドピッキングもChild In Timeクラスの上昇速弾きはオルタネイトしているが、BurnKill The KingA Light In The BlackCan't Happen Here あたりの下降パターンでは若しくはと弾いている。
 
   キメのリピートフレーズ

 得意の2歩上がって1歩下がる的なコード分散上昇フレーズにおいても、はっきりエコノミーピッキング実施の映像が残されている。例題は'84来日時のI Surrenderソロの一部を抜粋したものを挙げたが、下弦(1弦方向)への連荘(スイープ)を避け、アウトサイドピッキングを活用してでもとしていることからことからも、エコノミーピッキングは上弦(6弦)方向へ 連荘が癖づいていることが伺える。
  
 上記のとおり、上弦(6弦方向)への移動にはエコノミーピッキングを連発するブラックモアだが、下弦(1弦)方向へはチョッピングを除きほとんど行っていない。つまりのエコノミーピッキングをイングヴェイマルムスティーンの如く思う存分に行ってしまうと、ピッキングの風体は全くRBらしからぬ動きとなり、どんなばかテク模倣ギタリストのRB楽曲アドリブ映像を見ても奏法模倣マニアとしては、違和感強烈にて興醒める結果となり鑑賞途中で切断してしまう。

    
          

 もちろんバッキングアルペジオ等の際に下弦方向へオールダウンピッキングをしているが、速度的にスイープ・エコノミーといった類のピッキングパターンとは別物であると解する。(フィンガーアルペジオについてはこちらを参照)
 
 
 定番の完全4度リフは6弦ルートは、4度(もしくは3度等・・)のダブルノート部分はで弾いている。Knocking At Your Back DoorMan On The Silver MuntainAll Night LongMiss MistreatedSpotlight KidBurnKill The Kingあたりはすべてそうだ。といいつつ、Foll For The Nightではベース音を2回ピッキングしてからコードの重音を弾くため、オルタネイトしてコード部分はしている。Smoke On The Water はオール(初期の頃はフィンガーpも使用)
 Spotlight Kid のパワーコード下降リフもオール(1982年、1984年時、1995.10.9デュッセルドルフ公演ではしてるのが確認できるが、1995.11.11代々木及び1997年の米国ライブでは5度ではなく、ルートのみをオールしている。2016年のRainbowではパワーコードをオール、2017年はルートのみをオール。相変わらず常に変化させている)だ。結局完全な法則はなく、本人のみぞ知るってとこだろう。





 コードでよくかき鳴らしている。特にタウラスのベースペダルを踏みながらのコードワークは目だってその大半(単発、連発に関わらず)をにてかき上げる。さらにコードはクセでよくシャカジャーンと鳴らす。シャカの部分は軽くブラッシングする。
      
     

       
 
 また、フレーズの冒頭をから弾き始めることも非常に多く、ブラックモアスタイルの重要な要素だ。アドリブまで含めるとあまりにも膨大な数にキリがないが、映像で確認がとれる数例のキメフレーズをあげてみよう。 
 Lazyは(upでスタート、下図左上参照)でフレ−ズを弾き始めるのが、Machine Head LiveやRainbow Japan Tour '84で確認できることから間違いなく癖であろう。すべてのピッキングパターンまで完璧には網羅できないが、このLazyメインフレーズは4つのフレーズから構成されており、すべてで弾きはじめる(1980.8.16ドニントンAll Night Longの導入前奏部で下図のLazyメインフレーズ左下をupで弾き出すのを確認済)と予想される。Wring That Neckも同様にメインフレーズの一部をから弾き始めるパターンを取っている。
 大根底はオルタネイトだが、過度の過信は禁物だ。かなりの確率で連続、エコノミーを実施しており、模倣する側は、意識してを心がけたい。速弾きが顕著になってくる後年のアドリブフレーズについては、チョッピング気味に軽くノイズのをかましてフレーズ自体はからといった感じのピッキングが頻繁に見受けられる。

          

       
 
 ここで、手癖アドリブフレーズ方面からも主眼の匠を検証してみよう。下図はデュッセルドルフ'95のTemple Of The KingのAm中間ソロより
              (↓は抜粋)
 
              

        

 以上のとおり、16回のに対し、たった4回のに留まっている。ポジションアップ後のFフレーズに至ってはオールの結果に終わっている。当該参考フレーズに限らず全般を通して大体同様の比率にてピッキングしているようである。更にを隣接する2弦に渡って交互に連発させる場合(上図N〜Q)は経済的なインサイドピッキングが多く、見た目のピッキングに派手さはいささかもない。(ピックアップチェンジはフレーズごとに実施して派手だが・・・)

  
 さて、今まで全く
意識していなかった概念にインサイドピッキング、アウトサイドピッキングなる分類付けがあるらしいことを知るに至り、意識してRBのプレイを考察してみた。典型例として隣り合う2弦でしつこく連発させるキメ上昇にLong Live Rock'n Rollソロ冒頭を検証してみた。予想どおり移動負荷の少ないインサイドピッキングで1・2弦をあしらっている様子が確認できた。また、上昇後のパターンは当然エコノミーupに切り替えて対応する。映像で確認するまでもなく容易に想像(指癖までコピーした者にとっては当然のごとく)できるRB奏法オタク旧知の必然ピッキングパターンである。
 
 ただし、未確認であることを前提での推論となるが1弦飛ばしのオクターブを交互に連打(etc.5弦5フレと3弦7フレなど)するポジションの場合は、邪魔な真ん中の弦による障害を物理的に回避できることから、移動距離が長くともアウトサイドピッキング使用と推測するのが自然であろう。

 ここで少し解釈は難解にして戸惑うこととなるが、3弦跨りの上昇パターンにRB風の癖パターンを求めてみる。前述した完全オルタネイトのChild In Time ほどのスピードが要求されない3→2→1弦の上昇の場合はどう弾いているのか。
 長年想像で単発の場合はオルタネイト、連続パターンの場合は最初はオルタネイトさせ2回目以降はと結論づけて弾いていた。つまり、フィンガーポジションから考えられたと思われる手癖として70's年代によく出てきたPictures Of HomeWring That Neck(Live)、Mistreated(On Stage)などに登場する無調性フレーズ(←参照)は、一発目のみオルタネイトさせ2回目以降は......とハイポジションへ上昇していくのがブラックモアらしく弾きやすいと10代後半頃から続けてきたが(ちなみにマルムスティーンなんかはと弾いているのをビデオで見たことがあるが、前述どおりブラックモアが手癖でのエコノミーをどうしても連発するとは思えなかった。要は上向きに対してのみ癖付いているための結果であろう。でも恐らく本人はオルタネイトのイメージで弾いていると思われ、他人から指摘されても否定する位の希薄さと想像される。)、Machine Head Live1972 のDVDを改めてじっくり見たところ、Lazyの後半にてバックにペイスのリズムのみでソロをとっている部分でこの定番上昇フレーズが登場し、上記の方法で正しくピッキングしている。(正しく弾き始めの5・4・3弦、4・3・2弦部分はオルタネイトし、1・2・3弦安定ポジション以降は1発目のみオルタネイトし2回目以降は方向へ緩慢な動きにてリピート・・・を確認) 早い話が1番弦から3番弦へ移るのに2番弦を飛ばしてエコノミーを実施していることになる。
 
      

           

 さて、アップピッキング大好きブラックモアだが、(ダウン)のみのプレイもないわけではない。70's年代のHighwway Starバッキング、Space Trukin' のクロマティックなメインリフ、Lay Down, Stay Downリフ、Power中間部のシングルリフ部分、Do You Close Your EyesMandrake Rootのメインリフあたりはオールダウンで弾いているのが確認できる。これら映像で目視できた各曲のリフを(ダウン)でコピーして長期記憶として癖付けたなら、映像で確認する術がないFreedomInto The FireThe ShedMidtown Tunnel Visionあたりもリフで弾かざるを得ない(物理的ではなく心理的に・・)ことに容易に気がつくはずだ。開放弦使用のミドルテンポリフ(のみでゆったり弾けるテンポ)に顕著に出現するようである。
 The Clock Ticks Onのライブでは、サビの転調に伴うクロマティック上昇フレーズをオールでピッキングしていることから、ゆっくり目の同様フレーズが出てきたらダウン連発で弾いて問題ないだろう。また、ライブSpace Trukin'(1974及び再結成Purple)の途中で出てくるリフで、ダダダ・ダダダ・ダダ・ダ、ダ、と6・4弦のオクターブを弾く、ブラックモア独演ソロ中にキメのパートがあるのだが、これも「オールしてるめずらしい」ってアップ中心のピッキングを認識し始めた当時思ったものだ。Mistreated(70年代live後半テンポアップ部分)Still I'm Sad(70年代live イントロ部) あたりのオクターブリフも同様だろう。

          

 それともうひとつ、Since you been goneのメインリフは当然空ピッキングを交えつつ完全オルタネイトで弾くが、MTV用のビデオプロモーションでは、イントロの弾き出し部分のEコードカッティングで1回だけ連続dp()で弾いている。再結成Rainbowあたりでは、昔に比べてシングルのバッキングプレイ時(Black Masquerade等・・)にが増えてきたように思えるが、Blackmore's Nightのエレアコでは再び中心となる。あくまでメンタルな部分なので、本人はなんらなんかほとんど認識していないであろう。自分が弾きやすいように弾く・・だけだ。
 
 Q:あなたの右手のピッキングについて教えてください。
 RB:常にアップとダウンのストロークだよ。アルヴィン・リーは常にダウンで弾くけど、あれは間違い。難しいだけだ。このテクを身に付けることが重要なんだ。私はいつも楽屋で練習している。開放のまま、弦から弦へと延々とピッキングするんだ。これだけでも結構難しいよ。(1978年当時のインタビューより抜粋)
 このことから自分のピッキングスタイルがに重点があることへの認識度は低そうである。基本的にソロフレーズ等の手癖はが染み付いていると断言してよい。Smoke On The Waterソロ定番、1弦8Fチョークのクイックスタッカートピッキングあたりは完全オールで実施だし、1970年のビデオDoing There Thing、Mandrake Rootではメジャースケールを9割以上、フレーズによってはオールで静かにフレージングしている。

            

 微妙なニュアンスに影響があることから、単なる音符なぞりではなく繊細なピッキングトーンまで含有させる完全模倣派のプレイヤーは意識改革を図り、本人同様のピッキングスタイルを癖付けずして再現の道程は険しい。資機材より技巧(プレイスタイル)の攻略こそが最重要課題なのである。