妖華−女神館の住人達
 
 
 
 
 
第七十九話:解放奥義
 
 
 
 
 
「だいぶ手慣れたわね」
 汗ばんだ白い裸身を灯りの下にさらしながら、シビウが囁いた。
 中から艶が湧き出してくるようなその肢体は、最高級のシャンデリアさえも貧相に見える。美について、いかなる異論も許さぬような身体だが、その上にいる男には勿体ないかもしれない。
 たわわな胸を愉しみながら、
「寝ても垂れないよね」
 観察する口調に、美貌の女医の顔に僅かな苦笑が浮かんだ。
「男と女が上手く行く最大の課題、知ってるかしら?」
「もちろん。気が合うかどうかだ」
「不正解よ」
 さっきまで乱れに乱れていたとは思えぬ口調で言うと、青年を上に乗せたままひょいと起きあがった。
「身体の相性に決まっているでしょう」
「即物的だな」
「現実的、と言って欲しいわね。今日は時間は空いているの」
「出国まではまだ時間があるよ。テストは問題なかったみたいだし」
「あれだけ授業を放り出していながら、テストが毎回満点の優等生では教師はたまらないわね。少しは教師の立場を考えた事があって?」
「頼りになる補助の教師にはいつも感謝している」
「本当に?」
「うん」
 結構、とシビウは頷いた。上半身を起こしたが下半身はまだ繋がったままである。
「では、今日は少し私に付き合ってもらうわ」
「オペでも手伝うの」
「いいえ、魔道の初歩よ」
「魔道」
「男と女が交わること−陰陽の交差からすべては始まるわ」
「はあ」
 何となく頷いた表情が変わったのは、
「そう、取りあえず百回から」
 と言う言葉を聞いた時であった。
 僅かに眉の寄った青年を愉しげに見やると、
「どこまで私を愉しませてくれるか、みせてもらうわよ」
「いきなりそこまで行くか?」
「半分までなら楽でしょう?無理なら後は私がいかせてあげる。さ、たっぷりと付き合ってもらうわよ」
 妖艶にシビウが微笑んだ途端、すべての襞が生き物のように動き、急激に締め付けて来たのをシンジは知った。
 アンコール=ワット見物が中止になったのは、それから数日後の事であった。
  
 
 
 
 
「まだ立てるか」
「何の事ですの?」
「いや、何でもない。ちょっと待って」
 シンジは首を振り、携帯を手にしてボタンを押した。
 二回で出た。
「俺だ。二人分の道具を持ってこい」
 それだけである。俺が誰なのか、そして何の道具なのかもここの場所さえ告げずに切った。
 さすがにすみれが呆れて、
「い、碇さん…あれだけで分かるんですの」
「分からなかったらクビだ」
 ちょん、と手刀で自分の首を切る真似をしてから、
「届け物が来る。来るまで少し待っていようか」
 ベッドの方を指差した。
「碇さんがそうおっしゃるなら、わたくしは構いませんけれど」
 だが、すみれの足元を見たシンジの目に、ある種の光が浮かんだ事にすみれは気付かなかった。
 さりげなくだがシンジの真横に腰を下ろしたすみれに、
「親父殿は何と?」
「お父様?もう、戻ってこなくてもいいそうですわ」
「娘を要らない、と」
「そ、そうではなくてあの…お、お前にはその…め、女神館の方がいいだろうとお父様はその」
 いくら何でも、重樹に言われた事をそのまま伝える訳にはいかない。少しばかり早口で告げたすみれに、
「そう。じゃあ、向こうに戻る必要はなくなったか」
「ええ」
「ところですみれ」
「何ですの?」
「一人でしたことある?」
「一人で…?」
 意味を掴みかねて首を傾げ、二秒後にその首筋まで赤くなった。
「わ、わたくしがそ、そんなことっ…そ、そんな…」
 勢いよく否定したが、途中から弱くなった。既に知られている事に気付いたのだ。
「しかし殆ど進んでない。この分だと−そうだな、公演の前後か」
 分析するように言ったシンジに、
「ど、どうしてそれをっ!?」
「一度自慰に目覚めると後は癖になる。時間の空き、感情の乱れ、妄想と多少の道具だけで出来る自慰はそれを埋めるのにもってこいだ。しかしすみれの躰はさして開発されてない。だとしたら罪悪意識があるか、或いは回数が殆ど無いせいだと踏んだ」
 そこまで言ってから、がらりと口調を変えて、
「すみれちゃんたら、えっちさんなんだから」
 冷やかすような口調に顔を赤くしたまま、
「わ、わたくしだけじゃありませんわっ。ほ、他の方だってきっとっ」
 とんでもない事を言い出した。
「見たの?」
「み、見たことはありませんけれど、そ、そんなわたくしだけ…」
「しない、となればそれも問題だけどね」
「え?」
「アイリスとレニは別として、もう十八にもなるかと言う娘が、自分の躰の構造に興味すら持たないのは少し尋常じゃない。処女は墓場まで持っていく物じゃないよ。これはある医者に言われた事だが、性を悪みたいに考えてると、間違った性知識しか持たなくなるそうだ」
 無論、その時の教師が全裸で悩ましげな肢体を曝していた事は口にしない。
「そう…なんですの」
 頷いている所を見ると、邸にも教えようとする者はいなかったらしい。
「そう言うことだ。さて、少し時間があるな」
「え、ええ…で、ですわね」
 時間、で何かを妄想したらしく、また顔が赤くなった。
「じゃ、してみて」
「…は?」
「自分でしてみせて、とそう言ったの」
「どっ、どっ、どうしてわたくしがそ、そ、そんな事をっ」
 興奮のあまりか舌が空回りしているすみれに、
「間違ってると困るから」
「ま、間違い?」
「いじるのは自分の躰だとは言え、単に快楽を与えればいいってものじゃない。間違った自慰は悪影響も出るんだ」
「ほ、本当に?」
「嘘言ってどうするのさ」
「あぅ…」
 そう言われてもさすがにすぐには頷けなかったが、ややあってから小さく頷いた。
「い、碇さんがそう言われるなら…い、いたしますわ」
「うん」
 軽く頷いたシンジに、
「あ、あの…む、向こうを向いていてくださいな。ふ、服を脱ぎますので」
「脱がないでいいよ」
「え?」
「素っ裸でするよりはいいでしょ?だから下着は着けたままで」
「え、ええ」
 乱れた下着は全裸より淫ら−唆した方はそれを知っており、操られる娘はそれを知らない。
 シンジが気を使ってくれたのかと、
「じゃ、じゃあ服だけでも…」
「スカートだけでいい」
「ス、スカートだけって…」
 そう言いながらも、すみれは震える指でスカートにに手を掛けた。
 ホックが外れて、ゆっくりとスカートが床に落ちる。
 スカートが床にわだかまったところで、下半身が無防備になった為かすみれは両手で前をおさえた。
「では」
「え、ええ…」
 これよりオペを開始する、そんな口調で促したシンジに、すっとすみれの手が動いてベッドに乗った。
「いつものようにやってみて」
「わ、わかりましたわ」
 ぎこちなく手が動いて、最初に触れたのは自分の乳房であった。無論、シンジの言うとおりブラウスは脱いでいない。
 男がしたらさぞ女は乾くに違いない、そう思われるほどぎこちない動きに、
「自分がするようにして。もっと力を抜いて」
 こくんとすみれが頷くと、徐々に手の動きが変わってきた。
 初めて女の胸に触れた掴むような動きから、包んでなで回すような動きへと変わってきたのだ。
「言霊?けん玉の一族か」



「言葉には霊が宿る、と言う事よ」
「下らん寝言だな」
 シンジは一言で斬り捨てた。
「そんな寝言を院長から聞くとは思わなかったぞ。言葉にそんな物があるなら、言論の自由はもっと力を持っている筈だ」
「じゃあ、訂正」
 妖艶な院長は微笑してあっさりと翻した。
「言葉に力を持たせればいいのよ」
「そうすると」
「先端恐怖症でメスが近寄ると暴れ出す子供でも、借りてきた猫のように黙って治療を受けるし、使い方によっては産みの苦しみさえ大幅に軽減できるわ」
「俺には関係ない分野だな。後は」
「そうねえ」
 わずかに首を傾げてから、
「処女にオナニーさせるとか−それも、本性そのままにね」
 ルージュをうっすらと塗った赤い唇から出ると、その単語だけでも達しそうな感すらある。
「それは便利だ」
 ふうん、とやっとシンジは興味を持ったように頷いた。
 
 シンジが使ったのはそれであり、このままならすみれの手はロボットのような動きを続け、乾ききった所で手が止まっていたろう。
 なで回す動きで既にブラはずれており、ブラウス越しにも硬くなった乳首の形が見えている。
「はあ・・あ…んっ…」
 吐息が荒くなるのと同時に指の動きも激しさを増し、まるで男がするみたいに激しく掴み、揉み立てている。
「ふあっ、ああっ」
 不意にすみれの口から声が洩れ、気付いたかのように慌てて口をおさえた。
「だから着てって言ったんだ。すみれ、ブラウスの端を口にくわえて」
 言われるままブラウスの端を噛むと、即席の猿ぐつわもどきが出来上がる。
「これで声出しても大丈夫。さ、続けて」
 どうやら、ブラウスを着させたままだったのは、このためだったらしい。
「ふーっ、ふーっ…んん…」
 噛んだ歯の間から息だけが洩れ、ついにはボタンを引きちぎるようにして外し、直に乳房を揉みだした。
 指の間から硬く尖った乳首が溢れ、それを指の間でこするたびに息は荒くなる。
 シンジの表情は変わらない。
 黙ってみているその視界には、既に中から溢れてびっしょりと濡れているパンティが映っている。
 不意にすみれの手が下半身に伸びた。もどかしげに下着の中へ手を突っ込もうとするのへ、
「持ってごらん」
「う゛い?」
 ブラウスをくわえたまま、すみれがこっちを見た。
「前の膨らんでる所に指を当てて−そのままきゅっと押す」
「あっひいいっ」
 ぷにっと押した先は敏感になりすぎている秘所であり、押した途端甲高い喘ぎがすみれの唇を割った。
「そのまま下着を持ってきゅっと絞る」
 言われるまま前を持ったすみれに、
「上にぎゅっと引いて」
 シンジが指示した途端、
「ひぎうっ!?」
 敏感になっている箇所をぎゅっと擦られ、思わず上げた声には痛みも幾分は含まれていた筈だ。
 だが快感が痛みを遙かに上回ったようで、片手は乳房を揉んだまま、片方はパンティを持ってぐいぐいと擦り続けるすみれ。
「いい?」
「い、いいですわっ、な、なかまで当たってす、すごくっ」
 既に声を殺す事など完全に忘れ、自分へ快感を与える事だけがすべてになっている。
 しかし開脚状態のそれがシンジの方を向いたままなのは、やはり見られている事の意識も何処かにあるのだろう。
「はあっ…あっ、あっ、ま、また…またわたくし、あああっ」
 夢中で下着をしごくすみれの手元からは、淫らな水音さえも聞き取れる。薄れかけていた淫らな空気が急速に、部屋全体へと充満してきた。
 そして。
 不意にシンジが微笑った。
「生娘にどこまで快楽が増大するか、見せてもらうとしよう」
 
 
 
 
 
「シンちゃんがすみれを連れていなくなった?」
 無論ミサトの元へも、神崎忠義が死亡した一報は届いている。ただし、その前にシンジがすみれを奪還しに出た事は届いていない。
 本邸のフユノやミサトと違い、シンジがボディガードを嫌がるのだ。
 それでも最初は大事な体だからと付けようとしたが、
「じゃ、俺より強かったらね」
 文字通り人間の山が築かれて諦めた経緯がある。
 だから、その意味では女神館の住人達の方がシンジの動向には詳しいと言える。
 最初は家に帰ったと思ったが、病院へ行った様子もなく女神館へも帰っていない。もちろんここへも来ていない。
「いったい何処へ…」
 メイド達を放って探させようと部屋を出た所で、一人のメイドがスーツケースを持っているのに出くわした。
「舞、あんた何処行くのよ」
「先程若様からお電話があって、ホテルまで変装道具を持ってこいとご命令になられました」
「ホテル?変装道具?ホテルってまさかラブホテル…ってそんな訳無いか」
 勝手に自己完結したミサトに、
「いえ、発信源からお探ししたのは確かにラブ…うぐっ」
「ラブホテル?すみれと一緒にいるのっ!?」
 一気に宙に持ち上げられ、急速に気道を圧迫されてかすかな息が洩れたところへ、
「痛っ」
 ミサトの手に何かが飛んだ。
「ば、婆様」
「止めぬか愚か者。まったく見境を無くしおって」
 激しく咳き込んでいる娘の首に手を当て、
「大丈夫か?」
「は、はい私は大丈夫でござ…ご、御前様」
 喉元にすっと手を当てたフユノに勿体ないと手を外そうとしたが、それをフユノが押さえた。
 赤い痕が消えるのを確認してから、
「誰かある」
「はいっ」
 五人の娘達が姿を見せ、
「二人は舞の手当をしておやり。それからお前達三人はスーツケースをシンジの元へ届けよ」
「かしこまりました」
 すぐに娘達は動き出した。
 運搬役の娘達が消えてから、
「何を考えておる」
 フユノはちらりとミサトを見た。
「シンジがすみれを抱く、かは分からぬ。儂の知る所ではない。だが、お前が今行けば私は孫を一人喪う事になる。女が腕にいる最中を妨げられ、笑って応じるシンジではないぞ」
「だ、だけど…だけどっ」
「リョウジがもうすぐ戻ってくる。お前ももう現実の世界へ戻っても良い頃じゃ」
「誰があんなのとっ」
 ぐいと目元を拭ったミサトが、どすどすと足を鳴らして部屋に戻るのを黙ってフユノは見送った。
「シンジに比べれば足元にも及ばぬ−とは言え、弟に真剣に懸想したのは歴代でお前一人じゃ」
 フユノの呟きは無論誰にも聞かれる事は無かったが、違う意味でもミサトは逸材らしい。家系に一人などそうそう出ないものなのだ。
 
 
 
 
 
 すっと立ち上がったシンジは、激しく身悶えしているすみれへと歩み寄った。
 顔には笑みがあるが、まだ破顔してはいない。
 持った足首は、普通ならその中心へと押し入る動きだ。
 だが違った。
 何を思ったかシンジは、その足首を外側へ思い切り曲げたのだ。どうみても乙女が快楽の絶頂から醒め、苦痛に悲鳴を上げる行為である。
 しかし悲鳴は上がらず、ごきりと音がする事もなかった。
「あり得ない、絶対にあり得ない事だ」
 外科医が見たら絶叫するに違いない光景が展開した。見られながら、男の目にさらされながらの自慰に激しく燃えている乙女の肢体が、決してあってはならない方向へと曲がっていったのだ。
 乳房は膝の横にあり、肘は足の裏と触れている。
 そして何よりも…真っ赤に上気した顔はたった今まで掴まれていた筈の濡れた下着のすぐ前にあったのだ。
 つう、とシンジの指が動くとパンティはあっさりと割れた。じゅる、と音を立ててそれを引き剥がすと、ようやくすみれが気付いたように手を動かす。しかし、まだ事態には気付いていない。
「いいものをあげる、目を閉じて」
 目を閉じたすみれに、
「そのまま舌を出して顔を前に」
 あり得ぬ角度に曲がった肢体であり、赤い舌の先にはこれまた赤く鬱血した秘所と、ぷっくりとふくれた突起がある。
「きゃふううっ!?」
 多少身体が柔らかく細身なら、前屈して自分の性器に鼻先位は触れるかも知れない。
 だが誰が自分の性器を、それも下から舐め上げる事が出来るだろうか。
 すみれの舌が自分の性器に触れた途端、ぴゅるっと吹き上げた飛沫がその鼻へとかかった。
「気持ちいいこと−そう、そのまま舐めて」
 
 
「痩せてない?」
「大丈夫よ」
 ムンクの叫びみたいに自分の頬に手を当てたシンジに、シビウは嫣然と笑った。
「百一度よく保ったわ、お見事よ。どうしたの?」
「最後の方は覚えてないんだけど」
「少し私が愉しませて貰ったのよ−そう、私のやり方で」
「?」
「どんなテクでもスタミナでも、所詮は三次元の快楽に過ぎないわ。でもそれを解放した時、得られる快楽は文字通り無限大にも近くなる。もっとも、人間がそれを行うのはかなりの危険が伴うわ」
「俺に試したの?」
「あなたがおかしくなる、と少しでも思う事を私が試すと思って?あなたなら、十分耐えられると思っていたわ。ついでだから、かけ方と醒まし方も覚えて行きなさいな」
 
 
 シンジがすみれにかけたのは、文字通りシビウから身を以て教えられた術ではない。
 シンジだから持った、とシビウが告げたものを、そのまま乙女に施すほどシンジも愚かではなかった。従って術自体は、大幅に軽量化されている。
 それでもすでにすみれの口からは火のような息だけが洩れ、その代わりに舌使いと指使いは動物のようなものになっている。
 そして十分後、
「らめっ、もうらめえっ、ああーっ」
 町内の大音量コンテストに出たらいいところ行きそうな声を上げて、すみれは再度失神した。
 ただし、今度は数日間目覚めない事をシンジは分かっていた。
「藪院長にかけられたが、人にかけたのは初めてだ。いい物をみせてもらった」
 ゆっくりとシンジの顔に深い笑みが浮かび、口許を涎と愛液で一杯にしているすみれの頬にそっと口づけした。
 奇妙にねじ曲がった肢体をゆっくりと元に戻していくと、すみれの顔にはやはり苦痛の色もなく元に戻っていく。
 そしてついには最初の状態へと戻り、そこには全身を染めて失神している乙女が一人いるだけであった。
「普通の者なら記憶はすべて飛ぶと聞いている。相手が俺であっても、いきなりの公開自慰など覚えて居ない方がいい。だが。取りあえず念を入れておくか」
 股間から溢れた液は膝近くまで流れており、シンジはすみれを抱えるとバスルームへと入っていった。
 軽く全身を流して痕跡を消し、また抱えて出てきた所でドアがノックされた。
「海」
「遭難」
 よく分からないがこれが合い言葉らしく、シンジがドアを開けるとスーツケースを持った娘が立っている。
「すぐ分かった?」
「五分ほどかかってしまいました、申し訳ありません」
「いい。ご苦労様」
「あ、あの…」
「どうした」
「ミ、ミサト様がその…」
 言いよどんだ口調にシンジは事態を知った。
「分かった、一度顔を出すよ」
「はいっ、お待ちしております」
 喜色を浮かべて娘が去った後、
「表に出す時までメイドにしなくてもいいだろうに」
 ぶつぶつと呟いてからスーツケースを開けると、変装用具が入っている。
 しかしその後の行動は早く、十分ほどして表に出たのは、暗そうな男が眼鏡娘を背にして出てきた図であり、すみれとシンジを気にして早めに切り上げて来た住人達を待っていたのは、
「すみれは泣き疲れて眠ってる。鎮静剤を射ったから当分起きないよ」
 と言うシンジの言葉であった。
 そのまま丸々一日眠り続けたすみれが目覚めたのは、翌日の昼頃の事である。
 
 
 
 
 
(つづく)

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