最初のページに戻る


アルムの生活雑感

 原作を読み、高畑ハイジを観、スイスのこともぼつぼつ調べました。

 
 高畑監督は、
「もともと生活に対する関心はアニメをやるうちに強まっていったんです。TVシリーズの「ハイジ」や「母をたずねて三千里」は、人々がどういう風に生きているのか、朝起きて何をするのかとか、食べ物とか、その場所その時代の生活のサイクルを知らないとちゃんと描けない。僕も宮さん(注:宮崎駿監督のこと。以前は高畑監督のスタッフだった)もそこに強い関心があった」
 と語っています。(キネマ句報1992/12/15 高畑勲インタビューより)
 

 高畑ハイジは、アニメとしては初めて現地ロケを行い、原作の背景となっているイメージを具体化しようと試みています。その舞台設定の多くは、いまでは高名となった宮崎駿が設定していたようです。

 確かに「ヤギ二頭で生活を維持し必要なものを手に入れることができるのだろうか」と疑問に思うのももっともです。
 それで私なりに少々調べてみました。いずれも深い内容があり、とても調べきれませんが、わかった範囲で随時、詳しくしていきたいと思います。

ヤギについて
 
黒パンと白パン
 
ヤギのチーズ


 ヤギについて

 

 ヤギはヒツジとくらべて活動的で粗食に耐え、極端な温度変化や湿度にも耐えられるそうです。
 牛などに比べると飼育設備も簡単ですみ、農作物ができない貧しいアルプスの高地で飼うには最適です。

 
 ハイジに登場してくるヤギは調べてみるとザーネン種だと思われます。
 スイスのザーネン渓谷原産の乳用種で、毛色は白、角はないものが多く、やせて優美な体型で乳房の発達がよく、年間700kgの乳を出すそうです。優秀なヤギは1500kgに達することもあるそうです。
 

 スイス人の年間乳製品消費量はおよそ500kgという資料を見つけました。
(日本は約70kg)
 生活習慣が違い食料のバリエーションも少ない十九世紀末なら、もっと消費量が増えるかもしれませんが、まさか倍にはなりますまい。
 

 原作では「シロ=スワン」も「クマ=小熊」もおんじの手入れがいきとどいているそうです。
 ヤギ二頭がだせる乳は1.5トンから二トンになるでしょう。
 おんじ一人が暮らしている場合、自分の消費量を除いて販売にまわせる乳は2-3人の年間消費量に匹敵するわけですから、その分の収入があるはずになります。
 

 また、高畑ハイジではいろいろと物語をふくらませていますが、前から疑問になっていた点として、「ユキちゃん」が処分されそうになるエピソードがあります。

 乳は当然自分の子供に飲ませるために分泌されるもので、出産しなければいくら優秀なヤギとはいえ乳がでるわけないと思ってました。
 

 ところがヤギは春先に生まれ、その年の秋にはもう繁殖可能になるのだそうです。
 ユキはハイジが山に来た年の春に生まれたので、もうその秋には交配されて、冬の間に出産を経験しているとすれば、つじつまはあいます。
 あんな子ヤギにもう子供がいたとは少々意外ですし、その子供についてはなにもふれられません。(どちらにせよ悲しいお話ですから、ふれようがないですね)
 無理をさせたから、なかなかユキの体が大きくならず、処分されかかったとすれば、またまたつじつまがあいます。

 
 さて、日当たりのよい山のまきばの牧草はふもとよりも質がよいのです。
 夏の間十分に青草をたべさせ、運動させてまるまると太ったヤギは、秋を目前にして多くが売られたりして食肉にされてしまいます。

 
 冬は、夏の間にふもとでかりとった質の劣った枯草しかありません。
 新しく子ヤギも生まれてきます。
 食料がなくなる前に、もっとも太った状態で処分するのは合理的です。
 

 悲しいですが春にハイジが「みんないる」と再会を喜ぶことはないようです。ヤギは二歳の肉がもっともおいしいそうで、ユキがハイジが来た翌年の秋に処分されそうになるのはスケジュール的にぴったりなのです。

 

 そうすると問題になるのは「ちいちゃん」です。ヤギのことを調べるまでは気にならなかったのですが、ちいちゃんは秋に生まれています。これはつじつまがあわないのです。

 高畑ハイジは実に緻密に作られていますが、終盤にきてハイジの性格が若干変化するなど疑問点もあります。
 過酷な制作スケジュールが影をおとしたのかもしれません。

外部リンク 畜産ZOO鑑 - 山羊  
http://group.lin.go.jp/data/zookan/kototen/site/site_y.htm
「ねこバスちゃン様へ 公式サイト様の掲示板でご紹介いただいたサイトを
リンクさせていただきました。わかりやすいです。ありがとうございます)」


 黒パンと白パン

 

 白パンは現在普通に食べられている、精白した小麦を使ったパンです。
 また、黒パンは寒冷地で生育できる、ライ麦やえん麦を精白しないで作られます。

 
 麦の種類が違い、成分が異なっているので、黒パンはイーストなどでも十分に膨らまず、焼きあがっても硬くどっしりと重たいパンになるそうです。
 
 でも玄米食がそうであるように、胚芽やふすま(おから)が入っているので、ビタミンや繊維質が豊富で、白パンより栄養のバランスがとれています。もともと高地では十分な野菜がとれないが、ハイジが乳製品と黒パンだけの食生活でも問題ないのはそのせいのようです。
(実際の十九世紀のアルムの食生活についてはもっと調べてみたいですね)
 

 白パンは焼きあがりがもっともおいしいがすぐに風味が落ちて、変質してしまいます。一方、黒パンは焼きあがりから三日あとぐらいがもっとも食べごろだそうです。もちろんさらに硬くはなります。
 

 ハイジが古い白パンを衣装戸棚に大量にかくしていたのも、あまり白パンを食べたことがなく、黒パンと同じように日保ちすると考えていたのではないでしょうか。ロッテンマイヤーさんのかんちがいしたような「頭の悪い子」ではないのですから。
 

 原作ではクララを手助けしたことでペーターにもハイジにも経済的に余裕がでてくるのですが、白パンばかりを食べてはペーターのおばあさんの健康状態は心配になります。
 高畑ハイジでは、ペーターに年金を支払う話などはなく、うまくそれが回避されているのでしょうか?
 

 現在そうであるように、健康に注意する人以外は玄米食をしないように、黒パンもなかなか見当たりません。
 また、ライ麦などのおかゆ(オートミール)も、黒パン以上に貧しいアルプスの農民の間で食べられていたそうです。
 ペーターの家の食卓で食べていたのがそうなのでしょう。


(追記 白パンですが、どうやらマーガリンをねりこんだ白バターロールの可能性が高いようです。さすが富豪・ゼーゼマン家の食事です! )


 ヤギのミルクとチーズ

 

 山羊のミルクを飲んでみました。チーズも食べてみました。(爆笑)
 ええ、そうなんです。私はそうとうなおっちょこちょいなんです。

 

 ハイジに登場してくるチーズはバター(脂肪)とチーズ(たんぱく質)を分離していない「ヤギのクリームチーズ」です。
 これは腐りやすく保存性が悪いためあまり遠くまで流通できず、商品価値は低いそうです。

 この当時、冷蔵庫はないので、ミルクやバターは缶詰にし、加熱殺菌して商品にしていました。
 流通させるためにはそれなりの設備が必要ですが、山の上にあるわけもありません。
 

 ハイジの続編を別の作者が書いたもの「それからのハイジ」に寄宿学校に入った14歳のハイジのもとにおんじからヤギのチーズが小包で届くのですが、すでに変質していて、そのニオイでおおさわぎになるというエピソードがあります。

 
 私も近くのお店でヤギのクリームチーズを見かけて食べてみましたが、ハーブとガーリックがたっぷり入っていて、もともとの風味はさっぱりわかりませんでした。
 相当塩もきかせてあり、すこしすっぱい味がして、まあまあおいしかった。

 ミルクの方は東北自動車道の山形付近で友人が買ってきてくれたものを飲んでみました。
 コクがあって、おいしかった。ちょっと感動です。
 ヤギ臭さはまったく感じませんでした。 

 アルムの山でしぼりたてならもっとおいしいでしょうね。さらに「良い草」を与えたらどんな味になるのでしょう。

 動物園で飼育されている山羊の乳を、ペーターのやるように直接飲まされたら「まずくてはきそうになった」という記事をネット上で読んだことがあります。
 その山羊はきっと青草なんか食べられず、ストレスもたまっていたのかもしれません。


 それから私の飲んだ乳は、生乳なのですぐに脂肪分が分離して容器に少し付着してしまいました。自然のクリームバターです。
 これもパンにつけて食べてみました。おいしかった。でも取り残しがあって、数日してみたら変質していて、そのニオイは・・。 書くまでもないですね。

 
 おいしいものは早く食べましょう。?!