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研究紹介 2


紹介したい資料(一部未収集のものがあります)

題名 ハイジ像――その立身出世 Heidi, Karrieren einer Figur.

著者:
Halter, Ernst (Hrsg.)作家エルンスト・ハルターが中心になって編まれた論集
出版:Z
ürich  発行:2001

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川島論文より引用)作家の没後100周年記念論集。作家・作品そのものへの研究のみならず、受容史研究に大きなスペースが割かれているのが目を引く。そこでは、各国語への翻訳・翻案、映像化、さらには観光産業の問題にまで及ぶメディア横断的な視座が確保されており、現代の児童文学研究にとっての一つのスタンダードが示されていると言えよう。また白黒・カラー図版を多数収録しており、古今東西の『ハイジ』の版に添えられたイラストの歴史が概観できるようになっている。ヴィジュアル的にも魅力的な一冊である。

[以下、Halterと略記]

題名 ヨハンナ・シュピーリとその作品――読みの多様性 Johanna Spyri und ihr Werk-Lesarten.

著者:
Schweizeriches Institut für Kinder- und Jugendmedien (Hrsg.)スイス児童メディア研究所編(略称 SIKJM)
[
スイス児童文学連盟(Schweizerischer Bund für Jugendliteratur)とスイス児童書研究所(Schweizerisches Jugendbuch-Institut)が統合されて2002年に発足。「ヨハンナ・シュピーリ文書館」(Johanna Spyri-Archiv)が併設されている。]
出版:Z
ürich 発行:2004

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川島論文より引用)作家の没後100周年記念を機に2001年7月にチューリヒで国際会議「ヨハンナ・シュピーリとその作品」が開催され、その内容を2004年にまとめたもの。日本からも板東悠美子と高畑勲が参加し、それぞれ日本での作品受容の状況と、アニメーション版TVシリーズ『アルプスの少女ハイジ』(1974)の制作の経緯について報告を行った。上記ハルターの論集とは執筆陣が一部共通しており、各国における受容史の紹介に力を入れている点など、テーマ設定も似通っている面がある。強いて比較するならば、全体としてやや専門性が高いと言えるだろう。さらに「付録」としてシュピーリの親戚・知人宛の書簡45通を収録しており、資料集としての性格もある。

[以下、Lesartenと略記]

題名 ヨハンナ・シュピーリとマルリット、孤児の世紀
   Johanna Spyri, Marlitt und ihr verwaistes Jahrhundert.

著者:
Halter, Ernst エルンスト・ハルター
掲載:Halter 9-27頁

説明
川島論文より引用)同時代の女性作家マルリット(本名オイゲーニエ・ヨーン、1825-87)とシュピーリを比較しながら時代背景を考察している。保守的な傾向をもつシュピーリに対し、マルリットは自由主義的で女子教育にも積極的であった。その明らかな方向性の相違にもかかわらず、作品内に「孤児」が頻繁に登場するのが両者に共通して見られる特徴である。これは19世紀文学全般の特徴をなすものでもあり、繁栄をきわめた「市民の世紀」が内に抱える実存不安を象徴しているのだという。


題名 チューリヒの自由主義政権と葛藤する保守的家族
   Eine konservative Familie im Konflikt mit Zürichs liberalem Regiment.

著者:
Helbling, Barbara バルバラ・ヘルブリング
掲載:Lesarten 11-44頁

説明
川島論文より引用)1848年前後の激動する政治状況の中にシュピーリを位置づける。その際、ヘルブリングは主な資料として、作家の兄で自然科学者であったクリスティアン・ホイサー(1826-1909)の手紙を用いている。結婚後にシュピーリ夫妻が暮らすことになるチューリヒでは1840年代中ごろから自由主義政権が成立していたが、夫妻とその親族は反対陣営に属していた。作家本人が表立って政治の世界に触れる機会はついになかったものの、1852年にその夫となる弁護士ベルンハルト・シュピーリ(1821-84)は、保守系の『スイス連邦新聞』(Eidgenössische Zeitung)での編集・執筆活動を通じ、活発にリベラル派への攻撃を行っていたのである。
付録としてクリスティアン・ホイサーの家族宛の書簡を収録


題名 『ハイジ』成立に関するニュース――ある女性の生涯の反映としての作品
 Neues zur Entstehung von Heidi. Das Werk als Spiegel einer Frauenbiographie.

著者:
Schindler, Regine R・シンドラー(スピリ伝記作家 1997)
掲載:Lesarten 45-62頁

説明 リンク
川島論文より引用)作家が愛読したゲーテやドロステ=ヒュルスホフ、同時代で交流のあったケラーやC・F・マイヤーなど、作品に影響を与えた可能性のある文学者たちとシュピーリの関わりが簡潔に総括されている。間テクスト性に着目して『ハイジ』にアプローチする場合、これらの記述が一つの前提となるだろう。他に、作品成立当時の作者の交友関係についても若干の考察がある。


題名 作者と主人公――ハイジは第二のヨハンナか? 作者本人に責任がなくもない風評
 Die Autorin und ihre Figur. Ist Heidi eine zweite Johanna? - Ein Gerücht, an dem die Dichterin nicht unschuldig ist.

著者:
Schindler, Regine R・シンドラー
掲載:Halter 47-63頁

説明
川島論文より引用)作品の登場人物としての「ハイジ」と作者の単純な同一視を戒めつつも、作品内に描かれた家族像と作者自身の家族関係を比較してみせている。


題名 活動的な少女たち/感受性の強い少年たち―ヨハンナ・シュピーリの児童文学作品について
 Energische Mädchen - sensible Buben. Zu den Kindergeschichten von Johanna Spyri.

著者:
Rutschmann, Verena V・ルッチュマン
掲載:Lesarten 91-106頁

説明
川島論文より引用)
先行研究の問題意識を踏まえたジェンダー論的考察として範例的なものであると言える。同時代ドイツの児童文学作家オッティーリエ・ヴィルダームート(1817-77)や同時代イギリス児童文学との比較を通じて浮かび上がるのは、作者シュピーリが明瞭に保守的な立場をとっていたにもかかわらず、その多くの作品に描かれた少年少女たちが、実は伝統的な男女役割のイメージを逸脱・破壊しているという点である。(ルッチュマンは論集の序文も書いている。)


題名 “Gott sitzt im Regimente / Und führet alles wohl.
    “ Zu den Kinderbüchern von Johanna Spyri.

著者:
Rutschmann, Verena V・ルッチュマン
掲載:Halter  207-219

説明
川島論文より引用)ハルターの論集でもルッチュマンは、やはりヴィルダームートとの比較を通じ、『ハイジ』の宗教的要素を考察している。


題名 Johanna Spyris Sina im Kontext des zeitgenössischen Mädchenbuchs.

著者:
Ettwein, Aliceアリス・エットヴァイン
掲載:Lesarten 63-89頁

説明
川島論文より引用)女性の大学教育のテーマを少女小説の分野で扱った先駆作として、シュピーリの長篇『ジーナ』(1884)を取り上げる。スイスのチューリヒ大学では1864年から女子の就学が実現していた(これはヨーロッパではパリに次いで二番目に早い)が、シュピーリは大学での女子教育に反対していた。医学を志しながらも夢を諦めて結婚する女主人公を描く『ジーナ』は、基本的には同時代の女性解放の流れへの反動として位置づけられる。 しかし作品のテクストからは、単なる保守性のみに回収されない作者の複雑な立場もまた読み取ることができるとエットヴァインは論じている。 特に、三児の母であったエミリー・ケンピン・シュピーリ(彼女は当初、医学部を志望していた)がチューリヒ大学法学部へ入学した経緯に触発された可能性を、J・ヴィランが示唆している。Villain (1997), S.283. [これは2001年の国際会議で発表されたものではない]


題名 早くから目覚めた、医学へのヨハンナの関心
  Johannas früh erwachter Sinn fürs Medizinische.

著者:
Villain, Jean J・ヴィラン伝記作者
掲載:Halter 65-81頁

説明
川島論文より引用)シュピーリ作品に頻出する心身両面の「病気」のモチーフを、作者の家庭環境および市民家庭の抑圧的な雰囲気と関連づけた上で概観する。ヨハンナの父と祖父は医師であり、彼女は幼少期から医学的なものに触れる機会があったと考えられるという。なお、
その生育環境が一種のトラウマを残した可能性について、Fröhlich / Winkler (1986), S.17-39で論じられている


題名 虚弱な母たち、傷ついた父たち
    ――ヨハンナ・シュピーリの児童文学作品における肉体的病気の描写と機能
  
Schwache Mütter, verletzte Väter.
  Darstellung und Funktion physischer Krankheit in den Kindergeschichten Johanna Spyris.

著者:
Fluri, Yvonne イヴォンヌ・フルーリ
掲載:Halter  83-93頁

説明
川島論文より引用)シュピーリ作品における「病気」を伝記的要素に還元するのではなく、文学的に特殊な意味を担わされたモチーフとして考察する。シュピーリの描く女性が(病名の詳らかでない)「虚弱」に悩みがちなのに対し、男性は事故などで負傷するとされるケースが多い。これは、フルーリの見解によると、女性を「弱き性」として表象する19世紀の男女観を反映したものに他ならない。


題名 山に名前はない――長篇『ハイジ』における地理的・社会的・美学的な空間
   “Berge heissen nicht“. Geographische, soziale und
ästhetische Räume im “Heidi“-Roman.

著者:
Escher, Georg ゲオルク・エッシャー
掲載:Halter 277-289頁

説明
川島論文より引用)作中に描かれたアルプスの山と都会フランクフルトという二つの空間の対立関係に注目しつつ作品を精読している。その読解によると、作品世界の中心に暗黙のうちに位置しているのは(具体的・明瞭には描かれない)「都会」であり、その空間との対比が、辺縁としての「山」の文明批判的な価値を創出するのだという。


題名 ハイジ――アルプスの小さな神 Heidi. Die kleine Berggottheit.

著者:
Gros, Christopheクリストフ・グロ
掲載:Halter 115-129頁

説明
川島論文より引用)ややエッセイ的な内容ながら、「ハイジ」の物語がスイスの国家意識のため「神話」として果たしたイデオロギー的性格に着目しつつ、ハイジ像にまつわる現象を広く概観して啓発的である。


題名 ハイジならリンゴに命中させたか?  Hätte Heidi den Apfel getroffen?

著者:
Müller, Christine クリスティーネ・ミュラー
掲載:Halter 131-139頁

説明
川島論文より引用)スイス人の国民的アイデンティティーにとって「ハイジ」と「テル」とが担う機能の違い、特に男女において異なる意味合いを、深層心理学(ユング心理学)のモデルにもとづき分析する。

この同じ著者には他に、シュピーリ作品における女性像を考察した以下の論文がある。
題名 
Warum Heidi nicht erwachsen wird. Oder die Frauenbilder der Johanna Spyri.
掲載:Fundevogel 148 (2003)  35-56頁


題名 Eingeborene im Paradies.
   Die literarische Wahrnehmung des alpinen Tourismus im 19. und 20. Jahrhundert.


著者:
Hackl, Wolfgang ヴォルフガング・ハックル
掲載:T
übingen  発行:2004 78-84頁

説明
川島論文より引用)19〜20世紀におけるアルプス旅行の文化史というテーマを扱った2004年の著書の中でシュピーリ作品を取り上げ、文学作品に描かれた伝統的アルプス像の「通俗化」という観点から論じている。


研究紹介 3

研究書 紹介 2

 現在のハイジ・シュピーリ研究で、事実上の中心になるのはHalterLesartenの二つの本のようです。
 研究紹介2と3は、主にこの二冊の内容を川島論文にもとづいて整理しています。

 高畑監督のスイスの会議での発表内容をずっと知りたいと思っておりましたが、Lesartenによって、ようやく入手できました。しかも表紙に高畑ハイジの絵本の表紙が使われているのは、なんと名誉なことではないでしょうか!
 しかしながら、同じ本に収録されたそれ以外の研究がすごくて、そちらに目をうばわれそうです。

 Halterの方も、マンガ・いがらしゆみこ版ハイジをとりあげて詳細に分析し、龍野さんの「HeidiPage」や、クラフトマンさんの「ハイジ大百科」のサイトも紹介されているのです

 どちらの本も視野が広く、このような研究がしたかったのが、このサイトを作成している動機の一つです。
 どんどん面白くなってきます(^▽^)

2006/1/15