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ハイジ関連 音楽・詩1 原作編


 ハイジに関係のある「歌」や「詩」を集めてみました。
 スピリの母親、メタ・ホイサーは詩人で、スピリ作品にも数々の詩や歌が登場します。
 また、高畑監督も音楽に造詣が深く、調べてみればみるほど奥深さに驚くほかありません。

 音楽素養のない者が作成するには、もっとも困難なハイジ関連のデータ紹介分野ですが、できるかぎりすすめてまいります。
 また、翻訳のないものについては私訳も試みたいと思います。

 多くの情報の欠落・誤りが発生すると思いますが、どうか皆様のご指導を伏してお願い申し上げます。 


紹介したい資料(一部未収集のものがあります)

題名 Die güldne Sonne, voll Freud und Wonne
   
(お日様の歌) (黄金の太陽、よろこびとさいわいに満ちて)


作詞 : パウル・ゲルハルト Paul Gerhardt 1607-1676  1666発表
作曲 : ヨハン・ゲオルグ・エーベリングJohann Georg Ebeling 1637-1676 (その他バッハ BWV 451 1748の曲もあり)

説明   (歌詞・翻訳) リンク(mp3 楽譜など) (参考・ハイジは歌う1 )

 パウル・ゲルハルトはドイツ・ルター派の牧師で、歴史上の讃美歌作者の中で最高峰と一部で評価されるほどの詩人。
 ウィッテンベルグ生まれ。前半生で30年戦争を経験。44歳で牧師となりベルリン大教会で重要な存在となる。しかしルター派とカルパァン派の抗争により免職され、地方の小教会でひっそりと晩年を送る。
 
その詩は近代の主観的・人道的傾向をも含んでいるといわれる。バッハも多くの曲をつけている。
 ゲルハルトの詩は、ナチスや冷戦への抵抗にも登場し、シュヴァイツー博士も大きな共感をよせている。

ハイジ原作 第一部でフランクフルトから帰ってきた
ハイジがペーターのおばあさんに、初めて読んであげる詩として、ハイジの中では最も重要な詩。全12節あるが、作中では1,2,8,12節を使用
アニメ高畑ハイジ第37話「山羊の赤ちゃん」でも大意を損なわないよう短縮して使用されている。

エーベリングのメロディーは素朴で、ハイジが歌うのに、ふさわしいように思える。
作中に引用されていない部分では、多くの苦難も表現され、それらが乗り越えられたあとの、平安と救いを歌い上げている。


題名 Befiehl du deine Wege (おのが道を委ねよ)(讃美歌No.290 : よろずを治らす1954版)

作詞 : パウル・ゲルハルト 1656作 旧約聖書詩篇37.5(ダビデの歌)に触発されたという
作曲 : ゲオルグ・フィリップ・テレマン Georg Philipp Telemann1681-1767 発表1730
その他作曲1・ヨハン・セバスチャン・バッハ Johann Sebastian Bach 1685-1750
その他作曲2・讃美歌は ヨハン・ミハエル・ハイドン Johann Michael Haydn 1737-1806 訳:由木康1896-1985「きよしこの夜」も訳した

説明  (参考) リンク(曲テレマンmp3 楽譜など) よろずを治らすmidi
多くの作曲家が曲をつけていて、ゲルハルトの詩の中でも有名な一つ。日本でもごく普通に教会で歌われている。
「ゲルハルトの黄金の竪琴で奏でられた詩の中で、もっとも慰めに満ちたものであり、多くの魂にとって蜜よりも甘美である」(ラウクスマン)ともされる。
テレマンは後期バロックの作曲家。当時はバッハの人気をしのいだ。この曲は、リヨン採集の民謡(1547)が原曲。Bartholomaeus Gesiusゲシウス(1555-1611)が1603に曲にして、後にテレマンが編曲した。

バッハは、渾身の大作「マタイ受難曲Mattha:us-Passion BWV244」の第44曲 コラール・あなたの道を(イエスの裁判場面)の歌詞に使用している。(旋律自体はハンス・ハースラー1564-1612が作曲した別の曲をゲルハルトが利用し、それをさらにバッハが使用) このメロディーは讃美歌136ちしおしたたる と同一

ハイジ原作第2部3章「恩がえし」で、
ハイジがお医者様をなぐさめるために「そらでうたいはじめた」詩である。
全12節のうち8-10の三節を使用。
ペーターのおばあさんが「心がまたやすまる」といい、お医者様が子供のころ母親の腕につつまれながら聞いていた歌。

フランクフルトでクララのおばあさんが、ハイジに「御心にゆだねよ」と教えた内容が、そのままこの歌によってハイジからお医者様へと語りかけられている。

また高畑ハイジでハイジが初めてペーターのおばあさんと会ったとき(第10話おばあさんの家へ)に、本を開いて「読めないわ」という顔をする。そのとき見つめたページがこの詩の8、9節だった。 
高畑ハイジでお医者様とのエピソードが改変されたため、使用されていないはずだったが、瞬間だけ登場していたことになる。

日本で訳されて歌われているのは4節までのため、ハイジに使われていたのと同一の詩であったとは、ほとんど知られていない。


題名 Bei dir, Jesu, will ich bleiben (あなたのそばへ、イエスよ、我はとどまらん)

作詞 : カール・ヨハン・フィリップ・スピッタ Karl Johann Philipp Spitta 1801-57 発表1833  全6節
作曲 : 作曲者不明の民謡の旋律であったものを1735年に発行された讃美歌集に初めてスピッタの詩を乗せて発表されたもの

説明  (参考) リンク(曲mp3 楽譜など)
スピッタは19世紀ドイツ最大の讃美歌作者。ハイネと親交があった。別の曲だが日本での讃美歌(1954)No.431 君を知る家の幸よ O selig Hausを作詞し、英訳もされて世界的に歌い継がれている。

原作第 2 部の第 4 章「デルフリの冬」で冬の寒さとハイジになかなか会えないペーターのおばあさんのさびしさをなぐさめるためにハイジが読む詩。
自分の代わりに読んでもらおうと、ハイジはペーターをなかばおどかすようにして字を教えるきっかけとなった。
作中ではハイジはすべてをおばあさんに読んであげるが、詩として掲載されているのは最後の2行だけである。

19世紀の詩のため、ペーターのおばあさんが持っている「古い詩集」に載っているのは矛盾があるが、かえってよほどスピリがこの詩を愛好したのだ。と、推測することができる。ハイジ原作での、短すぎる引用も、そのためかもしれない。

アニメ高畑ハイジでは、46話「クララの幸せ」でクララがペーターのおばあさんに読んであげる。クララが初めて人のために役立つことができると感動する時の詩であり、原作と同じ最後の2行だけを使用。 (ねこばすちゃんさまのご指摘です)
(06/1/12にドイツの教会でプロとして演奏経験がある、オルガニストのK様より作曲の情報をいただきました。ありがとうございました)


題名 Gott will's machen (神はものみなすべてをはかりたもう)

作詞 : ヨハン・ダニエル・ヘルシュミット Johann Daniel Herrnschmidt 1675-1723 全9節
作曲 : ヨハン・クリストファ・キーナウ Johann Christoph Kühnau 1786  (キーナウのスペルについてK様よりご指摘ありました)

説明  (参考) リンク(曲mp3 楽譜など)
ヘルシュミットはドイツ敬虔運動の初期の伝道家。別の曲だが日本での讃美歌(1954)No.20 も作詞している。

ハイジ原作 第 2 部の第 6 章「遠くの友だちが動き出す」でペーターのおばあさんがクララが来ることを聞き、ハイジがつれさられるのではないかとを不安を沈めるために読んでもらう詩。作中では最初の1節だけを掲載している。

アニメ高畑ハイジでは、46話クララの幸せでクララが朗読している。
原作と同じく一節だけと、上記のスピッタの詩の終わりの2行と組み合わせて一つの詩としてクララに読ませている。
おそらく原典を知らなかったであろう高畑監督の苦心がうかがわれる。どちらの詩も、スピリ原作に掲載されている分だけでは短すぎるのである。


題名 不明 (ABC 教え歌)   詳細不明。調査中。

作詞 : 不明
作曲 : 不明

説明  (参考) リンク(グーテンベルグ)
ハイジ原作第二部第5章「長い冬」で、ハイジがペーターに字を教えるために教える歌。

まったく背景不明で、しかも内容が暴力的・抑圧的・差別的なので、現在では悪評高い「歌」で、原作の弱点のような部分

グーテンベルグ版電子テキストでは
「Vergessen H I K, Das Unglu:ck ist schon da. 」となっていて「J」が抜けている。
日本の訳文では
「ハー イー ヨット カー を わすれたら  そら もう ひどいめにあうぞ」とある。
そして、現在参照した手持ちの最も古いドイツ版(1925)では
「I」が抜けている。
英語版はどれも「HIJK」がそろっており、日本語訳も同様だが、ドイツ語版は参照した十数冊すべてが、「どちらかが」欠けている。 

L様からのメールによる指摘によると
(前略)
アルファベットに関してですが、おそらく昔は「J」はないのが普通だったのだろう、と思います。
(つまり、「I」と「J」は元々同じ字だったからです。)
今たまたま手許にドイツの古い絵入り教科書(1803年初版の復刻)がありまして、そこにアルファベット学習用の詩が文字ごとに載っていますが、やはり「J」の項は欠けています。

悪名高い『ハイジ』のアルファベット歌は、多分自作なのだろうな・・・
と思いますが確証はありません。子どもがいたずらで作っている替え歌みたいな雰囲気がありますね。
この歌は、「教育」というテーマで『ハイジ』を論じてみる場合、もっとも論じがいのありそうな箇所でもあります。第一作であれほど念入りに、クララのおばあさんを通じて理想的な教育のあり方が追求されていたというのに、それを一挙に無にするような暴力的な内容が、単に「ひどい」というより何かしら、『ハイジ』という作品およびシュピーリという人について根本的に重要なことがらを示唆してくれているような気がしますので。
(後略)
ありがとうございました。すごいです。まさにそのとおり。
なお、暴力的「歌」ですが、スピリの別作品「グリトリのこどもたち」あるいは「母の歌」などで、もっとひどい子ども達の遊び歌を収録しています。これは一種のスピリの現実の子ども達の「生態」記録であり、それをあえて収録した一種の芸術的チャレンジかも?。



ハイジ関連 音楽集1 


 



訂正前の文章です。

ハイジ原作第二部第5章「長い冬」で、ハイジがペーターに字を教えるために教える歌。

まったく背景不明で、しかも内容が暴力的・抑圧的・差別的なので、現在では悪評高い「歌」で、原作の弱点のような部分であるが、奇妙な点がある。
グーテンベルグ版電子テキストでは
「Vergessen H I K, Das Unglu:ck ist schon da. 」となっていて「J」が抜けている。

 日本の訳文では
「ハー イー ヨット カー を わすれたら  そら もう ひどいめにあうぞ」とある。
 そして、現在参照した手持ちの最も古いドイツ版(1925)では
「I」が抜けている。
 英語版はどれも「HIJK」がそろっており、日本語訳も同様だが、ドイツ語版は参照した十数冊すべてが、「どちらかが」欠けている。 
 スピリの表記ミスかもしれないと想像でき、そうならばこの歌はスピリ作の可能性が強い。
 実に興味深い。