バンド界に住む妖怪伝説

                    バンド界に住む妖怪伝説


突然ですが、皆さんは、妖怪の存在を信じますか。
朝から晩まで照明に照らし出された現代社会で、そして“真の暗闇”の存在さえ知らない 世代がいる今のご時勢で、どれぐらいの人が妖怪の存在を信じているでしょうか。
しかし、目には見えないけれど、確かに妖怪はいるのです。暗闇の中に身を潜め、じっと 世間を窺っている妖怪が、あの路地裏にも、あの物陰にも、そして、あなたのすぐ後ろに も。
今日は、そんな妖怪のうち、バンド界でよく見かける妖怪のことをお話ししましょう。
ただし、ここで聞いたことは他言無用です、どんなタタリがあなたに降りかかるかもしれ ませんから・・・。

●妖怪「イッタントメン」
バンドでは、一度演奏を始めたら、いくら行方不明(楽譜の進行を見失うこと)になって も、途中で演奏を止めないのが鉄則です。なぜなら、止めなければ客は「変な演奏だな」 と思うだけですが、止めてしまうと「あ、失敗したんだ」とバレてしまうからです。だか らバンドマンは、なんとしても終りまで演奏しようと努力し続けます。
しかし、この妖怪「イッタントメン」が心の隙間に忍び込んだとたん、「一旦、止めん?」 と、弱気になってしまうのです。そして、その誘惑に負けて演奏を止めたが最後、店から 「ダメバンド」の烙印を押されてしまうという、バンドマンにとって恐〜い妖怪です。

●妖怪「コネ娘」
店の専属歌手やホステスさんの中に、「可愛い娘がいるな」と思って、ついチョッカイを出したら、 ナントそれが、店の偉いさんのコネで入った娘で、それを報告されてひどい目に遭った・・・ そんなことがあったら、それは間違いなく、妖怪「コネ娘」が、知らない間にあなたに 憑りついていたのです、油断大敵!

●妖怪「口裂けオーナー」
バンマスが、自分だけネカ(給料)アップしてもらえるよう店のオーナーに直訴して、「こ のことはメンバーには内緒にしといてください」と言ったら、オーナーからは「大丈夫、 口が裂けても言わん」と、色よい返事。
ところが、実際には、給料は上げてもらえず、直訴したことだけがメンバーに知れ渡って いる、ということがあったら、それは相手が本物のオーナーではなく、オーナーに化けた、 妖怪「口裂けオーナー」だったのです、ご用心。
しかし、本物のオーナーも見た目はほとんど妖怪と変わらないので、どっちが本物か判別 するのは至難の業です。

●妖怪「キタロウ」
この妖怪は、突然バンド部屋の戸をガラリと開けて、「俺のバンドでバンス(給金の前借り) 持ち逃げした奴、このバンドに、来たろう?」、と言って入ってきます。
そんなときは「いいえ、来とりまっせん、知りまっせん」と3回唱えれば、素直に帰って 行く、大人しい妖怪です。ただし、隠し立てをすると後でタタリがあるので、この妖怪 「キタロウ」に対しては、なるだけ知らん顔をしているのが得策です。

●妖怪「ナジミ男」
バンド部屋に、まるでメンバーの一員のような顔をして座っています。あまりにも馴染ん でいるので、メンバーも「誰、こいつ」と思いながらも「誰かの知り合いかな」と、つい 油断をしてしまいます。演奏が終わってステージから降りて来たら、なんか物が無くなっ ていた、ということがあったら、間違いなくこの妖怪「ナジミ男」のせいです。

●妖怪「ろくどっ首」
これは昔バンドマンをしていた妖怪です。でも、あまりにも演奏が下手だったので、バン ドを六度もクビになり、とうとう、妖怪「ろくどっ首」になってしまったのです。
しかし、妖怪になってからも、バンドマンになる夢が忘れられず、どこかのバンドからパリヒ(引 っ張り)に来ないかなと、首を長〜くして待っている、可哀そうな妖怪です。

●妖怪「目玉おじや」
貧乏なバンドマンが作るおじや(雑炊)は、あまりにも具が少なく水気が多いので、自分 の目玉がおじやの表面に映ってしまいます。そして、その目玉をじっと見ていると、切な く哀れな気分になって、つい、バンドマンを辞めようかと、弱気になってしまうのです。
しかし、それは実は、おじやの中に住んでいる妖怪、「目玉おじや」のせいなのです。それ が証拠に、その目玉をよく見ると、自分は泣いているのに、その目玉は笑っていますから。 そんなときは、妖怪を追い払う呪文を唱えます、「チャバラモイットキ、チャバラモイット キ」。これで妖怪退散、間違いありません。

いかがでしょうか、皆さん。
現代の人間たちは「自分の目に見えないものは存在しない」という、思い上がった考えに 支配されています。しかし本当は、見えないのではなく、見ようとしていないのです。
自分の手さえ見えない真っ暗闇に身を置き、神経を研ぎ澄ませ、心の目を開いてごらんな さい。あなたの周りにいる数知れない妖怪たちが「やっと見つけてくれたな」と、声を掛 けてきますから。

この妖怪伝説、信じるか信じないかは、あなた次第です・・・。