バンドマンよもやま話・第2回「歌を忘れた?バンドマン」


                    バンドマンよもやま話
                 第2回「歌を忘れた?バンドマン」

                               元キャバレーバンドマン・伴堂 満さん

なんや最近、ジャズのステージで、ジャズマンが歌う、みたいなこと、あんまり見かけ んようになった気ぃがしますんやが、どないでっしやろ。今日は、そこらへんのよも やま話を、少しばかり。

昔は、バンドマンも結構、歌ぅてた気がします。歌うゆうても、キャバレーには 専属歌手がおるさかいね、その向こう張ってステージの真ん中に立って歌うなんてこと、 ようせん。曲のなかでバンドが歌うとこがある、それを声張り上げて歌う、みたいなモ ンでしたけど。

簡単なとこでは、「マンボNO.5」や「マンボNO.8」の掛け声。「オエコモバ」 ゆうんは、原曲みたく歌ぅてましたな。「クスリ・ルンバ」ゆうて、「コーヒー・ルンバ」の替 え歌があって、「アリナミン、エスカップ、オロナイン、パンビタン〜」て、あれは、 けっこう客にウケてました。

もっと昔は、歌うんで有名なジャズマン、けっこういてましたな。トロンボーンのジャッ ク・ティーガーデン、髪、真ん中分けして「ベーズン・ストリート・ブルース」なんて、 たいして上手いゆうもんでもなかったけど、雰囲気がおました。サッチモ、ルイ・アー ムストロング、こちらは、あの独特のダミ声で歌う「ホワット・ア・ワンダフル・ワール ド」、あれは永遠の名曲でんな、ほかにも、映画の中で歌う「ハロー!ドリー」とか、いっぱ い歌ぅてます。

チェット・ベーカーゆう方は、ラッパ吹きとしての評判より「マイ・ファニー・バレン タイン」の歌い手、ゆう印象が強いぐらいで。去年亡くならはった谷啓さんの、「林檎の木の 下で」、トロンボーンを吹いたあとに歌う「♪リンゴの木の下で、明日また逢いましょう・・・」、 あの声、温か味のある、なんとも言えんホンワカとした、優しい雰囲気がおましたな。

元々バンドマンは歌わへんのか、ゆうと、そうでもない。曲のメロディが思い出 せんとき、歌詞からたぐって思い出す、ゆうこともあるぐらいで。ただ、ポンニチ、日 本人のバンドマンにとって、英語の歌詞ゆうんは、舌はまめらへんし、それに覚えにくい さかいね、そんなんもあって、だんだんと、歌から遠ざかってしもたんですかいなぁ。

ほな、英語の歌詞を翻訳して、日本語で歌ぅたらええやないか、それがまた、上手い こといきまへんのやな。英語の歌詞には単語がいっぱい詰まったる、これを日本語でそ のまま表現するゆうんは、土台ムリな話です。「Don’t Get Around Much Anymore」な んて、「わてなぁ、最近、もうあんまり出歩かへんねん」て、どう頑張ったかて、メロ ディに収まりきらん。

ほな、どうするか。英語の歌詞の持ってる「心」をどう捉えるか、ゆうんが大事や、 思うんですが、これがまた難しい。
「All of Me」、ゆう歌がおます。
All of me, why not take all of me?  私のすべてを どうして持っていってくれないの
Can't you see I'm no good without you?  あなたがいないとだめなの 知ってるでしょ
Take my lips, I want to lose them (キスできない)唇を持っていって、いらないから
Take my arms, I'll never use them (抱けない)手も持っていって、使わないから
You're good-bye left me with eyes that cry あなたの「さよなら」で 私は泣いてばかり
How can I get along without you? あなたなしで これからどうしたらいいの
You took the part that once was my heart 私の一部だった心を持っていくんだったら
So why not take all of me? どうして 全部持っていってくれないの

これでも、悪いことおまへん。そやけど、なんやピンと来まへんな。ところが、これを 大阪弁でやった名訳があるんですが。

  私を全部 持って行って ほしいわ
  あんたがいぃひんかったら 私 もうあかんねん
  唇 持って行って もう要らんから
  腕も持って行って もう使わへんし
  さよなら 言われてから 泣いてばっかりやの
  あんた無しで どないして生きていったらええん?
  私の心を 持って行ってしもたんやったら
  なんで 全部持って行ってくれへんかったん?

大阪の人間に限らず、こっちのほうが、歌詞の「心」が、よお伝わってくる気がします。

バンドマンゆうんは、しょせんは音だけで、メロディだけで思いを表現せんならんから、 確かにつらい。そやけど、歌い手さんは歌詞がある分、メロディといっしょに、歌詞の 中身までキチンとお客さんに伝えなあかんゆう、逆の試練がおますわな。

ま、ゆうたら「心」を伝えるための訓練に、バンドマンはもっと声を出して歌ぅてもええんやないか、思う んですが、どないでっしゃろか。



注)本文中の大阪弁は自己流です、本来の大阪弁と異なる表現があってもご容赦ください。