熊さん流ジャズ勉強法・ビッグバンドについて学ぶ
熊:大家さん、今夜も暑いねぇ。冷えたビールでも頂こうかな。
大:おい、熊さん、勝手に上がり込んで冷蔵庫を開けるんじゃない。それに、今日は隣町のバンドの練習じゃなかったのか。
熊:それだよ。隣町のバンドは貧乏だから、練習場のクーラー代がもったいねえってん
で、クーラー入れねえで、扇風機回してやがんだ。このクソ暑いのに、クーラー無しで
練習なんぞやっちゃいられねえから、今日はお休みだ。
大:おい、暑いからといって、勝手に休むやつがあるか。
熊:大丈夫だよ。あんなに大勢いるんだから、一人ぐらいいなくったって。
大:熊さん、分かってないな。ビッグバンドってのは、アドリブを重視するコンボバン
ドと違って、ハーモニーを重視するんだ。一人でも欠けるとハーモニーのバランスが壊
れてしまうだろ。
熊:え、コンボバンドの人数が多いのがビッグバンドだろ、そうじゃねえのかい。
大:おやおや、今までよくそれでビッグバンドで練習していたな。そもそもだな・・・。
熊:ありゃ、またソモソモかい。そのモソモソってのが始まると、大家さんの話は長くなるからな。出来
れば、モソ、ぐらいにしてもらえねえかな。
大:黙って聞きな。ジャズの発祥のニューオリンズのころは、ちゃんとした編曲もない
寄せ集め的なコンボバンドが主流だったが、カンザス、シカゴ、ニューヨークにジャズが広まる
につれて、ダンス音楽としての需要が増えてくる。そうすると、少人数では出せる音量
に限界があるから、バンドの編成が次第に大きくなっていった。
熊:ははあ、そのころはPAってのがなかったから、ダンスホールなんかで大きな音を出すには、人を増やす
必要があったってことだな。
大:そこで、たとえばサックス3本、トランペット2本、トロンボーン1本、ピアノ、
ベース、ドラムの、ナインピースと呼ばれる編成なんかが誕生する。
熊:ああ、シューマイの上に乗っているあれか。
大:そりゃ、グリーンピースだ。やがて、1920年代以降、禁酒法時代の闇景気など
に後押しされて、さらに大人数の、いわゆるビッグバンドが乱立するようになる。
熊:大人数って、どんな編成なんです。
大:そうだな、現在にもつながっている編成と、ステージでの並び方は、
(ステージ後方)
Bass Drums 2nd・Trp read(1st)Trp 3rd・Trp 4th・Trp
Piano 2nd・Trb read(1st)Trb 3rd・Trb 4th・Trb
Vocal Guetar 4th・Ts 2th・Ts read(1st)As 3th・As Bs
(ステージ前方)
※(Trp=トランペット、Trb=トロンボーン、Ts=テナーサックス、As=ア
ルトサックス、Bs=バリトンサックス。最近では2ndAs、3rdTsと表記する
楽譜も増えている)
熊:へー、すごい人数だね。そりゃバンドの維持費も大変だし、バンマスも苦労だな。
大:ダンスバンドというのは、限られた時間内で、しかも毎回同じ演奏が出来ないといけない。
さらに、多くのバンドの中で生き残るには、ほかのバンドとの差別化をはかる、
つまりバンドの特色を出すことが必要になってくる、そこで大事になってくるのが編曲、
というわけだ。
熊:なるほどね。曲を変にするのが変曲だ、郵便局にあるのが本局だ。
大:混ぜっ返すんじゃない。そこで、カウントベーシー楽団のように編曲を専門家に依
頼する、グレンミラー楽団のようにクラリネットがリードをとる、スタンケントン楽団
のように独特の楽器編成を組む、などで独自のカラーを打ち出したバンドが生き残っていく
ことになった。
熊:ふーん、それにしたって、あんなに大勢いるんだし、一人ぐらいまけときなよ。
大:大勢と言うが、それぞれに役割というのがある。たとえば、メロディのパート、カ
ウンターメロディ(対旋律、オブリガート)のパート、リズムのパート、などがあって、
そのパートごとにハーモニーが付けてあれば、一人でも欠けると、そのパート内のハーモ
ニーバランスが壊れてしまうことになるだろ。
熊:ふーん、なるほどね。するってえと、俺様もバンド全体にとって必要不可欠な存在
ってことだ。
大:ああ、そうだ。分かったら、今からでも遅くないから練習に行ってこい、クーラー
代ぐらい出してやるから。
熊:え、大家さんがクーラー代を。そいつぁありがてえ。じゃ、クーラーガンガン入れ
てもらって練習してくらあ、あばよ。
熊:大家さん、ただいま。
大:なんだい熊さん、行ったばかりなのに、もう帰ってきたのか。どうしたんだ。
熊:それがだ、大家さんが出してくれたクーラー代で、ガンガンクーラー入れてもらったんだ。
大:よかったじゃないか。
熊:それが、よくねえ。
大:どうしてだ。
熊:クーラーが効き過ぎて、腹ぁこわした。
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