槍ガ岳(長野県/岐阜県)

やりがたけ 標高3180m。

 言わずと知れた有名な山で、登山の愛好者以外でも知らない人はいないだろう。 どこから見ても名前通りの形だから、誰でも見間違うこともない。
 筆者が社会人になって本格的に登山を始めたとき、登っておきたい山の筆頭は この槍ガ岳であり、穂高岳、剱岳だった。 そんなわけで、1971年4月に槍沢から往復したのを初め、1972年10月には 北鎌尾根から、1982年の大晦日には中崎尾根から登っている。 その後、三百名山を目指したりして、一時期北アルプスから遠ざかっていた。 それがひと段落すると、やっぱりもう一度頂上に立ってみたくなり、2011年夏に西鎌尾根経由で 頂上を目指した。 ここで紹介するのは、その2011年9月の記録である。
 頂上を踏むのが主目的ではなく、槍ガ岳を遠くから眺めながら近づき、下山時も違った角度から 山を見ながら歩くことを念頭にルートを考えた。 新穂高温泉から入山し、歩いたことのない西鎌尾根経由で槍ヶ岳に登り、天狗池経由で下山するルートである。 写真を撮りながらなので、余裕をみて山中3泊の案である。
 ところが2011年の夏は天候が不順で、晴天の日が長続きしなかった。 おかげで、実行の日が延ばし延ばしになり、9月に入ってからになった。
 天気予報で数日間晴れの日が続くことを確かめてからの出発。 初日は、新宿から高速バスで平湯温泉に向かい、バスを乗りついで新穂高温泉に着いたのが昼過ぎ。 いかにも中途半端な時間である。 計画では無理をせずわさび平小屋泊まりとしていた。 炎天下の林道を黙々と歩く。 7月だったら、オオゴマシジミやベニヒカゲの撮影をしながら林道歩きというのも楽しいだろう。 しかし、9月ともなれば、目につくのはアサギマダラかキベリタテハそれにクジャクチョウくらいだ。 わさび平小屋近くまで来ると、そのキベリタテハがたくさん地面に止まっている場所を見つけた。 ザックを下ろし、しばし撮影を行った。
 わさび平小屋に着いたのが14時近く。 計画通りここに泊まるか、頑張って上の鏡平山荘まで登ると思案のしどころ。 見ると、鏡平山荘目指して歩いて行く登山者もある。 結局、そのまま歩いて、鏡平山荘まで登ることにした。 ただ時間にあまり余裕がない。 小屋に宿泊の連絡をしていないので、17時前には着きたい。 計算すると3時間しかない。 マイペースで歩いていたら、16時40分に鏡平山荘に着いた。 槍ヶ岳から穂高岳にかけての展望が素晴らしい。 近くの鏡池には、槍ヶ岳が映っている。 ここは絶好の撮影ポイントなので、数人がカメラを構えていた。 ここで池に映る槍ヶ岳、穂高岳の姿を存分に見ることができたのは、鏡平山荘に宿泊したおかげだ。 もしわさび平に泊まっていたら、当然ここは通り過ぎるだけになっていたはずのなので、 初日に頑張って歩いた甲斐があったわけである。
 翌日の朝は少し薄雲が広がっていたが時間とともに青空が増えていった。 抜戸岳の稜線に向かって高度を上げる。 槍ヶ岳の眺望を楽しみながらの贅沢な道だ。 尾根に上がると笠ガ岳などさらに展望が開ける。 双六小屋に着いたのが8時前。
 小休止して、西鎌尾根に取りつく。 樅沢岳までは広い尾根の上だ。 風の通り道らしく、吹き抜ける風が冷たく強い。 樅沢岳を過ぎると、正面に槍ヶ岳を見ながらの稜線歩きである。 鎖場があったりするが、大して難しい場所はない。 千丈乗越まで来るといよいよ槍ヶ岳が大きく迫り、急登が待っている。 一歩一歩足を進めると案外に短時間で槍ヶ岳山荘に到着した。 13時前でまだ日は高い。 とりあえず宿泊の手続きを済ませ、穂先に登っておくことにする。 穂先にはたくさんの人が取りついていて、ゆっくりとしか進めない。 岩場になれない人たちにとっては、なかなか手ごわく感じるようだ。 ようやく着いた頂上からは、北アルプスの主要な山々はもちろん、遠く富士山もはっきりと 見えている。 だが、山頂は登山者で一杯で、身動きが取れないほどなのだ。 周囲の写真だけ撮って下山し、山荘で生ビールを飲むことにした。
 3日目は荒れた天気で風雨とも強く、とても予定の天狗池に寄って下山する気になれず、 まっすぐ横尾経由で上高地に下り、その日のうちに帰宅した。
 入山前の天気予報では数日間好天が続くはずだったので、3日目の雨は想定外だった。 でも2日間晴天に恵まれ、28年ぶりの槍ガ岳登山を堪能することができたので、十分満足できた。
 今回(2011年9月)歩いたルートは、地図上の赤い線で示している。

歩行記録 2011/09/07 新穂高温泉−鏡平 4h00m  09/08 鏡平−双六小屋−槍ヶ岳山荘 6h55m   9/09 槍ヶ岳山荘−横尾−上高地 6h40m

 新穂高温泉からわさび平に向かう林道上で、たくさんのキベリタテハを見かけた。 濃褐色の地に太い黄色の縁どり、そして亜外縁の青色の点の列がチャーミングだ。 そんなに珍しい蝶ではないが、一度にたくさん見ることは多くない。 (2011/9/7)
 この翌日、西鎌尾根を歩いているときも、キベリタテハが風に流されながらも 力強く飛んでいるのを目撃している。
 以下、すべてCANON 5D Mark2・EF-24-105mm F4L IS USMで撮影。

 鏡池に映る槍ヶ岳と穂高岳。 穂高の上には月が掛かっている。
 小池新道を登って、この鏡池と槍ヶ岳の景色が突然眼前に現れたときは、 思わず息をのんだ。
 過去に2回小池新道を下山路に使ったことがあるが、鏡平を通ったことがないので、 この景色を見るのは初めてだった。
 写真は、小屋で生ビールを飲んで一息ついたのち、17時半ごろ撮影した。 (2011/9/7)

 日没時、ほんの短時間山々が赤く染まった。 風もなく、池はその名の通り鏡のようだった。 18時15分頃。
 予定を変更して鏡平山荘に宿泊したおかげで、この素晴らしい景色を見ることができたわけだ。 (2011/9/7)
 偶然の産物とはいえ、この写真は見ばえがするので、帰宅後A3サイズにプリント (顔料インクジェットプリンター使用)して 部屋に掛けて眺めている。 なお、A3とA4では写真の迫力がまるで違うので、気に入った写真はA3の用紙にプリントして 額装することにしている。

 上の写真を撮った直後、日は完全に沈み、急速に光を失った。 (2011/9/7)


 鏡池の朝。 空全体が赤くなったあと、槍ヶ岳の周囲だけほんのわずかの時間赤みが残った。 (2011/9/8)


 鏡平から双六小屋に向かって歩くと、途中から正面に鷲羽岳と双六小屋が 見えてくる。 鷲羽岳の左肩には、水晶岳(黒岳)が顔を出している。
 今回、鷲羽岳の姿が、その名前に相応しく実に堂々としていることに改めて気がついた。 百名山に選ばれるだけのことはある。 ところが、昔は、今の三俣蓮華岳に鷲羽岳の名前がついていて、現在の鷲羽岳は東鷲羽岳、 または龍池ガ岳と呼ばれていたという。 (2011/9/8)

 西鎌尾根からの鷲羽岳(中央左寄り)と野口五郎岳(中央右寄り)。 (2011/9/8)

 樅沢岳付近からの眺め。 弓折岳から笠ガ岳(右奥)にかけての山と、中腹には鏡平山荘の赤い屋根が点になって見えている。 左奥には乗鞍岳がある。
 左下の谷は、左俣谷。 (2011/9/8)

 槍ガ岳に通じる西鎌尾根が手前に、左手に延びるのは北鎌尾根。 (2011/9/8)

 西鎌尾根には多少の岩場もあるが、こんな広々とした場所もある。 ここは二重山稜になっている。 (2011/9/8)

 すでに季節は9月なので、秋らしい風景も記録しておきたかったので撮った一枚。 (2011/9/8)

 西鎌尾根の登山道は、最上部で尾根から石の斜面に移る。 ここまで来ると、槍ヶ岳山荘は近い。 振り返ると、歩いてきた西鎌尾根がだいぶ下になっている。 (2011/9/8)

 槍ガ岳頂上からの眺め。 大喰岳、南岳を経て穂高へと続く山並み。 (2011/9/8)

 槍ヶ岳山荘からの夕景色。 常念岳の頭に最後の太陽の光が差し、上空には月が登っている。 その月の下に、富士山が見えている。
 こんなきれいな夕空なのに、翌朝は風雨が強くてなにも見えず、 そのまま下山することになった。 (2011/9/8)

 では続いて、1971年、1972年、1982年に登った時の写真を紹介しよう。

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