蝶ガ岳(長野県)

ちょうがたけ 標高2677m。

 蝶ガ岳は、常念岳から南に向かって尾根伝いに、3kmから4kmに下った 地点に広がる山である。
 今回の記録は、2009年の夏の山行時のものだが、 筆者は、そのはるか前の1970年と1979年のいずれも5月連休に、頂上を踏んでいる。 今回改めて、蝶ガ岳にしかも夏に登る気になったのは、 高山蝶(タカネヒカゲ、ミヤマモンキチョウ)と、 槍穂高の景色を最新のデジカメで撮影したいと思ったからだ。 最新のデジカメとは、35mm判フルサイズの撮像素子を持つCanon 5Dmk2である。 このカメラは2ヶ月前に入手したばかりだったが、像の解像度が非常に高いことを実感していた。 それならば、北アルプスの雄大な風景を撮影して、 その威力を確かめてみようというのが動機である。
 ちょうど会社の山好きの知人と日程が合ったので、 会社の夏休みを利用して、一緒に蝶ガ岳から常念岳を歩くことになった。 7月27日の夕方、東京をその知人の車で出発し、豊科のホテルに一泊。 ホテルに泊ってから登山なんて、昔だったら贅沢な話だが、 今はあくせくして時間を節約する必要もない身分だし、ゆっくり睡眠を取って登る方が、 体力の消耗が少なくていい。 しかし気がかりなのは天気だ。 関東は7月14日に「梅雨明けしたとみられる」と発表されているが、 一向にすっきりとした夏晴れにならない。 太平洋高気圧の勢力が弱いためらしい。 中部地方は梅雨空に覆われたままだ。 28,29日の天気予報は曇りである。
 28日朝、ホテルの部屋から外を見ると、山は朝日を浴びている。 思った程悪くなさそうだ。 朝食後、ホテルを出て、コンビニで買い物を済ませてから、 三股の登山口に向かう。 広い駐車場も平日とあって、車はまばらだ。 青空が広がっている。 登山の出だしから雨だと、意気が上がらないものだが、 晴天であれば気分も高揚してくる。 登山の用意をして歩き始めたのが8時20分。 ほかに11人の団体も歩いていて、やはり蝶ヶ岳ヒュッテを目指すようだ。 林道を少し歩くと登山口。 ここで、登山届を出す。 広葉樹林の中の道を少しずつ高度を上げていく。 まだ新緑といってよいほどみずみずしい緑の中を、 ときおり心地よい風が通り抜けていく。 急斜面も道がきれいにジグザグに切られていて、 よく手入れもされている。 おかげで、歩きやすい。 マメウチ平を10時10分に通過。 ここでは大勢の高校生と思われる団体が休憩していた。 さらに徐々に高度をあげていくと、 少しずつ雲が多くなってきた。 朝の天気予報で、午後の降水確率が高かったのを思い出した。 こういうときは予報が外れて欲しいのだが、あいにく予報通りになりそうだ。
 11時半ごろになると、常念岳が顔を出し始めるが、 雲が多くなってくる。 森林限界に近くなると、雨がぱらつきだした。 色鮮やかな高山植物の花々が迎えてくれるが、 少しずつ雨脚が強くなるので、ゆっくりもしていられない。 大滝山への縦走路に飛び出したら、蝶ヶ岳ヒュッテはすぐだった。 一瞬、穂高から槍ヶ岳にかけての山並みが眼前に広がったが、 すぐにガスの中に隠れてしまった。
 雨で展望がなくなったので、午後は小屋の中でごろごろして時間をつぶすしかなかった。 夜の天気予報では翌日は全般に雨模様。 すっかり常念岳まで歩く気力がなくなってしまった。 すでに常念岳の頂上を2回踏んでいるし、今回の目的は蝶と景色の写真を撮ることなのに、 この天気では二つともだめそうだ。
 夜中も雨が降り続き、時折雨脚が強くなるのが、 建物の中にいてもわかる。 朝になってもまだ降っている。 相棒の知人は、常念岳は初めてだからと、朝食後に雨の中を常念岳目指して小屋を出て行った。 常念岳から三股に下るという。
 ほとんどの宿泊者が出て行ったあともしばらくごろごろしていたが、 小屋の従業員が掃除を始めたので、一人で小屋を出て徳沢に下ることにした。 7時過ぎである。 合羽を着ると、上着のチャックがスムーズに動かない。 もう20年以上も使っているゴアテックスの雨具もそろそろ買い替え時かもしれない。 長年雨具を変えないで済んだのも、 雨の予想されるときには登山に出かけない主義で、雨具を使う機会が多くないからに違いない。 でも使わなくてもモノは劣化するので、寿命が来るのは仕方ない。
 雨の中を黙々と徳沢へ通じる尾根を下った。 徳沢まで下りると、さすがに人が多い。 登山者だけでなく、観光客も混じっている。 上高地には昼前に着いた。 汗で濡れたシャツを脱いで、乾いたシャツに着替えると 気分も幾分爽快になる。 がらがらのバスに乗り込み、 新島々経由で松本に出た。 まだ時間はあるので、駅の近くの蕎麦屋でお腹を満たしてから、 特急あずさに乗り帰京した。
 久しぶりの北アルプスだったが、目的を達せられず、 さんざんな結果だった。
 翌2010年夏に再挑戦したときは、 好天に恵まれ、槍穂高の景色を堪能することができた。

歩行記録 2009/07/28 三股−蝶ヶ岳ヒュッテ 5h10m   07/29 蝶ヶ岳ヒュッテ−上高地 4h40m

 豊科から三股に向かう途中では、 山並みもはっきりと見えていたのだが。(2009/7/28)
 CANON 5D Mark2・EF-24-105mm F4L IS USMで撮影。

 そろそろ尾根も近くなったころ、常念岳が木の枝越しに姿を現した。 すでに上空には薄雲が広がり、下からも雲が湧きあがってきていて、 間もなく常念岳も見えなくなった。 (2009/7/28)
 CANON 5D Mark2・EF-24-105mm F4L IS USMで撮影。


 1970年に登った時の写真が見つからず、ここでは1979年に登った時の写真を 2枚紹介する。
 1979年5月3日、蝶ヶ岳で撮影。
 5月連休を利用して、総勢5人で横尾に入りテントを張った。 その横尾から蝶ガ岳を往復した際に、槍ガ岳をバックに撮影したもの。 写っているのは筆者。

 上の写真と同じく、1979年5月3日に、 蝶ガ岳でメンバー全員で記念撮影した。 後ろに見えるのは、常念岳。
 このときは横尾から蝶ガ岳を往復しただけだったが、 二日後に、横尾からもう一度蝶ガ岳に登り、大滝山、徳沢経由で横尾に 戻るコースを歩いている。 どうして、二度も蝶ガ岳に登ったのか、思い出せない。
 1979年当時の写真を見ていて気がついたことがある。 それは、横尾に入山する途中、快晴の徳沢でザックを下ろして 休憩している写真で、背後に大きなゴミ箱が写っているのだ。 今は、上高地でさえゴミ箱は撤去され、見かけなくなっている。 ゴミに対する考え方がこの30年で大きく変わったことがわかる。

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