わるさわだけ 標高3141m
あかいしだけ 標高3120m
2012年7月に赤石岳と悪沢岳を歩いた。
両山の頂上を踏むのは、1974年の年末から1975年の正月にかけて
登って以来、じつに30数年ぶりのことである。
最初に登ったのが冬季だったので、いつかは夏にも歩いてみたいと思っていながらなかなか
踏み切れなかった。
いつしかかなりの年月が経過した2011年夏に、友人がこれらの山を登ったという話を聞いたのが
きっかけになり、登りたいという気持ちがいっそう強くなった。
そんなわけで、翌2012年の梅雨明けの高山植物の咲く時期をねらって、7月末に登ることにした。
ここでは、そのときの記録と写真を紹介しよう。
2012年夏のコースは、地図に赤い線で示している。
椹島から赤石岳、荒川三山を周遊して椹島に戻るルートである。
2012年前半は事情があって登山のための長期の時間が取れず、
山行といえば高尾山にしか登っていなかった。
ほかに特別な運動もしていないかったので、いきなり3000m峰に登れるのかちょっと不安な部分があった。
でも三脚などの荷物を減らして小屋泊まりであれば、なんとかなるだろうと思い、7月中旬になって具体的な
計画を練りだした。
残る問題は交通手段である。
静岡駅から畑薙第一ダム間の定期バスは、道路事情により2012年は運休となっている。
ほかに東京と畑薙第一ダムを直接結ぶ夜行バスがあるが、週に2便だけである。
希望の25日発の便は数日前に連絡したらすでに満席だった。
インターネットで調べると、森番ツアーがジャンボタクシーで静岡駅と
畑薙第一ダム間の運行を行っていることがわかり、問い合わせたら空席があったので、
これを利用することにした。
25日夜、新宿から静岡に向け夜行バスで出発。
26日早朝、静岡駅からは森番ツアーのジャンボタクシーに乗り換えて畑薙第一ダムへ。
畑薙第一ダムの東海フォレストの送迎バス乗り場に着くと、すでに長い列ができていた。
乗客が多いためか、7時20分ころから送迎バスが次々に出発した。
筆者は2台目のバスに乗ることができ、予定よりかなり早く椹島に着いた。
椹島に来るのは、2001年の笊ガ岳登山以来である。
簡単な朝食を取りながらゆっくり準備をし、8時前に出発。
この日は、赤石小屋泊まりである。
どういうわけか、赤石岳・荒川三山周遊コースを歩く人は、左回りで荒川三山つまり千枚小屋を最初に
目指す人が圧倒的に多い。
筆者は1974年のときと同じく、まず赤石岳の頂上を踏みたかったので、赤石岳、荒川三山の順と
決めていた。
ときどき下山してくる人たちとすれ違いながら高度を上げていく。
樹林帯の中の道なので、日差しが遮られていているのはありがたいが、展望もない。
黙々と前に進む。
途中でめぼしいものといえば、ギンリョウソウの花が目についたくらいだ。
13時過ぎに赤石小屋着。
大きくはないが、清潔な小屋だ。1階の壁際の場所が確保できたので、落ち着けた。
この日は大混雑というほどではなく、自由に寝返りができる程度だった。
夕飯まで時間があるので、缶ビールを飲みながら、外でぼんやり景色を眺めて過ごした。
午後になってからは雲が広がり、時折、赤石岳や荒川三山が顔を出す空模様だった。
翌27日、山岳写真愛好家のグループ数名が3時ごろ起きて小屋を出て行った。
筆者も富士見平で夜明けの写真を撮りたいので、少し遅れて4時前に出発。
ランプを点けて歩き始め。
20分ほど歩いたら、空が明るくなってきた。
同時に周りの木の背丈が低くなり、ハイマツが出てくる。
4時半ごろ富士見平に着く。
山岳写真を撮りに来ているグループはすでにカメラと三脚を富士山に向けてセットして待ち構えていた。
筆者もカメラを取り出し、撮影を開始した。
今回は、軽量化のため三脚は持ってきていない。
4時50分ごろ太陽が上がってきた。
夜明けの富士山はいつ見ても神々しい。
これに雲がうまく絡めば印象的な写真になるのだろうが、そううまくはことが運ばない。
天気が良くて、富士山が見えているだけでもよしとしなくては。
太陽が登ったのを確認して、再び歩き始める。
ここからは、尾根筋をはずれて向かって左側の斜面に入っていく。
冬は尾根通しに小赤石岳まで登るので、この夏道を歩くのは初めてだ。
高山植物に彩られた斜面をゆっくり歩き、登りきると縦走路に出る。
もう赤石岳は目前だ。
ここで小屋で作ってもらった朝食(めはり寿司)を食べて、一息入れる。
荷物は置いて、カメラだけ持って赤石岳を往復する。
7時過ぎ、38年ぶりに赤石岳の頂上を踏むことができた。
快晴で360度の展望。
やはり山の頂上では快晴で景色が見えるに越したことはない。
遠く北アルプスの槍ガ岳も見えている。
一通り眺望を楽しんで、頂上を辞した。
次の目的地は悪沢岳である。
小赤石岳を過ぎて少し歩いたあたりでライチョウの親子に遭遇した。
雛を5匹連れて登山道周辺を歩き回っていた。
驚かさないよう注意しながら、数枚の写真を撮った。
あとは広々とした斜面を荒川三山を正面に見て、一気に大聖寺平まで下る。
下りきった後は、南斜面に切られた登り気味の道が荒川小屋まで続いている。
荒川小屋で昼食のため大休止。
ここからは荒川中岳までの急坂が待っている。
だが、途中にある広大で見事なお花畑が十分疲れを癒してくれる。
お花畑の核心部は柵に囲われている。
シカ害を防ぐためと説明が書かれていた。
森林限界の上のこんな高所にもシカがやってきて被害が出ているとは驚きだ。
斜面を登りきると中岳は目前なのだが、せっかくなので、ザックを置いて前岳を往復した。
このころ(11時過ぎ)から周囲に雲が広がり始めていた。
晴天の日が続いているようなのだが、午後からは雲が出てくるというのが普通のようだ。
前岳から戻って中岳の頂上を踏むと、次はこの日最後の大物、悪沢岳(東岳)の登りである。
途中少々足場の悪い場所もあり、注意しながら進む。
雲が徐々に厚みを増し、悪沢岳の頂上に着いた時には展望がなくなっていた。
こうなると心配は雷だ。
森林限界の上の隠れるところがない場所で雷には遭いたくない。
千枚岳を過ぎたあたりで、雨がぽつぽつと降り出し、雷も遠くで聞こえてきたが、
それも短時間で遠ざかり、無事千枚小屋にたどりついたのが15時前。
千枚小屋は新しい建物の使用を始めたばかりで、まだ未完成部分を業者が工事をしていた。
でも新しい建物の内部は気分がいい。
宿泊者の数が問題だ。前日は160人も泊まったらしく、相当な混雑だったらしい。
幸いこの日はそれほどでもなかったが、少々窮屈ではあった。
しかし、山小屋に泊まる楽しみの一つは、見知らぬ人との出会いにあるだろう。
この日も両隣りは年配の人たちで、話を聞いていると筆者の知らない昔の南アルプス、
それも畑薙ダムの出来る前の話などが出てきてとても興味深かった。
翌日も快晴。
日の出とともに富士山が正面に顔を出す。
その様子を写真に撮ったのち、椹島に向かって下山した。
下りだから、気軽な気分で歩けると思ったらとんでもない。
ところどころ、急斜面や梯子があったりで、意外と気が抜けない。
椹島には9時前に到着。
次の送迎バスは10時半なので、余裕がある。
500円でシャワーを浴びて着替え、さっぱりした。
登山前に懸念したほどの疲労感もなく、あとは東京まで帰るだけなので、
久しぶりに大井川鐡道に乗ってみたくなった。
それには井川か千頭に出なければならない。
タクシー会社に電話すると、午後まで車のやりくりがつかないという。
とりあえず10時半の送迎バスで畑薙第一ダムまで移動し思案していると、
ちょうど静岡から登山客を乗せてタクシーが到着した。
帰りの予約は受けていないというので、この車に井川まで乗せてもらうことができ、
幸運だった。
井川駅に着いてみると、なんとなく昔の記憶がよみがえってくる。
周りの環境は30数年前とあまり変わっていないようだ。
千頭駅からはSLに乗り換え、金谷に向かった。
最後にSLに乗ったのがいつだったか覚えていないくらい久しぶりのことだ。
たまにはこういうのんびりとして雰囲気を味わうのも悪くない。
久しぶりの赤石岳と悪沢岳の登山をふり返って見ると、天気に恵まれ予定通り
歩くことができほっとしたというのが最初の感想である。
また、冬山には冬ならではの厳しさや良さがあるけれど、高山植物の咲く3000m級の夏山も
色彩豊かで大変魅力的であることをあらためて実感した。
歩行記録 2012/07/26椹島−赤石小屋4h10m 7/27赤石小屋−赤石岳3h15m
赤石岳−悪沢岳5h30m 悪沢岳−千枚小屋1h35m
7/28千枚小屋−椹島3h40m
ギンリョウソウ
椹島から赤石小屋までのルートは、樹林帯の中を通るため、
展望はほとんどない。
目についた花といえば、ギンリョウソウくらいだった。
ギンリョウソうは腐生植物として広く知られている。(2012/7/26)
以下、2012年7月の写真はすべてCANON 5D Mark2・EF-24-105mm F4L IS USMで撮影。
夜明けの富士山
赤石小屋に泊まった翌朝、富士見平で日の出を見たくて、暗いうちに小屋を発った。
幸い好天に恵まれ、富士見平ではさわやかな日の出を迎えられた。
富士山の手前の山並みの右端に見える三角のピークは笊ガ岳。
この日の太陽は写真左側の外から登ったが、冬には笊ガ岳付近から現れる。
(2012/7/27)
赤石岳頂上近くの雪渓越しに見える富士山
南アルプスの高峰に登ると、夏でも富士山がよく見えるように感じる。
富士山との距離は赤石岳の場合約53kmである。
筆者がよく登る高尾山も富士山とは50数kmで、赤石岳の場合と距離的には大差ない。
しかし、夏に高尾山から富士山が見えることは多くない。
南アルプスからよく見えるのは、高度が関係しているのだろうか?
(2012/7/27)
赤石岳頂上からの展望
中央に見えるのは聖岳(2012/7/27)
赤石岳から荒川三山の眺め
手前に小赤石岳、その向こうに荒川前岳と中岳(中央左)、悪沢岳(中央右)があり、
荒川前岳の左奥には、仙丈ガ岳が、中央奥に間ノ岳や農鳥岳などが見えている。(2012/7/27)
登山道で見かけたハクサンイチゲの花
後は小赤石岳(2012/7/27)
ライチョウ
小赤石岳付近を歩いていたとき、登山道の前に親子で現れた。
というより、ライチョウの縄張りに、突然人間が侵入したというのが正しいだろう。
付近に雛が5羽いた。(2012/7/27)
小赤石岳から大聖寺平を目指して下ると、少しずつ荒川三山が大きくなる。
中央左寄りのピークが荒川前岳と中岳、少し離れて右に悪沢岳(東岳)、右端奥に千枚岳(2012/7/27)
荒川前岳を背にした荒川小屋(2012/7/27)
荒川小屋から登る途中、ふり返ってみた赤石岳(見えているピークは小赤石岳)
存在感が十分だ。
右手の山の中腹に、赤い屋根の荒川小屋が見える。(2012/7/27)
荒川中岳への登り斜面には、広大なお花畑が広がっている。
(2012/7/27)
上の写真と同じお花畑を見下ろしたところ
下部に登山者が歩いている。(2012/7/27)
荒川前岳にはキバナシャクナゲが咲いていた。
後方左が荒川中岳、右が悪沢岳。
このころから、雲が少しずつ増えてきた。
(2012/7/27)
イワオウギ
うしろは、これから登る悪沢岳(荒川東岳)。(2012/7/27)
悪沢岳と千枚岳の中ほどにある丸山で見かけた地形。
丸山はその名の通り頂上部が丸く、周囲にはこのような層状の植生分布が見られる。
構造土の一種なのだろう。(2012/7/27)
千枚小屋
2009年の火災で焼失した小屋に代わって新たに再建された。
この7月から使用を開始したばかりだ。
まだ工事中の部分があり、作業員が工事をしていた。
当然、内部も真新しいので、気持ちがいい。
この小屋の魅力は、周りにお花畑があり、正面に富士山が見えることだ。
(2012/7/27)
千頭から乗った大井川鐡道のSL「かわね路2号」の客車内部の様子。
機関車が往時のSLなので、客車も昔ながらの車両を使っている。
もちろん空調なしだ。
筆者の乗った車両の電灯が、蛍光灯に代わっていたのが惜しい。
夏休みのため、家族連れが多く乗っていた。
子供たちのお目当ては蒸気機関車で、こういうレトロな客車に乗って
喜んでいるのは、大人のほうの様子だった。
車窓から景色を眺めていて驚いたのは、SLをカメラに収めようと沿線で待ち構えている
鉄道カメラファンの数が多いことである。
(2012/7/27)
では続いて、1974年末から1975年正月にかけて登った時の写真を紹介しよう