BEFORE START(エンジンスタート準備) |
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20**年**月**日 07:10 外部点検を終えてコクピットに入った。 座席に座ると先ずシートポジションを調節する。 前後、高低、リクライニングと操縦するために自分に合う位置がある。 RUDDER(方向舵)を思い通りに操舵でき、ブレーキも踏みやすく、計器の視認性も考慮して微妙に自分に合うポジションを探しあてる。 腰のシートベルトを締めたが、ショルダーハーネス(肩からかけるベルト)は身動きが取りにくいので後ですることにした。 タクシーアウトするまでにはしなければならないので、私はエンジンスタートをする頃までにショルダーハーネスは締めることにしている。 いつもの事なので、これから締めようとか考えることはなく無意識に締めてるものだ。 私が外部点検をやっている間にコーパイはエンジンスタート前の準備をこなしている。 一番新しい那覇の天気をATIS(天気の自動通報)で取り、石垣の天気も取り揃えてあった 石垣は風が強まっているが風の方向がいいのでしばらくは問題ないが、台風の雨であるスパイラルエコーがかかるといっきに風が強まるので注意しなければならない。 ディスパッチが気を利かせて石垣周辺のエコー画像を持ってきてあるがエコーが近づきつつあるようにも思える。 エコーのかからないうちに早めに出発すべきか?それともエコーが過ぎる頃を見計らって出発を遅らすのかを判断するのもパイロットの大事なマネージメント能力である。 長続きしそうな大きなエコーは無いので定刻通りに出発できるように準備することにした。 「ボーディングOK」を出して分厚いコクピットドアをCAが閉めたのでロックボタンを押してドアをロックした。 お客様が搭乗してきたらハイジャック防止の観点からドアを開けてはならないことになっている。 コクピットドアが閉まってから開ける場合には、行政当局より指示された開け方の手順を守って行う。 ヘッドセットをジャックポートに差し込み、おさまりがいいように頭に付けると、ヘッドセットを通して他社航空便の地上管制官との交信、他便の会社との交信が入ってくる。 手袋をはめながらで気持ちがフライトモードに切り替わる。 「よし、始めよう!」 ![]() 全てのチェック項目はマニュアルに書かれており、その順番にそってチェックしていく。 先ずは、オーバーヘッドパネルのチェックだ。 左上部の方から順次右側の方向にチェックしていく。 スイッチポジションが既定の位置にあるかどうか指差し、あるいは触れながら、ONなのかOFFなのかは指が覚えているので、リズミカルに勝手にいつものコースを動いていく。 メーターの数値を確認するにはロータリースイッチを回して数値が正常値内に収まっていることをチェックする。 スイッチ類、メーターはそれぞれの系統ごとにまとまっているのでチェックし易い。 フライトコントロール、燃料ポンプ、電気系統、防氷装置、油圧系統、空調関係、与圧関係、ライティング関連、スタートスイッチ・・・と確認するのに時間はかからない。 ![]() しかし、同じことを一日に3〜4回も繰り返すので注意しなければならない。 どんな仕事もそうだと思うが、慣れをなくすことだ。 同じことを確実にこなしていくことはプロフェッショナルの一面であると肝に銘じている。 ほんの小さな不注意が出発を遅らすことがある。 確認し終わったら後でチェックリストを読み上げ再チェックするが、人間の不完全さがミスに気づかせないことがあるのでチェックリストは確実にこなさなければならない。 通常はコーパイが読み機長が応えて確認していく。 早すぎては見落としが出る可能性が高くなるので、確実にチェックできる速度でテンポよく進めていく。 確認作業は機長だけではなく、コーパイは読みながらスイッチポジションを確認し二人の共同作業であるということが重要だ。 当たり前で簡単なことのようではあるが、このことを十分に理解しなければならないことを自分に言い聞かせている。 座席の左側をひと通り見てから、Flight Instrument(フライトインスツルメント:飛行計器)のチェックとセットをしていく。 ![]() スピード計にSPEED BUG(スピードバグ)をセットする。 専門的になるがV1、VR、V2+5、210ktのところに白いバグと、V2にはインナーのオレンジ色のバグをセットする。 V1とは離陸決定速度:エンジンが一つ不作動になった場合、タイヤがパンクした場合、その他重大な欠陥が見つかった場合に離陸を継続するのか中止するのかを決定する速度 VRとはロテーション(引き起こし)速度:一つのエンジン不作動でこの速度で引き起こしたら35フィートの高度でV2の速度を得られる。 V2とは安全離陸速度:片発動機不作動状態で離陸した場合に安全に離陸上昇できる速度。 V2〜V2+5の間の速度は片発動機不作動時に上昇する速度である。 210ktは、離陸のために使ったFLAP(高揚力装置)は上昇モードになると邪魔になるので収めなければならない、収め始める速度である。 V1,VR,V2の速度は、 離陸時の高揚力装置の位置、重量、風、気圧、降雨状況、滑走路勾配等・・・様々な条件で決まる。 データ表があるのでそれを見てセットする。 離陸時には、 3000mもある那覇の滑走路ではストレスはそんなに感じないが、石垣空港の1500m滑走路ではパイロットは皆相当なプレシャーを感じて離陸する。 幸いにも信頼性のあるエンジンに助けられている。 信頼性があるといっても他航空会社を含めて2回ほど離陸時のエンジン不作動があったことを記憶している。 当該機長の対処の素晴らしさで何事も無く安全に飛び上がっていることは賞賛に値します。 離陸時の片発不作動は稀に起こるもので、ほとんどのパイロットはそんな経験をすることなくパイロット人生をまっとうするものだ。 そういう緊急事態になった場合を想定した訓練、審査を何回も受けてはいるが、起こってほしくないといつも願っていた。 (石垣空港は2013年3月に移転し新石垣空港として2000m滑走路になっている) 続く 前ページ 次ページ |
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