ご無沙汰しております。
先生とあまり話もできぬまま,長野を発ってしまい申し訳ありませんでした。
先生の気遣いをありがたいと思いながら,しかし,実はもう昔のように先生と話ができなくなっている自分がいました。
先生の目を見ると決心が揺らぎそうで怖かったのです。
一刻も早くそこから抜け出さなくては一歩も動けなくなると思いました。
先生に甘えられたらどんなにいいでしょう。
そうすれば,もっと穏やかに人生の終焉を迎えられたかもしれません。
でも,僕にはそれができませんでした。
先生に教えていただいた医者としての技術を,できるなら最期まで患者のために生かしたい。
それがたとえどんなに困難でつらいことでも,それが一番僕らしいと思いました。
こちらは先生の病院とは違い規模も小さく,患者数も少ないですが,その分,一人一人の患者さんに時間をかけて接することができます。
ここで,僕にしかできない医療を最期までやっていくつもりです。
それから先生が心配してくださっていた治療の件ですが,あるルートからフロノスという治験薬を入手して投与しています。
治験薬なら僕のデータを生かせますし,MMの進行過程とともに僕にとって有意義な研究になると思います。
僕はこちらでがんばっていきますので,心配しないでください。
今まで本当にお世話になりました。
もう長野に行くことはないと思いますが,元気でお過ごしください。
直江庸介