水燿通信とは |
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306号NHK―BS1の海外ニュースを見る |
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NHK-BS1では、世界各国の放送局のニュースを放映している。朝は2人のキャスターの案内で、世界の大きなニュースを各国がどのように取り上げているかを放送する。8時からは、世界中の国々の放送局からいくつかを選んで、最新のニュースをそのまま流す。世界中と言っても東南アジア、中南米、アフリカの国々の放映はなく、また各国それぞれ採用されているのは一局だけということが多く、流されたニュースの中のどれを選ぶかはNHKの裁量に任せられている。また、選ばれている局がそれぞれの国を代表しているような印象を視聴者に与えるといった面も、敢えて言えば無いとは言えない。そういったこともあるが、それでもある程度の期間この海外ニュースを視聴していると、それぞれの国の報道姿勢、特徴、傾向など様々なことが見えてくる。1990年代半ばからこのニュースを見てきた私の感じたことを、以下に述べてみたい。ここでは朝の8時台放送の分を中心に放送順に取り上げた(冬時間に伴って11月5日から放送順が若干変更になり、内容に関して簡単な説明がつくようになったが、ここではそれまでの形のものを紹介した)。なおNHK-BS1の海外ニュースは早朝から夜まで随時放送されているし、解説のついたまとめの番組もある。 |
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イギリスBBC 格調高く、状況を正しくきちんと報道しているといった印象を受けるが、上から目線が若干気になる。またこの国の歴史や国是などを考慮してみる必要もある。 |
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イギリスという国は世界中のあちこちでその地を植民地化したり、紛争の種を故意に作って、それによって自国の利益を得るという政策を伝統的に取ってきた(今でも)国である。だが世界中で起っている紛争のニュースなどでは、自国がそういった紛争に深く関わっていても、そのようなことはなにも無いかの姿勢で淡々と客観的に報道していて、どこかしら欺瞞的なものを感じさせられる。このことは他の国の放送メディアでも往々にしてあることだが、世界各地での紛争にイギリスが深く関わっていることが多いせいか、BBCではその傾向が特に強いといった印象がある。 |
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スペインTVE この放送局の特徴は、かつて大航海時代、スペインが南米の国々に進出、植民地化していたことがあるせいか、中南米のニュースがよく放映されることだ。ここ以外で中南米のことを知るきっかけは日本ではあまり無いので貴重である。報道姿勢も概ね好感が持てる。キャスターはいかにもスペイン女性らしい目の大きい美人が大半だ。以前、スペイン映画『ミツバチのささやき』に出演した名子役アナが成長したらこんな顔になるのではと思わせられる顔のキャスターが出ていたことがあり、我が家では「ああ、アナちゃんだ」などと言ってひいきにしていたのだが、しばらく前、別の人に代わってしまった。 |
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韓国KBS 日本からは近い国なのに、例えば領土問題などにしても、日本では当然ながら日本側の視点だけで報道されるが、韓国ではどう思っているのか、彼らの主張や考えはどんなものなのかを知るのにはとても有効だと思うので、積極的に見るようにして居る。また、人々の生活などに関しては日本と共通することが多いのだが、その対応の仕方は日本人と随分違うので、韓国の人たちの考え方、感じ方、生き方などを知る上でも興味深い。 |
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中国CCTV いつも韓国の放送の後に出てくるのがこのテレビ局の放送なので、両者の違いがより明確に感じられる。報道に関する規制がかなりあるように感じられるが、韓国の場合と同じように、日本との様々な問題を考える際の中国側の考え方を知るうえで有効である。韓国も中国も男女2人のキャスターが出ることが多いが、どちらの国も女性キャスターには、奥深い歴史を背景にした独特の品位といったものを感じさせられる人が時々いる。もっともこれは私の単なる印象で、実際は案外、外見のよさだけで選ばれているだけなのかもしれないが。 |
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カタールアルジャジーラ 紛争の絶えない中東地域だが、日本で唯一視聴できるこの地域の放送局がこれ。カタールは独裁国だが、これまでは報道の規制はなかったようで、西欧のメディアでは決して見られない報道や映像も多くあって興味深かった。ところがシリア紛争が起きてからは、カタールがシリアのアサド政権を倒す側に立っていることが影響しているのか、大きく報道姿勢を変えてしまった。今ではアルジャジーラは、単なるカタールのプロパガンダになってしまっている。 |
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フランF2 海外ニュースの報道の仕方でダントツすぐれていると思わせられるのが、この放送局のものだ。報道する内容も見事な選択だと思わせられるが、その姿勢の中に常にエスプリ、ヒューモア、皮肉などを伴った客観的な視点が感じられるのがいい。日本の報道では、実態はみんな知っているのに、建前だけが堂々と報道され、「初めてわかって驚いた、こんなことがあるなんて許せない」などと驚いてみせることがしばしばあるが、フランスF2ではそのようなことはまずない。つくづく、大人の国だなと感じてしまう。 |
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私は、初めてフランスに旅行した時、ド・ゴール空港の職員の不親切極まりない対応を何度か受けて(例えばインフォメーションで「東洋人なんかに本当のことを言えるか」といった感じでわざと間違った情報を教えられた、など)、フランスには2度と行くまいと思ったものだが、フランスF2の報道は、とても優れていると認めざるを得ない。 |
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アメリカABC この局の放送内容は率直に言って驚くほど貧しい。とにかく、世界中でどんな大きな事件が起っていようとも「私たちの関心はアメリカだけです」といった具合で、とことん内向きなのだ。大統領選が近づいているとか、巨大なハリケーンがアメリカ南東部を襲ったとかいうことなら、それに関するニュースが延々と流れても仕方がないかもしれない。だが、「○○州の△△さんがあるお菓子を発案して評判になっている」とか、「ある男性が失恋の翌日宝くじに当たり、莫大なお金を手にした」などというニュースがトップにきたりすると、さすがにあきれてしまう。だがこんなことは決して珍しくないのだ。アメリカは自由の国などと言われているが、このアメリカABCを見ていると、「この国は、案外、愚民政策が徹底して行なわれているのかもしれない」などと思ってしまう。 |
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(以下の放送局のニュースは、私の場合、午後に見ることが多い) |
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ロシアRTR 報道の姿勢には、あまり国家の規制などは感じさせられない。ただ、独自の外交を行なっている国だけに、ロシアの考え方、主張を知るためには役に立つ。また他の国の放送ではまず出てくることのない広大なロシアの自然や人々の様子なども時に放映され、興味深い。キャスターは男女共に実に整った立派な顔立ちの人が多いのだが、彼らは笑うことが金輪際ないのではと思うほど、固い表情で語る。きちんとしているけれど、あまり親しみを感じさせないな、といつも思ってしまう。 |
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ドイツZDF ドイツ人気風を感じさせるお固くてきちんと物事を報じているといった印象がある。だがイスラエルなどの絡む複雑な国際問題になると、ナチス問題で散々悪者にされた歴史に懲りているのか、どこか腰が引けているというか、余り関わりたくないといった姿勢が時に感じられることがある。一方、環境問題に関する国民の関心の高さはメディアの姿勢にもはっきり反映されており、この放送局は例えばフクシマ原発事故についても大変優れたドキュメンタリーを作ったりしている。ドイツZDFのこのドキュメンタリー「福島原発事故」では、日本では一切報道されなかったフクシマの汚染の実態、政府・東電・県などの隠蔽体質・無責任体質が遠慮ないトーンで描かれており、大変ショックであった。 |
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オーストラリアABC この国は、シーシェパードなどの運動が盛んなことからもわかるように、自分たちの考えることは絶対に正しく、イギリス直伝の我が文化が最高と信じて疑わないようなところがある。報道にもそのことがくっきりと反映されていて、他国に対して内政干渉と非難されかねないようなことや、他の外国メディアが敢えて言おうとしないこと(例えば石原東京都知事(当時)に「何かと物議を醸すことの多い右翼の」というコメントを付す」など)を堂々と報道したりするので、結構面白い。またこの放送局では、東南アジアの国々のニュースがよく放映される。この地域の国々に関しては、ここ以外ではヨーロッパやアメリカでは勿論、日本のメディアですらあまり取りあげることがないので、これはありがたい。 |
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日曜日や時間帯によっては異なったテレビ局のニュース報道が流れたりするが、大概はこんな感じである。こうしていくつかの国の海外ニュースを見ていると、そこから日本の報道の姿勢が自ずから見えてくる。 |
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地上波のNHKニュース(私は他のニュース番組をあまり知らない)などはアメリカABCに最も近いという印象を受ける。つまりかなり内向きなのだ。日本のテレビのニュースだけを見ていると、世界で起こっている大きな事件についても、何も知らないでいることが多くなる。だが、現代では外国で起った事件も、日本の経済、政治、そして私たちの生活に大きな影響を与えるし、外国で起きた事件は関係ないなどという訳にはいかない。 |
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私は実際のところ、福島原発事故が起こるまでは日本中にこれほど多くの原発があることを知らなかった。この事故が起こって初めて、国内にある多数の原発の存在を知り、「唯一の被爆国で地震国でもあるこの国で何と危険なことを」と驚き、無知ということが如何に罪深いことであるかを痛感した。私を含む国民はみんな、この国で起っていることをもっともっと知らなければならないし、世界のことも知らなければならない、そうでないと、私たちの知らないうちに権力者達によって日本がとんでもない方向に行かされてしまうことになりかねないと、心から思うようになった。「知らなかった」で私たち国民の怠慢が許されるわけではないのだ。福島原発事故も政治の劣化も、つまるところ国民の駄目さがひき起こしたものだと、今の私は思っている。だから私は「知らなかった。こんなはずではなかった」ということを繰返さない為に、日本のテレビニュースや新聞だけでなく、インターネットや書籍などいろいろな面からの情報を得、自分で考え、少しでも賢くならなければと思っている。海外ニユースを見ることも、その有効な手段のひとつだと考えている。 |
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〈紹介〉 |
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子どもたちのまなざし |
若松丈太郎 |
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一般人の平常時年間被曝限度量は一ミリシーベルトとされている |
一時間あたりに換算すると〇・一一四マイクロシーベルト |
二〇一一年九月三〇日の環境放射線量測定結果によれば |
毎時〇・一一四マイクロシーベルト以下だったのは |
中通り地方では県南の三町 |
ほかはすべて西会津と南会津の一市六町二村だけ |
この日 国は原発から二〇〜三〇キロ圏の緊急時避難準備区域の指定を解いた |
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チェルノブイリ事故後八年 |
キエフ小児科・産婦人科研究所病院 |
甲状腺癌治療のために入院している子どもたち |
彼女たちのまなざしを忘れることができない |
すがりつくような |
訴えるような |
病気からの救出を期待しての |
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フクシマ事故後八年 |
すがりつくような |
訴えるような |
病気からの救出を期待しての |
あのまなざしを向けるのだろうか |
二〇一九年フクシマの子どもたちも |
わたしたちに対して |
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(『いのちの籠』第20号・戦争と平和を考える詩の会・2012年2月25日) |
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※ | 若松丈太郎氏は南相馬市在住の詩人。当通信では、氏の詩集『北緯37度25分の風とカナリア』を297号で取り上げている。 |
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日本のこの1年を振り返ると、これはよかったと思えるようなことは何もなかった年だったように思います。国民の間の経済格差は広がるばかりで、多くの国民は経済的に厳しい生活を余儀なくされています。福島原発事故では今もって少なからざる量の放射能が放出され続けて居るにも拘らず、被災者の多くはほとんど棄民のような扱いのまま、大半の国民から忘れられようとしています。そして国の政治は、施策を行なうも何もほとんどその態をなしていない劣化ぶりです。本年最後の通信も、それゆえ、明るいものをまとめることは出来ませんでした。新年を迎える気分を損なわないように発行日を少々早くしたのは、そのためです。 |
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個人的にはこの六月、奈良に移転しました。この地は若い頃から住んでみたいと思っていたところで、半年経った今も、奈良に関しては「あれも知りたい、これも知りたい」と好奇心いっぱいの日々を送っています。体調も良くなった感じで、以前に比べてずいぶん出歩くようになりました。とはいえ、現在の私の体調では奈良市郊外あたりまでがせいぜいです。来年はもう少し行動範囲を広げられたらと願っています。 |
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どうか皆さま、健やかでいい年をお迎えくださいますように。 |
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(2012年12月10日発行) |
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発行人 根本啓子 |