かたわらに いつもぬくもり
それさえあれば
他に何も要らないと思っていた
ゆめ むみょう
夢・無明
白い闇。何処まで行っても何もない空間。
ゆらゆらと
其処にたゆたうものは
永遠と刹那
人であって人にあらざるもの
生きることも死ぬことも出来ずにいる魂の群れ
そこに『彼』は居た。
居た、と言うのは本当のところ正しくはないのかもしれない。何故なら其処に居る間の事は殆ど覚えていないから。普段は意識もなくただうつらうつらと空間を震っている、そんな状態が続くのだ。
このままこの空間を漂っていれば、いつか自分という人格が失われてしまうのではないかという程の絶対の孤独。
だが、本来ならとうの昔に失っているであろう自我は時折訪れるヴィジョンにより覚醒する。散り散りになっていた自分が一気に凝り固まる瞬間は突然目が覚める感じに似ている。
そして彼は自分が何者であったかを思い出す。
ユージン。
それがかつて、彼を呼ぶときに与えられた名前であった。
ジーンの人としての生は16年で幕を閉じている。
それも思いもかけぬ形で。
覚えているのはなだらかな山の稜線。視界にいきなり飛び込んできた車のシルエット。
衝撃。
女の悲鳴。そして視界は暗転する。
その後、自分が銀色のシートに包まれて湖に放棄されたことを知ったのは、サイコメトリーの能力者にして双子の片割れ、ナルのビジョンを共有した---昔からこの双子の弟とは特別なホット・ラインが存在していた---ため。
だがしかし、不思議と悲鳴の主を恨む気持ちは起こらなかった。
ナルの見たヴィジョンの通りなら、自分は確実に彼女によって殺されたと言って差し支えないとゆうのに。
では何故、自分は此処にいるのか。
一体何を迷っているのか。
時折訪れる思考の波間に考えてみる。五感と呼ばれる感覚の存在しないこの空間で、時間という槻念さえも狂わせながら……