2004-03-08
エピローグ ◆ SUN
「おかえりなさい。───所長、依頼の方です」
イギリスから戻って来たナルを出迎えてくれたのは調査依頼だった。本当はとても疲れていたのだけれど、この、アルバイトの調査員はナルに休憩を許してはくれなかった。
「疲れてるんだ」の一言にも動じる事は無い。
「なんでしたら、安原さんに朗読してもらって、その間、肩をお揉みしてもよろしゅうございますが」
小憎らしい程、挑戦的に言い放つ麻衣に対して、ナルはそれ以上の抵抗を諦めた。麻衣からファイルを取り上げていつもの台詞を口にした。
「───お茶」
「はぁいっ」
滞っていた時間が嘘のように勢い良く回り始めた。ナルはやがて時間に謀殺されていく。
忙しいのを理由に、考える事を先送りにしているツケがいつかは来るかもしれないと思いながら、気付かない振りを続けている。
そして今日も、所長様の声が響く。
「麻衣、お茶!」
2001.04.15.脱稿
初出:砂漠の月〜DESERT MOON〜 2001.05.06.発行