2001.03.16

◆◇◆ 2月14日 〜the latter half of〜 ◆◇◆



 

「う、そぉ〜お?!」
 その年のバレンタインは麻衣の悲鳴から始った。

 



 麻衣の朝はテレビをつけるところから始る。
 一口につけると言っても、麻衣の場合、ボタン一つ押すだけでは画面 はつかない。
 わざわざテレビの前迄行って、スイッチを入れなければならない。
 然も、チャンネルは円板状のスイッチを捻って合わせるダイヤル式。画面 は総天然色の筈だが、どこか全体的に緑がかっている。
 実はコレ、以前ここに住んでいた住人から譲り受けたものだ。麻衣が住んでいるのは学生専用の下宿で、地方から来ていた大学生が地元の会社に就職が決まった祭、要らなくなった家財道具を餞別 に他の下宿人達に残して行った物の一つだったりする。
 苦学生をしている麻衣としては、使えるものを捨ててしまうのが忍びなくて今でも現役として使用中である。
 後から聞いた話では、以前の持ち主もその前に居た住人から頂いたそうなので、どのくらい使われているテレビなのか皆目見当もつかない。
 だが、今回の話の主役はこのテレビでは無い。
 問題は、いつも見ている朝の番組から始った。
 大体、朝はテレビを見ていると云うより、5分10分で切り替わるコーナーで時間を計っていると云った方が正しい。
 この日も麻衣はいつものようにお馴染みのチャンネルに合わせた後は、画面 の切り替わりに合わせて髪を解かし、着替えを済ませて、朝食の用意を整えていた。流石に食べている間は視線は画面 に釘付けになる。
 この時間、大抵は時節ネタを流しており、その日もいつもと同じように今日のイベントネタをやっていた。どうやら今日はN.Yからの中継が入っているらしい。
 N.Y、遠い異国のアメリカでも、この日、バレンタインで賑わっているようだ。街角にはピンクの垂れ幕が下がり、店先にはハートをかたどったデコレーションがそこかしこに見られる。現地のアナウンサーが近くの店に入ると、やっぱりチョコレートが山積みだった。
 なんだか日本のチョコレートよりもかなり、高価そうなものが並んでいる。どのチョコも、義理であげるにしては凝った造りだし、かなりボリュームも有る。
 アメリカと云う国はこんなところ迄豪快なんだなぁと、変な感心をして麻衣は食べ終わった後の食器を片しに入る。
 その後ろで、アナウンサーはまだ喋り続けている。
「すごいでしょう? これはまだ、序の口なんですよ。だいたいこちらでは女性からだけでは無く、男性からもプレゼントを渡します。
 と、云うのも、女性からだけと云うのは日本独特で、普通は男女の区別 なく、告白をする日なんです。
 ですから、男の人なんか数日前から準備を始めるんですよね。相手を何日も前から家族に会わせて、泊まる準備をしたりして、当日になったらプレゼントを渡したりするんですが、この時、プロポーズする習慣もあるんです。
 バレンタインは別に、プロポーズの日と言われるくらい……」
 麻衣の手から、ポロリと箸が転がり落ちた。
(なんだってぇ〜〜〜〜〜〜?)
「それじゃあ、義理チョコなんてしないんですかぁ?」
 いつものアナウンサーがのんびりと聞けば
「そうですねぇ、バレンタインのグリーティングカードなんかだと送ったりしる風習が有りますが、義理でって言うのは聞かないですね。大抵は告白と言っても本命の恋人と過ごす事が多いようです」
 にこやかに答えが返ってくる。
 ……本命、プロポーズ?
「う、そぉ〜お?!」
 こうして、麻衣の一日が始った。




 麻衣は渋谷にある「渋谷サイキックリサーチ」と言う事務所でバイトをしている。ここでバイトを始めて一年と十ヶ月。もうすぐ二度目のバレンタインがやってくる。昨年は色々悩んだ挙げ句、自分が美味しいと思ったチョコレートを溶かして型に流すと云う、地味だが密かに下心を混ぜたものだった。
 当時は綾子が料理の達人とはまだ知らなかった事もあって、料理の手解きを受けるなんてことは無かった。知っていたらもっと凝ったものをあげていた事だろう。ついでに真砂子ともそれほど仲が良かった訳でも無い。
 だけど今年は三人でわいわいガヤガヤ姦しく、手作りチョコに励んだのだ。ラッピングも綾子と真砂子のアドバイスで凝ってみた。今年はめいいっぱい頑張ってレベルアップをはかったのに……
 プロポーズ……
 去年は知らなかったのだ。だけど今の麻衣は知っている。
 ナルは幼少時をアメリカで暮らしている。
 それはもしかしなくても、ナルが義理チョコの存在を知らない可能性に気がついた瞬間だった。
 だが折角頑張って作ったものを捨てるのだけは絶対嫌だ。
 今年は前宣伝もしてあるから「お客さん」もたくさん来る予定。
 鞄の中にはぼーさんと、ジョンと、安原と、リンと、ナルの五人分の包みがしこんである。ぼーさんはあげないと後で拗ねるだろう。ぼーさんにあげるなら公平に皆にあげたい。そしてそれは同時に「隠蓑」にもなる……
 麻衣は決めかねていた。自分が本当に好きだったのはナルだったのか、それともジーンだったのか……
 それでも、『あげたい』と云う気持ちは変わらなかったから頑張って作ったのだ。
 嗚呼、それなのに!
 日本と諸外国の風習の差は分かっていたつもりだが、ナルがあんまり違和感なく日本に馴染んで居るから忘れてしまうのだ。彼が英語圏育ちの人間だと云う事を。
 外国からはいってきた習慣と分かっていても、日本風にアレンジされていたりすると云う事実を。
 これは二重の失態と云うべきだろうか?
 いや、きっと大抵の日本人の間では男女の別なくプレゼントを送る日だなんて常識は無いはずだ。知っていたら綾子やぼーさん、安原さんだって何かアドバイスくらいしてくれていたろう。それがなかったと云う事は、彼等の常識も麻衣と似たり寄ったりの筈だ。
 迷える子羊はこうして迷えるままに登校したのだった☆




 今年、麻衣は上級生と下級生から大量にチョコレートを受け取った。正確にはその殆どは麻衣にでは無く、ナルに、ではあるが。何故か下級生の女の子から麻衣宛のチョコレートも頂いている。まさか年下の、それも同性からチョコレートを受け取る日が来ようとは思わなかったが、かえって麻衣は流石に日本のバレンタインのあり方に疑問を感じた。
 確かに日本と云う国は本来の意味を曲解しているのかもしれない。
 だが、依然麻衣はそれが悪い事だとは思えない。
 人間関係を良くする潤滑油になるなら、それでも良いじゃ無いかと思ってしまう。これを切っ掛けに「おつき合い」し始めるカップルだって居ない訳じゃないし……
 大体去年、知らないでやちゃった後だ☆
 思い起こせばナルの様子がおかしかったなぁとか、リンさんまで固まってたなぁとか、色々今頃になって思う所は有るものの、もっと良く考えてみたらここは日本だった。
 郷に入りては郷に従え
 ナルが日本の慣習に慣れれば問題ないのだ。
 そう思う事で麻衣は決心した。
 渡すものは渡す!
 捨ててしまうよりはましだ。
 そう心に決めたら、少し、気が楽になった。



 麻衣は午後の授業が終わると、そのまま渋谷の事務所に直行する。
 両手いっぱいの荷物を抱えて。
 去年は大勢の女の子達が事務所の前で泣いていた。今年はどうだろう?
 去年で懲りていれば、きっと来ない。去年、何があったか知らない人達がいるのだろうか?
 果たして、結果は後者だった。
  中には昨年受け取ってもらえなかったにも拘わらず、今年もチャレンジする兵も居るようだ。
 一年以上、この事務所の事を知っている者が居るせいだろうか。今年、麻衣に嫉妬の視線を投げかけてくるのは見なれない一部だけだった。その他の少女達はどちらかと云うと、すがりつくような視線を麻衣に向けている。
 麻衣は自分が悪い訳でもないのに、申し訳なくて、その少女達の間をうつむくようにして抜け、事務所の中へ入った。
 ナルは応接セットで読書の最中に見えた。
「ナル、……お客様」
 麻衣は外で待っている少女達の気持ちを考えて口にしてみる。真砂子や綾子はまだ来ていないが、この場に居たならきっと「お節介すぎる」と窘められた事だろう。だが、麻衣には彼女達の切ない気持ちも分からなくもないから冷たくなんて出来なかった。
 ナルは麻衣が出社したのを一瞥しただけで確認し、いつもの台詞を口にした。
「麻衣、お茶」
 その言葉を聞いた麻衣は頭の中が熱くなるのを感じ、そして気がついたら怒鳴り付けていた。
「お客様!って言ってンでしょ!
 外にいるのはあんたの客なの。なんで事務所の客でないのをあたしが応対しなきゃなんないかなぁ?!自分のプライベートな客なんだから、それっくらい、やってよね」
 麻衣の手の中には先程迄ナルの手の中にあった本。それを取り上げて自分の背中にまわす。
「僕は客だと認識していない。大体、あんな人数からモノを貰っても食べ切るどころか、身体を壊すのが落ちだ」
 手持ち無沙汰になったナルの手は仕方なく、彼の胸のところで組まれている。
「でも、ナルに会いたくて来てるの。言っとくけどね、あたしがナルは会いませんって言うのと、ナルがちゃんと自分の口で言うのとは効果 が違うの。
やっぱり、本人の言葉の方が説得力、大きいの。
 身体壊すってのは、分かる。ナルが甘いお菓子ダメなのも知ってる。でも、気持ちを受け取るくらいならできるよね?
 だから、お願い。出てあげて?」
 初めは怒りの勢いに任せていた言葉が最後には懇願に変わる。
 ナルと麻衣は無言のまま、暫く睨み合う。すると大抵の場合、ナルの方が折れてくれる。ナルは意外な所で「押し」が弱い。
 以前、ナルの上司の女性から聞いた事だ。
 そしてそれはそのまま、麻衣に伝授されている。
 ナルは短く息を吐き出しソファから立ち上がってドアに向かった。
 麻衣の顔が僅かにほころぶ。ナルがドアを開けるのを見て、お茶の用意をしに行こうとした麻衣の足が止まった。
「迷惑です。おひきとりを……」
 ナルが全ての言葉を言い終わる前に、麻衣はナルを突き飛ばして扉の前から排除した。
「良い? 何も全部食べろとは言わないって、言ったよね?
 受け取るくらい出来るよね? 少しは感謝の気持ちくらい見せなさいよ!」
 そう言って、障害(人)物の居なくなった事務所のドアを思いきり良く閉めた。驚いたのはナルだ。
「麻衣?」
「あんたがせめてもの誠意を見せる迄、入れてやンないからね」
 閉められたドアの向こうから麻衣の声だけがする。ナルがドアノブに手をかけるとカギをかけたらしく把手がまわらない。ナルは額をおさえて反論を試みる。勿論、本気で怒った麻衣が応じるかどうかなど分かっていたが、一応、念のため。
「ここは僕の事務所なんだが?」
「それが何?」
 いつもならナルが麻衣にするような返事が返って来た。ナルは観念した。
 こういう状態の麻衣に何を言っても無駄だ。再び息を吐き出して後ろに控えている少女達に向き直った。
「どうやら、あなた方の御用向きを聞かない限り僕は事務所に入れないらしい。できれば簡潔明瞭に済ませて頂けますか?」
 そうしてナルは事務所の前に居た少女達全員からチョコレートを受け取り、無事、事務所の中に入れてもらえた。


 その後、事務所に顔を見せた滝川やジョンは、昨年には無かったチョコレートの山に目を見張り、ナルは不本意だと言いた気にソファでしかめっ面 をしていた。
「よくもまぁ、これだけ来たもんね」
 松崎綾子はテーブルの上に堆く積まれたチョコレートの一つを摘まみ上げた。本命用らしく、美しくラッピングされたそれはどうも手作りのようだ。
 だが良く見ると、その殆どを手作りらしい物が占め、残りは高級チョコレートの老舗の名前が入った包みで占められている。義理らしきモノが見つからない所がナルらしくあり、受け取った所がナルらしく無い。
「半分は学校の子達から預かった分なの。事務所迄来てたのはだから、その半分ぐらいかな?」
「よく受け取りましたわね?」
 麻衣が説明するのに、真砂子がそれでも疑問を口にする。ナルの性格からして、縁も所縁も無い人物から物品を受け取るなどとは到底信じられない。
「谷山さんに事務所から閉め出されまして、致し方なくですよ」
 不機嫌もあらわにナルが言い放つ。
 それを聞いた他の面々は背筋が凍るのを止められなかった。
 ナルを閉め出した麻衣も麻衣だが、その事で不機嫌になっているのを隠しもしないナルもナルだ。そしてそのどちらも……恐い。
「でも、これ、どーすんの? ナル坊は甘いの苦手じゃなかったか?」
 受けとったは良いが、その後のこのチョコレート達の行く末を案じて滝川は恐る恐る尋ねた。とても1人では食べ切れないであろう量 と、ナルが食べるとはとても思えない故に。その質問にナルは肩をすくめて座り直した。
「麻衣は受け取れば良いと言いましたが、食べろとまでは言いませんでしたから、どうぞ、皆さんで分けて下さい。
  どなたも引き取り手が無い場合は残念ですが処分―――要するにゴミとして捨てるしかありませんね」
 そのナルの台詞に誰かが「うげっ」と呻いた。
「ちょっと待ってよ。全部あげちゃうの?」
 麻衣は焦った。
 確かに全部食べなくて良いと言った。ナルには酷な量だと思ったから。
 だけど、一つも手を触れないとなると困る。実は麻衣の手にはお手製のチョコレートケーキ。その他のチョコレート達に紛れ込ませてナルに渡してしまうつもりだったのに。
 咄嗟に一計を案じる。
「じゃあ、お茶にしよう? このチョコレートの中からどれか一つ、お茶請けにしようね?」
 これなら自分の作った物をさり気なくナルに食べさせられる。そう思ってナルに笑いかけたが、返事は素っ気無かった。
「いらない。今から調べ物をするから邪魔はしない事。以上」
 言ってさっさと立ち上がる。
「待って! 一個、一個で良いから、ううん、一口でも良いの。食べてよ?」
「食べなくても良いと言ったのはお前だろ?」
「うん、でも……全部はって言ったけど、一個も食べないってのは違うんじゃない? 本当に食べられないんだったら無理には言えないけど、ナルの場合、単に面 倒だとか、そんな理由でしょ。一口、気持ちだけでも……ねぇ、ダメ?」
 所長室に籠ろうとするナルを捕まえてもう一度聞く。いきなり袖を捕まえられて驚いた様子のナルは怪訝そうに麻衣を見遣るが、何を思ったのか麻衣の手の中の包みを取り上げた。麻衣は包みを奪われて焦る。
「なら、代表して一つだけなら食べられるだろう。他は無理だ。これで満足か?」
ナルは麻衣の目を覗き込み、焦って弛んだ手を解いて素早く部屋に籠ってしまった。
 麻衣は自分の手を見る。
 さっきまで持っていたのは自分がナルの為に作ったケーキ。
 他の子達には申し訳ないと思うが、どうやら麻衣のケーキはナルがちゃんと食べてくれるらしい。
 小さくこっそりと笑う。はずみをつけてくるりと回れ右。
「じゃあ、お茶にしようか?」
 出来るだけさり気なく、いつものように振舞う。
 成りゆきを見守っていた面々は、麻衣に気付かれないように目配せをして肩を竦める。そしてこちらも出来るだけいつもと変わらぬ 風を装って、それぞれ勝手に注文をし始める。
「俺、いつものアイスな」
「コクラン・エネのカラメルティ−あったわよね?」
「玉露を」
「所長と同じ物で結構ですよ?」
「僕もなんでもよろしいです」
「はいはいはいっ! リンさんはどうなされますか?」
「では、わたしもナルと同じ物で」
「あっ、コラ、その包みは俺が狙ってたのに……」
「そうですか、なんでしたら口移しでお裾分けしましょうか?」
「するの? 記念写真撮ってあげましょうか?」
「いらんわい!」
 クスクスと笑いながらお茶をいれに行く麻衣の姿が完全に見えなくなるのを待って全員が一斉に額を寄せ集める。
「あれって、アレ、だよな?」
「ですわね?」
「やっぱりそう思いますか?」
「でしょう?」
「見てはらへんようで、必要なトコは見てはるんですね」
「ナルは勘が良いですから」
 実は全員が気付いていた。麻衣が隠し持っていた包み。
 ナルがその包みに気付いていた事も。
 なんだかんだと、出会ってから二年近い付き合いになる。一見、無表情のように見えて、感情豊かな人間である事は何時の頃からか気がついていた。
 その切っ掛けをくれたのは件の少女。
 彼女が関わる時、かの青年はポーカーフェイスが保てなくなる。その僅かな変化を見逃さず、こうして話のネタにする。これはこれで楽しい。
 本人に知れたら、こんなにのんびりとしては居られまいが……
「しかし、上手いですよね」
「そうよね」
「あれは完全にナルが麻衣を誘導してましたわよね?」
 自分のチョコレートを渡し倦ねている麻衣と、その包みにとっくに気がついているナルと。ナルは自分が席を立つ事で麻衣を引き寄せて、その手から目的の物だけを取り上げる。不確定要素のロシアンルーレットのように見えて、その実確実に麻衣のお手製品を引き当てている。さり気なく、自然に。
「で、ナルにその自覚はあるのかね?」
「さぁ? どうでしょう。谷山さんに関する限り、無自覚にしている可能性の方が高いと思いますが」
「それじゃ、根っからのタラシの才能があるって事?」
「……ジーンは自分が他人からどう見られているか分かっていて、そういった事をしている節がありましたが、ナル自身はそういった事に興味は持っていませんでした」
「ジーンにあったんなら、ナルにもその素養はあるわけだよな?」
「今のとこ、麻衣にだけ、発揮している様ですけど」
「良いんじゃない? 所構わず発揮されたんじゃたまんないわよ」
「発揮したわけでもあらへんのに、こんだけもろてはるんやし……」
 ちょっと、全員で溜息。そこへ後ろから声がかかる。
「何、真剣に悩んでるの?」
 麻衣が不思議そうに首を傾げて立っていた。
「いえ、それぞれ適当に頂いても宜しいのですが、賞味期限の短そうなのから選んだ方がいいかと思って。で、谷山さんはどれを選びますか?」
 安原が空かさず適当な事を言う。
「作ってきた子には悪いと思いますけど、このままゴミにするよりは食べてあげた方が親切だと僕も思いますし、きっと、みんな渋谷さんに食べてもらえるとは期待して無かったでしょうし?
 気持ちは受け取ったという事にいておいて、盛大にケーキバトル、チョコレートの食べ放題といきましょう!」
「賛成〜」
「じゃ、全員揃ったところで、アシの早そうなところ、あけてくわよ?」
 


こうしてこの日、渋谷サイキックリサーチ事務所はケーキバイキング会場と化して、一日中騒がしかった。時折、騒ぎ過ぎて所長室から御叱咤を貰ってしまったりしたが、それを除けば平和な一日だったと言えるだろう。
 めいいっぱい騒いで疲れて、麻衣は家に付くなり布団に入って寝た。
 麻衣が危惧したナルの怪訝な態度も表情も今年は見られなかった。
 多分、日本式のバレンタインの知識も、一年できっちり覚えたのだろう。
 ナルの素っ気無い態度にハラは立つものの、なかなか順応してきたじゃんとか、思って笑う。
 いつか、本当の意味で、バレンタインの贈り物をあげる事ができると良いな。そして、それは、誰にだろう?
 麻衣の心に優しい微笑みを浮かべる人の姿が一瞬だけ、浮かんで消えた。そして直ぐに、その姿はそっくりだけど滅多に笑わない人物にすり変わる。
 まだ、迷ってると自分でも思う。
 こんなややこしい出合いでなかったら、自分はどちらに惹かれたろう?
 せめて来年があるなら、この気持ちに整理がついていますようにと願う。

いつまでも、こうして皆で騒いでいたい。

いつか、この心に決着を付けなければならない日が来るのだろうけど、

もう少しだけ、このまま……


 

 

本当はこっちの話が書きたかったの〜 って、裏の方々にはなんて残酷な話だ……
アメリカ式バレンタインの話は本当です
この事実を初めて知ったのは渡辺多恵子さんの 「ファミリー!」と云うコミックスです
今でもニュースを注意深く見ていると説明してたりします
んでナルちゃんとしては、アメリカ式を常識として るかな?
と、思ったらこんな話になったと言う
この話には「おまけ」がありますがこのページから飛べるようにしてあります♪
それらしい所を探ってみましょう
意外に近くかも?