下読みさんの素顔

 以上の選考の流れの中で「一次選考」を専門に担当しているのが、私たち「下読みさん」です。
 自分の書いた大切な原稿が、たった一人の下読みの人にしか読まれずに判断されてしまうということに、不安を感じる応募者もいるかもしれませんが、主にフリーの編集者・評論家・ライター、といった業界の人間を主力にする、いわゆる「下読みのプロ」が担当しているので大丈夫です。
 また、特にエンターテインメント系の作品については、誰が読んでも面白いものは面白い、誰が読んでもつまらないものはつまらない、というのが非常にはっきりとしているものなので、少なくとも、大賞候補になるような作品が一次選考で落とされてしまうなどということは、絶対にありませんから、安心して応募してください。

 ところで、編集者・評論家・ライターなどの他にも、下読みの仕事をしている人がいます。
●無名の新人作家
 まだあまり売れる原稿が書けなくて収入の少ない新人作家が、アルバイトとして下読みの手伝いをすることがあります。もちろん売れるようになれば自分の原稿を書くのに忙しくなるため、短期間だけで新人賞の裏方からは去って行きます。そして売れっ子作家になると、今度は最終選考の選考委員として、表舞台に帰って来ることになります。
 新人賞を受賞してプロデビューを果たしたという人は、どういうシステムの中で自分がデビューできたのか、機会があったら是非一度、下読みの仕事を体験してみてください。そして、最終選考の選考委員という栄冠の座を目ざしてください。
●編集者の知人など
 編集者の奥さんや友人など、自分自身は出版界の人間ではないのだけれども、出版界に知り合いがいる、という人が、人手不足の時などに助っ人として下読みを手伝う、というケースがあります。編集者型でも評論家型でも作家型でもない、読者型の下読みさんとして、彼らもまた新人賞を陰で支えてくれています。中にはそのままレギュラースタッフとして下読みのプロになってしまうような人もいるそうです。

 下読みという仕事は精神的にも体力的にも非常にハードで、中には、一回やっただけで「二度とやりたくない」と言って逃げ出す人もいるほどです。
 特に長編の下読みは低賃金重労働で、朝起きてから夜寝るまで、食事とトイレ以外は、ひたすら原稿を読み続けている、というような状況も発生します。たとえば50枚の短編に比べて500枚の長編の場合、単純に読むのに10倍の時間がかかります。しかし、もらえるギャラは、せいぜい2〜3倍です。時給に換算すればコンビニでアルバイトをしたほうが高給になることも珍しくありません。
 そんなハードな仕事を、なぜ「下読みのプロ」として続けているのかといえば、それは出版界で働く人間として、一人でも多くの優秀な新人作家を世に送り出したい、という思いがあるからです。そして未来の作家である応募者への愛があるからです。
 たった一人かもしれないけれど、あなたの応募原稿を確実に読んでくれる下読みさんが存在しています。安心して応募してください。


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