高忠実度再生と良い音  オーディオの科学へ戻る       2003.6.3 Up 2003.12.25 2、4節改訂

前置きに書いたように、このページの目的はあまりお金をかけずに演奏会に出来るだけ近い雰囲気で家庭で音楽を再現するために、どのようなオーディオ装置を構築すればよいかを物理学的、技術的側面から検討したものです。

言い換えれば、出来るだけ原音に近い音を再生(原音再生)するにはどうすればいいかということを論じています。ただ、原音そのものの再生は、(1) ステレオ録音・再生では音像情報がかなり失われる、(2)自宅のリスニング・ルームとコンサートホールでは広さが異なるので定在波の立ち方、残響時間などが大きく異なる、(3)一般住宅ではそれほど大きな音を出すわけにいかないのでオーケストラなどの再生は音量的に無理、といった理由で原理的に不可能です。そこで、次善の策として、録音された音楽情報を出来るだけ忠実に再生する、すなわち高忠実度再生(High Fidelity HiFi)を目指すことになります。

高忠実度再生とは、(1)周波数レンジ(f 特)が広く平坦である、(2) 高調波歪、混変調歪過渡歪位相歪など)が少ない、(3) ダイナミックレンジ(最大音と最小音の比)が大きい、(4) 信号対雑音比(S/N比)が大きい(5)音像定位がよい(ステレオ感が鮮明である)ことと定義出来ます。これらは、原理的に測定可能な量であり個人的な好みが入り込む余地はありません((5)は少し難しい)。このサイトでは、これらの特性を良い物理特性とよびプラスイメージでとらえています。

しかし、高忠実度再生が即良い音かといわれれば必ずしもそうともいえません。特に、ソース(CDやLP)が良くない場合、高域を落とすなど、むしろ周波数レンジが狭めた方が聴きよい音になることもあります。小さい音で聴かざるを得ない場合、低音と高音を増強したほうが実際の雰囲気に近づく(ラウドネス・コントロール)というのは古くから知られた手法です。また、高忠実度と言う点では半導体アンプに劣るにもかかわらず、真空管アンプのほうが良い音がするという人もたくさんいます。

ところで、『良い音とは何ぞや?』と聞かれると、はたと困ってしまいます。これは、個人の嗜好の問題で、誰にも定義することは出来ません。もちろん、測定で定量化して表すことも出来ません。しいていえば、その人にとって聴きよい音だとしか言いようがありません。しかも、聴覚は視覚と異なり、客観的な評価がしにくく、心理効果が大きく効きます。そのため、オーディオ機器やアクセサリーの宣伝には、手を変え品を変え、いかに物理特性が良いかを説きながらその実、超人的な聴力の持ち主にしかわからないような差であったり、時には物理特性を落とし聴きよい音作りをしているものも見受けられます。特に最近は、難しげな物理理論を展開したり、いかにも科学的であるかのような宣伝文句が多くみられます。しかも、立派(そう)な雑誌まで、その怪しげな理論を紹介し、その製品を推薦したりしています。もしあなたが、その原理を理解しようとせず、自分の耳だけを頼りに良い音を求めだすと、とどまる所なく高い買い物をさせられる羽目に陥ります。特に、実際には殆んど物理特性に差が無いものほど、心理効果が支配的になります

本文では、その典型的な例としてスピーカーケーブルをかなり詳しく論じています。その理由は、(1)最近、非常識に高額な物を含め、数多くのケーブルが様々な『理論』に基づくと称して売り出されていること、(2)ケーブルの信号伝達特性はスピーカーの音質などに比べ、すでに確立した電磁気学、物性物理学で十分よく理解できること、(3) 特に,材質にこだわることが多いようですが、私の専門は、材料科学、物性物理学で、宣伝文句などの欺瞞性が手に取るようにわかるからです。

本文に詳しく述べてあるように、スピーカーケーブルの信号伝達特性はその構造で決まり、材質には依りません。しかも、2,3mの長さですむなら、1m数百円のケーブルで十分で、可聴周波数(20Hz−20kHz)では周波数特性は完全にフラットで、歪みもありません。したがって、超高純度の銅を使ったり、凝った構造をした、高価なケーブルに変えて音が激変したという話しはまず心理効果と見て間違いありません。

ただし、物理特性を落とすことは可能です。といっても、それほど簡単でなく、少々構造を変えたくらいでは変化しません。ただ、途中でフィルターを入れると当然高域が落ち、あるいは聞きやすい音になるかもしれません。実際、外国の高級ケーブルにそれらしきものがあるようです。このようなケーブルは、抵抗値だとか、静電容量などの基本的なデータが載せていないと思います。

あるいは、合金線を使うと抵抗値が大きくなり、スピーカーのダンピングファクターが低下し一見(一聴)低音が良く出ているように感じることもありえます。白金線を使ったケーブルもあるとか、これも同類です。

ところで、最近のスピーカーは、ハイサンプリング対応と称して高域の再生限界を100kHz以上に伸ばしている物がみられます。その是非は『高域再生は何処まで必要か』を見ていただくとして、このようなスピーカにはフィルターつきのケーブルを使うといい音がすると言う話しもあります。まさに現代の『矛盾』です。

と言うことで、このサイトではオーディオ機器の物理特性が何できまるかを論じています。内容には、オーディオ界の常識に反するようなことも書いてあり、反撥を感じる方も多いと思います。そういう方は、ここ(科学的とは?)も読んで下さい。