過労性疾患の解説
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「私は頸肩腕症と診断されつつ、辞められない事情があって毎日痛みと闘いながら仕事をしてきました。切羽結ってとうとう来月で退職することに」。昨年四月、芝病院の職業病科・過労性疾患外来を独立した芝大門クリニック。そのホームページには「助けて」という悲鳴のようなメールが次々と寄せられています。いまや労働者の駆け込み寺になっている芝大門クリニック・渡辺靖之所長に話を聞きました。

掲示板みて来院

「深刻な患者さんほど相談先に困っているのではないか」。以前から患者層が狭い範囲にとどまっていることに手詰まりを感じていたという渡辺医師。そんなとき知ったのは米国でのインターネットの活用です。

頚肩腕症候群(米国ではRSI=反復ストレス障害)の患者同士がホームページで情報をやりとりしていることを三年前に知り「これだ」と。そんな思いでホームページを立ち上げたのは昨年七月のことでした。

これまでのアクセスは25000件余、診療相談の「掲示板」でのやりとりは450回を超えました。相談は関東近辺だけでなく、岩手県や鹿児島県からも寄せられ、ほとんどの人がその後診断を求めて来院しています。渡辺医師は「掲示板」をみて「自分と同じだ」という人が多いですね」と語ります。

深刻さが違うと

「頸肩腕症候群の新患のうち8割がインターネットで相談してきた人。その半数は派遣労働者です」と渡辺医師。正社員と同程度の勤務なのに社会保険は未加入、加入していても休業と同時に解雇扱い、傷病手当や継続療養制度について何の説明も受けていない、など無権利状態に置かれている労働者たち。一方では正社員でも月の残業が100時間以上は当たり前など、過労性疾患を招く労働実態があきらかになってきました。

ファミリーレストランの店長・30代男性は、自分以外はすべてアルバイトという労働環境の中で、利益ノルマと人手不足を背景に連日の勤務を余儀なくされ、月間総労働時間は400時間にも及んでいました。慢性疲労と20kgの体重減で受診、休業療養したものの結局は退職せざるをえませんでした。

渡辺医師は「これまでの患者さんとは重症度・深刻さが違う」と言います。「ほとんど休業するかしないかの段階で、つらいからと退職してから来る人も多い。重症度診断の重要なスケールで言えば、男性で通常120kg以上ある背筋力が80kgにまで落ちているといった具合ですね(女性では80kgが40kgに)」。

双方向性重視し

一方通行の情報提供ではなく「患者さんと医療機関スタッフとの双方向のやりとりを重視している」という言葉どおり、診療相談以外にも療養相談や在宅介護など、計四つの掲示板を設置してさまざまな疑問や不安、悩みに応えています。

また労災相談では労災専門のケースワーカーも相談活動を行っています。中には労災保険の適用をと助言した患者さんが、かかりつけの整形外科医に相談したところ「何を甘えてるんだ」と言われ、泣く泣く駆け込んできたという事例も。労働者としての権利を活用させるうえでも、クリニックの果たす役割は大きなものがあります。

職業病センター

一般の整形外科では頸肩腕症候群の診断を下すことはできても、重症度の判定までは困難なのが今の状況です。しかも頚肩腕症候群の専門クリニックは他にはほとんどない。だからこそ、少しでも役に立てるなら、と渡辺医師は日々メールに向かい合っています。

「芝病院・芝大門クリニックは民医連の労災・職業病のセンターと言われますが、じん肺診療グループも積極的に患者掘り起し活動を積み重ねてきています。頸肩腕症候群だって同じ。待っているだけではタメ。それでは本当に困っている患者さんに、私たち民医連の存在を知られることさえできないんです」。



ホームページから

A子「今年3月頃、左手をひねった際痛みが走りました。6月に入って手首、手のひら、指の付け根、小指の側面、指がぴくぴく痛み、さらに腕が肩から指先まで重く病み、ひどいと夜も眠れません。整形外科でレントゲン・採血・MRIと検査しましたが異常なし。接骨院にも通って治療してきましたが状態が変わりません。仕事は端末処理(PC等)や電話対応が主です。仕事を休むことができないし、あまりにもよくわからない名前を並べられ、会社の人に説明すらできない状態てlいます」

渡辺「胸部出口症候群(頸肩腕症候群の一部)が考えられますが、頚椎症も否定できません。手指にも症状があるので頚椎症性神経根症あるいは頚椎稚間板ヘルニアという診断名です。いずれにしても実際に診察してみないとはっきりしません。遠方でなければ一度受診して<ださい」

B子「頸肩腕症の場合、失業保険を貰うことは難しいのでしょうか。私は派遣社員で、失業保険がもらえないとなると、生活がかなり厳しいので、今とても悩んでいます」

斉藤(SW)「派遣の方の健康保険を任意継続にすれば、傷病手当はもらえると思います。総合的に考えて、安心して療養できるようにすることが肝心です」


(東京民医連機関紙「みんいれん」10月5日号より)


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