■ AVRマイコン制御 AMラジオ・トランスミッターの製作 ■


 友人から、AMラジオに音楽を送信できないかと依頼され、音質や安定性を考えてもFMの方が格段によいと伝えましたが、AMラジオ特有の音の質感を好む方もいると言うことで、製作に着手しました。
 
 古い雑誌は処分してしまい、ネットで探しても、作り込んでおられる方は見あたらず、送信電波もRCやLC発振器なので、周波数の正確さや安定度に不安が残りました。
 特にPLLシンセサイザー式のラジオでは、531KHzから9KHz間隔のチャンネルしか受信できないため、RC発振器の電波では送信側でもチューニングが必要になります。
 送信側の発振器を水晶式にすれば、この問題を解決できますが、チャンネルが1つに固定される上、適当な周波数の水晶を入手することも困難です。
 
 そこで、RC発振器をVCO(電圧制御発振器)にして、マイコンで周波数を計りながら、チャンネルの変更と周波数の安定を実現する、簡易PLL機能を搭載することにしました。
 
 VCOやAM(振幅)変調は、回路も複雑で思案していた所、ファンクションジェネレーター用IC「XR-2206 (EXAR社)」が、この構想にピッタリではないかとひらめきました。
 ・VCOを内蔵し、外付けの抵抗値(電流値)の可変で、周波数を1MHzまで制御できる。
 ・外部の電圧で、VCOの発振周波数にAM変調をかけられる。
 ・VCOの発振周波数を直接測定が可能な、オープンコレクタの方形波出力がある。

 
 1個400円のICと、100円のマイコン・D/A・OPアンプ・他で製作した、送信チャンネル16、送信周波数安定度±50Hz以内の、AMトランスミッター(AM送信機)です。
 真空管ラジオから、お好みの音楽が流れます!


回路の解説
 
1.電源回路

 
 ・XR-2206は10V〜26V動作なので、安定した12V電源を確保するために、15V以上の
  ACアダプターが必要です。
 ・スイッチング式のACアダプターは、それ自体がノイズを発生し、AMラジオに雑音が入りますので、
  トランス式のACアダプターがお勧めです。
 ・回路と基板上には、電源トランスを接続することもできるようになっています。
 
 ・マイコン回路は、5Vで動作させます。
 ・これにより、12Vと5Vの3端子レギュレータを搭載しています。

2.AVRとクロック
 
 ・AVRマイコンは、「ATtiny2313-20PU」を使用し、8MHzの水晶発振子で動作します。
 ・この8MHzの信号を基準にして送信周波数を計測しますので、8MHzの周波数を較正するために、
  トリマー・コンデンサが付いています。
 ・調整方法は、下記「操作方法」に記載してあります。
 ・周波数カウンターを持ち合わせない場合は、トリマー・コンデンサの部分に、22PFのセラミック
  コンデンサを取り付けて下さい。

3.周波数の計測
 
 ・AVRのTimer0で4mSの割り込みを発生させ、25回カウントすることで100mS毎に周波数を
  計測します。 (100mS間隔の計測なので、1Hzの桁は無視します)
 ・XR-2206から、VCOの発振周波数と同じ周期の同期パルスが、オープンコレクタ出力で出て
  来ますので、5Vのプルアップ抵抗と共に、AVRのTimer1[T1]端子に入力します。
 ・周波数の測定処理は、当ページの周波数カウンタ記事を参照して下さい。

4.チャンネルの選択と周波数の追従
 
 ・XR-2206はタイミングコンデンサと共に、タイミング抵抗器の抵抗値を可変することで、
  発振周波数が変えられます。
 ・抵抗を接続する端子は定電圧になっており、端子より流れ出る電流容量によって、周波数が
  変わります。
 ・そこでOPアンプにより、D/Aコンバータ「MCP4922-E/P」からの0〜5Vの出力電圧を、
  タイミング抵抗端子の定電圧(3V)に加算し、「電圧→電流」変換を行います。
 ・これにより、マイコンからのデジタル値で、VCOの発振周波数が変えられる様になるので、
  チャンネルの選択を行うと共に、計測した周波数とチャンネル周波数の差を計算し、
  送信周波数を安定させています。

5.AM変調回路とオーディオ入力
 
・XR-2206には、AM(振幅)変調回路が内蔵されており、振幅変調端子に
 4Vを基準に±2Vの交流信号を入力するだけで、VCOの発振周波数
 (送信周波数)に対して、簡単にAM(振幅)変調が行えます。
← XR-2206のAM(振幅)変調波形。(キャリア675KHz、Sin波1KHz)
 ・オーディオ入力は、左右のステレオ信号をモノラルにして、各種レベルの違うプレーヤーに対応
  するために、感度調節用のボリュームを用意してあります。
 ・このオーディオ信号に、3.8V(変調の深さを制限するため)のオフセットを加算し、20倍に増幅
  した後、振幅変調端子に入力します。

6.ピークレベル検出
 
 ・オーディオ信号が振幅変調端子の規定レベルを超えると、変調が頭打ち及び反転し、
  ラジオからの音が歪みます。
 ・これを防ぐために、AVRのアナログ・コンパレータを使い、オーディオ信号の片波だけですが、
  AM変調の95%程度でコンパレータ(しきい値1.1V)が反応し、ピークレベルLED(赤)を点灯します。
 ・赤LEDが時々点灯する程度に入力ボリュームを調整すると、ダイナミック・レンジが広く取れます。

7.高周波増幅
 
 ・高周波コイルやバーアンテナを使い、より強い電波を出したかったのですが、送信チャンネルを
  変更できる仕様にしたため、コイルを使用すると、チャンネルを変えるたびにコイルの同調が
  必要になります。
 ・これには手間がかかるため、電源電圧の範囲内での単純なトランジスタ増幅回路にしてあります。
 ・送信アンテナ線をラジオのアンテナに巻き付けるか、ループアンテナ等の送信アンテナを用意する
  工夫をして下さい。
 ・送信電力(電界強度)の規制は守って下さい。




回 路 図  PDF版 AM_Trm_Cir.pdf (347KB)

部品配置図  GIF版 AM_Trm_Pcb.gif (156KB)  部品表
アートワーク  GIF版 AM_Trm_AW.gif (45KB)  
   注意! この図面を使用した、いかなる損害にも責任を負いません。

プログラム  テキスト形式 ソースファイル  AM_Trm101.TXT (16KB)
 BASCOM-AVR用 ソースファイル  AM_Trm101.bas (16KB)
 インテルHEX形式 オブジェクトファイル  AM_Trm101.hex (5KB)
 
注意! 著作権は放棄しておりませんので、販売や配布目的での使用は絶対にしないで下さい。

       (記事の無断転載を除き、個人での使用は可能です。 改変、自作品の掲載、リンクもご自由に。)



 
正面

 
後面
 
内部 上面 (16φボリューム)

 
内部 右側面

 
内部 左側面
 
プリント基板

基板 部品面

基板 ハンダ面


AVRマイコン ATtiny2313の、ヒューズ ビット書き換え
 
AVR ATtiny2313のシステム クロックは、工場出荷時に内蔵RC発振器の8MHzで、1/8前置分周器がONに設定されているので、外部のクリスタルを使用するには、AVRのヒューズ ビットを書き換える必要があります。

下記ページの書き換え方法 「6.」を、以下の様に変更して、ヒューズ ビットの書き換えを行います。

    ヒューズ ビット書き換え

 6.[ FusebitC ] の右欄 [ 0:Divide Clock by 8 Enabled ] をクリックすると、右側にプルダウン
   メニューが現れますから、 [ 1:Divide Clock by 8 Disabled ] を選択します。
 
   [ Fusebit KLA987 ] の右欄 [ 100100:Int. RC Osc. 8 MHz; Start-up time: 14 CK +
    65 ms; [CKSEL=0100 SUT=10]; default value
] をクリックすると、
   右側にプルダウンメニューが現れますから、
   [ 111111:Ext. Crystal Osc.; Frequency 8.0- MHz; Start-up time: 14 CK + 65 ms;
    [CKSEL=1111 SUT=11]
] を選択します。

「AVRWRT」 ライターの場合は、AWRT_AM_Trm.gif

◎BASCOM-AVRで「AVRISPmkII」の書き込みウィンドウを使用する場合は、ヒューズ ビットが自動で
 変更されます。




製作について
 
部品表は、部品の背が低い順に記載してありますので、この順番に取り付けて行きます。
 
・ジャンパー線は、すずメッキ線や、被覆電線を使用して下さい。 (3本)
・1/6W抵抗器は、3目 (2.54X3 = 7.62mm) ピッチで両端を折り曲げて取り付けます。 (26本)
 (1/4W抵抗器でも可、横置きまたは縦置き)
注1.XR-2206のロットにより、周波数の設定電流値が変わりましたので、配置図の15K(10K)Ω
 抵抗器を、IC表面のロット番号に合わせて選定して下さい。 (2206CP型番の下の数字)
 他のロット番号の場合も、周波数により受信が出来ない場合は、抵抗値を変えて下さい。

・ダイオードは、3目 (2.54X3 = 7.62mm) ピッチで両端を折り曲げて取り付けます。 
・積層セラミックコンデンサは、5.08mmピッチの物が取り付け可能です。
・フィルム・コンデンサは、ディップマイカ・コンデンサなどでも代用できます。
・電解コンデンサは、すべて縦置きです。 (極性に注意して下さい)
・トリマー・コンデンサは、周波数カウンターをお持ちの場合に取り付けて下さい。
 (周波数カウンターが無い場合は、22PF (積層)セラミックコンデンサを取り付けて下さい)
・水晶発振子は、HC49USタイプを推奨。(背の高いHC49Uでも可)
・トランジスタは、2SC1815同等品でも可。
・IC類は、1番ピンの向きを間違えないように取り付けて下さい。。
・DIPスイッチはケースの選定上、横向きのピアノタイプを使用しています。(ケースにより任意選択)
・ISP端子 ピンヘッダは、AVRマイコンのプログラム書き込み時のみに使用します。
・三端子レギュレータは、1Aタイプを使用していますが、12Vは100mA、5Vは500mAタイプでも可。
・LED(発光ダイオード)は、図面のようにL型に折り曲げて取り付けます。(ケースにより任意選択)
・ボリュームは、標準で基板取付タイプです。
 (16φの汎用ボリュームを使用する場合は、基板を切り取り線でカットすると、位置合わせが
  自由にできます)
・RCAピンジャックは、ミニプラグ(イヤホン用)などに変更も可能です。
 
・ケースなどの機構部品は、任意で選択して下さい。
・ACアダプターは、トランス式 (定電圧無しタイプ)を推奨します。 (形が大きく重い物)
・ACアダプターは、中央のピンが+側のセンタープラスタイプを用意して下さい。(配線で変更可能)
 (12V200mA程度のトランス式ACアダプターは、15V〜18Vの電圧が出ています)
 
・ケース内にトランスを組み込む場合は、オプション部品の整流ブリッジと電解コンデンサが
 基板に取り付けできます。



操作方法
 
1.電源を入れる
 
 ・周波数選択のDIPスイッチ(1〜4)を任意の送信周波数に選択し、他のスイッチ(5〜8)を
  オフ(上側)にして電源を入れると、送信が開始されます。
 ・電源やマイコンが正常に動作していれば、電源状態を示す青LEDが点灯します。
 
 ・青LEDが「点滅」する場合は、DIPスイッチ(5〜8)をオフ(上側)にして下さい
 
周波数
OFF OFF OFF OFF 675KHz
OFF OFF OFF ON 666KHz
OFF OFF ON OFF 657KHz
OFF OFF ON ON 648KHz
OFF ON OFF OFF 639KHz
OFF ON OFF ON 630KHz
OFF ON ON OFF 621KHz
OFF ON ON ON 612KHz
周波数
ON OFF OFF OFF 603KHz
ON OFF OFF ON 594KHz
ON OFF ON OFF 585KHz
ON OFF ON ON 576KHz
ON ON OFF OFF 567KHz
ON ON OFF ON 558KHz
ON ON ON OFF 549KHz
ON ON ON ON 540KHz

 
2.入力感度の調整
 
 ・後部RCAピンジャックに、CDプレーヤーや携帯プレーヤー(ミニプラグ→ピンプラグ変換コードが
  必要)を接続します。
 ・音楽等を再生し、「入力ピーク」表示の赤LEDが、時々点灯する程度に「入力感度」ボリュームを
  調整して下さい。
  (赤LEDの点灯が多い(長い)場合は、ラジオから再生される音が歪みます)
 
 ・携帯プレーヤの場合、「入力感度」ボリュームを上げても、赤LEDが点灯しない時は、
  携帯プレーヤー側の再生音量を上げて下さい。

 
3.アンテナの接続
 
 ・この送信機は送信電波が弱いため、必ずアンテナコードを準備して下さい。
 
 ○方法1
 ・1mm程度のビニールコードを1〜3m用意し、コードの両端を
  ピンプラグのピンとGNDに取り付けます。
 ・コードの先に直径15cm程度の輪を作り、途中はビニール結束線で
  縛っておきます。
 ・この輪とラジオのバーコイルの向きが合うと、2mほど離れて
  受信できます。
 ・ラジオのアンテナによって、輪の大きさが受信感度に影響します。
 
 ・下記にあるミニコンポのアンテナの場合は、ビニールコードの輪とアンテナの輪を重ね合わせて
  下さい。
 ・注意.あまり長いコードを部屋中に張り巡らしたりすると、近隣に電波障害の迷惑がかかる
  可能性がありますので注意して下さい。


 ○方法2
 ・ミニコンポなどに付属されている安易アンテナをアンテナ端子に
  接続すると、3mほど送信距離が伸ばせました。
 ・直径15cmの楕円形プラスチックに細い溝が付いており、1mmの
  ビニールコードが7回巻いてあるだけの物です。
  (自作も可能かと思います)

 ○方法3
  ・ネットなどを参考に、ループアンテナとバリコンを使用した同調型のアンテナを自作し、
   受信側に適用する。
  ・送信側に使用する場合は、送信電力(電界強度)の規制を守って下さい。

 
4.調整モード
 
 ・AVRに接続されている8MHzの水晶により、送信周波数を計測して追従しているため、
  より精度を上げたい場合は、この8MHzの発振周波数を校正します。
  (特に較正しなくても、ラジオの受信に大きな影響は出ませせん)
  (較正しない場合は、トリマー・コンデンサの代わりに、22PF (積層)セラミックコンデンサを
   取り付けて下さい)

 
 ・DIPスイッチ(8)をONにして電源を入れると、較正モードに入ります。
  (青LEDが1秒おきに点滅し、赤LEDが5秒おきに点滅します)
 ・AVR「ATtiny2313」の14ピン[OC0A]に、4MHzの信号が出て来ますから、周波数カウンターを
  接続し、トリマー・コンデンサを回して4MHzに近づけて下さい。
 ・この時アンテナ端子からは、この装置が送信できる最大と最低の周波数が5秒おきに交互に
  出力されますので、520KHz±10KHzと、690KHz±10KHzであることを確認します。
 
 ・周波数カウンタを持ち合わせていない場合は、トリマー・コンデンサの代わりに、22PFの
  セラミックコンデンサを取り付けて下さい。


 ・通常動作中にDIPスイッチ(7)をONにすると、周波数追従の様子が見られます。
 ・周波数が変動し、追従動作が行われると、青LEDが200mS間消灯します。
  (室温の変化が激しい時などは、点滅しながら追従している様子がわかります。
 ・このスイッチは、AMトランスミッターの機能(状態)に何の影響もありません。



MDウォークマンが置けるように、ディスプレイ台を
作ってみました。

アクリルの一枚板を折り曲げただけです。


 動 画 



○パーツの参考資料
 ・プリント基板  「サンハヤト」 感光基板 43K ガラスコンポジット 片面 1.0tx100x150mm
 
◎ このプリント基板と、書き込み済みAVRを、実費頒布しております。
 
  基板・部品の頒布室



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