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Vulcan's Hammer
バルカンのハンマー


バルカンのハンマー (ヴァルカンズ ハマー) Vulcan's Hammer
   / 原作:フィリップKディック 訳:katz-katz 発表 1960

−  第1章  −
ユニティ(Unity)のオフィスを出ると直ぐに、アーサ ピット(Arthur Pitt)は暴徒の存在に気づいた。
角で止まると、車の横で煙草に火をつけた。ドアの鍵を開け、書類カバンを握りしめ、暴徒の様子を観察した。
奴等の数は、50から60。労働者、事務員、銀縁眼鏡の下級官吏、町の住人だ。後は、整備員、トラック運転手、
農民、主婦、白のエプロンは食料品商だろう。平凡な奴等だ。ロワー ミドルクラス、いつもの奴等。

ピットは自動車へ滑り込む。ダッシュボードにマイクをはめる。それは彼が最高位である事の証。彼は
『南部アメリカ監督官(South American Director)』。暴徒の動きは速かった。通り一杯に拡がると、
こっちに近づいてくる。静かに、勢力が膨れ上がる。
奴等は間違いなく、彼のTクラス制服に気づいたのだ。ワイシャツおよびタイ、灰色のスーツ、フェルト帽。
書類カバン。黒い靴は輝き、コートの胸ポケットの中には、きらめくペンシル ビームがある。彼は、
金のチューブ クリップを外し、準備をした。そして叫ぶ。「緊急事態発生!」
ダッシュボード スピーカに、返信が届く。
「こちらトウブマン監督官(Director Taubmann)。君は、どこにいるんだ?」
遠く離れた当局からの音声が彼に届いた。
「まだアラバマの杉栽培地の中です。周りに暴徒が集まっています。このままでは道路を封鎖されます。町全体に拡がりそうです」
「ヒーラー達(Healers)かな?」

少し離れた路側の縁石の上に、大きな頭に、短く髪を刈った年のいった男が、静かに立っていた。
淡茶色で、腰の周りに節のあるローブを着て、サンダルを履いていた。「奴だ」とピットは言った。
「ヴァルカンV(Vulcan 3)でここをスキャンして下さい」
「了解した」スピーカは答える。しかし、暴徒はもう車の周囲を埋めている。
彼等の指が、車を引っかき、探る音を、ピットは、じっと聞いていた。椅子にもたれて、ドアを二重にロックした。
窓は閉められ、フードはしっかりと降ろされている。自動車に装備された防御装置の駆動スイッチを入れた。
彼の周囲で、自動車の防御システムは動き出し、装甲の状態をチェックする機械音がする。
 縁石の上では、あの淡茶色の男が、まだ、じっとしていた。数人の普通の服を着た者達が、
周りに立っている。ピットはスキャナを抜き、それを抱えた。

岩がガツンと、窓の下、自動車の側面に当たった。車体が揺れる。彼の手の中でスキャナが揺れ動く。
ニつ目の岩が、窓に直接当たり、クモの巣の様なひび割れが起きた。
ピットはスキャナを落とした。「助けてくれ!こいつらは本気です」
「既に救助員が向かっている。スキャンし易い状態にしていてくれ。うまくキャッチ出来ていないんだ」
「また、出来ないのですか!」とピットは怒って言った。
「奴等は私の持っている物を見て、いやがらせに、石を投げて来たのです」
その時、リヤ ウインドウが割れた。何本もの腕が、車の中へ突っ込まれる。辺りを探っている。
「直ぐに、ここを逃げなくてはいけない。トウブマン監督官!」
ピットの目に、車の自律機構が、壊れた窓の修理を行う様子が入る。しかしピットの微笑には希望がない。
修理はうまくいかないのだ。プラスティック ガラスは、自己成形されているが、
暴徒の手がそれを塞ぎ、邪魔をしている。

「パニックになっても、仕方ないよ」とキンキンした音で、計器盤から声がする。
「寝てれば良いって言うのですか?」ピットはブレーキを解除した。自動車は数フィートを前へ動く。
しかし、止まった。もう動く事は出来ない。
モータは沈黙し、車の自己防衛装置の立てる、低いうなり音も止まってしまった。
冷たい恐怖が、ピットの胃に登って来る。彼はスキャンし易くする事は諦めた。震える指で、彼はペンシル ビームを取り出した。
4人、いや5人が、ボンネットに跨り、彼の視野を遮っている。彼の頭上、車の天井に乗っている者もいる。
突然、狂った様に暴れ、吼える暴徒。ついに熱線ドリルで屋根を切り始めた。

「何時になったら来るんです?」ピットは、叫んだ。
「閉じ込められているんだ。こいつらは、ある種の干渉プラズマ波を使っている。全ての機器に障害を与えているんですよ!」
「もう直ぐ着くから」穏やかな金属声に、緊迫の様子は無かった。彼の状況とは、はるかに離れた場所にいる。
血の通わない、組織の声だ。落ち着いた、思慮深い声!危険とは無縁の場所にいるからだ。
「急いだ方が良いと、思うのですがね!」岩が次々と当たる。車はきしみ、揺れる。車体が、恐ろしいほど
大きく傾いた。ひっくり返そうと、暴徒が持ち上げ出したのだ。既に後部座席のドアは破壊されていた。
暴徒は腕を突っ込み、鍵を中から開けようとする。
 ピットは、その暴徒の腕を、ペンシル ビームで灰にした。残った上腕が、半狂乱で、引き戻された。「やった」
「もう少し、スキャン出来る様になれば …」

 更に多くの手が現われた。車の内部は、恐ろしく熱くなっていた。熱線ドリルは、ほぼ貫通してしまった。
「仕方がない」ピットはブリーフケースにペンシル ビームを当て、全てを燃やし尽くした。
それから、ポケットの中身、グローブ ボックス内の品、身分証明書、最後には財布も燃やした。
溶けたプラスチックが黒い塊になると、彼は妻の写真を見た …そして、その写真も消えた。

「奴等が入ってくる」彼は静かに言った。車の側面が、軋んだ音を立て、ドリルの力に横に崩れる。
「ピット監督官、もう少し待って下さい。救出員は、もう直ぐ着きます …」

 不意に、スピーカの声は消えた。腕が彼を捕まえ、座席に投げつけた。彼のコートは破れ、タイは剥ぎ取られた。
彼の鋭い叫び声が響く。岩は彼の顔に投げつけられる。ペンシル ビームは床へ落ち、割れた瓶が、
彼の目と口に叩き付けられた。彼の絶叫も、息の出来ない沈黙に消え、何人かが、彼の体に馬乗りになる。
ピットの体は、暖かい人間の体が、かもし出す香りの中に沈んで行く。

 ダッシュボードの上のシガーライターに偽装したスキャナが、そのシーンを記録していた。それは、
まだ動作していた。ピット自身は知らなかったのだが、その装置は彼の上司によって取り付けられ、
供与されたものだった。争う人の塊から、手が伸び、ダッシュボードを探る …とても正確にケーブルが、
引き抜かれ、偽装されたスキャナは、機能するのを止める。ピットと同じく、それも寿命を迎えたのだ。

 ハイウェーの彼方、警察クルーのサイレンが、不吉な甲高い音を立てる。
 侵入していた腕は消えた。群集の中へ …また潜り込んだのだ。

..............


第1章の前半部を、そのまま、載せました。全14章に、なっております。

本作品は、紙媒体への翻訳権は、クリアしているのですが、電子配布は、権利クリアしておりません。
そのため、ここでは、部分発表となります。全文を読みたい方は、お手数ですが、盛林堂さんの方に、
お問い合わせ、お願い致します。

記:2013.05.25


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三分 小説 備忘録

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