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永久戦争 (1993)新潮文庫
永久戦争


変数人間 The variable Man / フィリップKディック 訳:浅倉久志のあらすじ
初出 Space Science Fiction(1953.9) 原稿到着1953 短編 第67作

ちょっと長いので、記憶すべき、登場人物の紹介
公安長官 エリック (ラインハート)
研究所長 ピョートル (シェリコフ)
変数人間 トマス (コール) 
あとは、その場、その場で、毎回、職名を説明しています。『マーガレット大統領』とかで。

エリック公安長官は中央コンピュータの戦略成功確率の上昇を見ていた。
「長官!確率はどんどん上がっています」
「ああ、これでケンタウルスの奴らに、ようやく攻撃を食らわせる事ができる」

2136年5月7日、ケンタウルス対地球の戦勝確率は21対17でケンタウルス有利だった。
負けている!しかし、その前の週は18対24で地球不利だったのだ。
(管理者 注:合計値が一定でないので、判りづらい!おまけに数字の順番変えるな!)

「もう少し我慢だ。しかし、数字が逆転したら、一気にやるぞ!」
軍事コンピュータは、全軍事状況を把握している。この判断は絶対だ。

最初の接触が有ってから百年。ケンタウルスは地球を包囲している。
その鉄の輪をくぐる事は難しい。ケンタウルスを打ち砕かなくては。
(管理者 注:鉄の輪に関しては、拙訳:『人脳宇宙船=Mr.Spaceship』 を読んでね)

軍事研究所のピョートルはエリック長官の訪問を受けていた。
「何の用ですか?私はイカロス爆弾の完成で忙しいのです」
「超高速爆弾か、けっして防ぐ事のできない攻撃」

「そうです。ヘッジ研究員が偶然見つけた超兵器!彼は超高速の物質移送を研究していた。そして超高速で送出する事を
   可能にした。しかし、それを受け止める事は不可能だった。とてつもないエネルギーで到着の瞬間、それは爆発
   してしまう。受け止める手段はない。失敗だった。しかし失敗ではなかった。それが積荷ではなく、爆弾なら」
「ともかく、イカロスの研究開始以来、戦勝確率は上がるばかりだ。もし完成すれば」
「頑張ります。もう少しです。複雑な配線が残るだけです。あと十日あれば...」


翌日、エリック長官は歓喜した。戦略成功確率が変化したのだ。
「7対6で地球有利」(管理者 注:もう、あきらめましょう)
緊急動員が掛けられた。評議会に、この議題をかけ戦争を開始するのだ。


「しかし、まだ確実とは言えないわ」
マーガレット大統領は慎重だった。
「でも、こう騒ぎが大きくては、話を進めない訳にもいかないわね」

「まず必要なのは、ケンタウルス艦隊の殲滅です。それに主星が消えれば、彼ら自身の辺境の惑星も、独立を始める。
   内乱になるのです。我々が全てを掌握しなくとも良い。うまく武器を渡せば、後は彼等自身がやってくれる」
いよいよ、戦争が始まるのだ!


しかし、エリック長官は翌日、驚く。戦略成功確率が変化したのだ。
「24対4でケンタウルス有利」

どうして、こんな事が、たった一夜で。

しかし次の瞬間、確率はまた変化した。次々と。
「38対6でケンタウルス有利」
「86対48でケンタウルス有利」
「15対79で地球有利」
そして、空白。
ボードは何の数字も表示させなくなった。

「どうした?壊れたのか?」
「壊れてはいません。処理できない要因が増えたのです」
「何だ。その要因と言うのは?」
「調べます...わかりました。この症状の原因となる変数は、このデータです」

『2136年5月9日 調査バブルの回収中に、過去から、若干の物質が持ち込まれた。その中には、
   20世紀初頭の男が含まれていた。男は、研究所から逃げ出した。現在、男の行方を調査中である』


トマスが竜巻に襲われた時、彼は砥石でナイフを砥いでいた。修理屋の彼には簡単な仕事だった。
それに彼ほど何でも修理できる人間は、この辺りにはいなかった。


荷馬車と共に吹き飛ばされた彼の目の前にいたのは、白い服を着た人々だった。
トマスは驚いた。彼らも驚いた。トマスは逃げ出した。通路を荷馬車で逃げた。こんな所からは早く逃げないと!
彼の判断は正しかった。怒号や銃の音が後ろで聞こえた。しかし、彼は逃げ切った。

エリック長官は部下に指示を出していた。
「この異常な事態の原因は、この男である可能性が強い。彼を探せ!殺しても構わん。
   それから、研究所の奴らを皆、拘束しろ。裁判にかけるんだ!」


トマスは研究所から逃げた。こんな変な場所とはおさらばだ。ようやく雑草とがれきの場所に出た。
彼は気づかなかったが、そこはセントラルパークだった。

なんだ?この公園はまるで作り物。変な町だ。まるで映画のセット。同じ形の家が、はるかまで続く。
小さな庭と芝生までそっくり。そこに住む人間の服装。
まるで、透明な金属だ。それに、あの女と来たら、何も着ていないに等しい。
(管理者注:おなじみのディック ギャグです。未来の女は、何も来ていない![様に見える])

彼は一軒の家のベルを鳴らした。
「何だ。お前は?」
「すいません。仕事を探しています」
「仕事なら、連邦就職斡旋庁に頼むしかないだろう。何を言ってるんだ?それより、後ろのものは何だ。
   まるで馬じゃないか?第5次世界大戦で絶滅した奴だろ?もう100年も前だ。どうやって手に入れたんだ?」
「すいません。帰ります」
「ちょっと待て。私は警官のウィンスロー監督官だ。聞きたい事がある!」


トマスは逃げた。荷馬車に乗り、一目散。そして思った。ここは未来だ!


「エリック長官。馬に乗った男が見つかりました」
「よし早速、空挺部隊を出せ」


トマスが振り返ると巨大な飛行機が迫っていた。
彼は慌てて、荷馬車を止め降りた。飛行機は大地に迫り、爆撃を行った。トマスは吹き飛ばされた。服に火がついた。
彼は、溝の隙間に落ちた。火を消す。更に爆撃が続いた。彼の体は地面の下に覆い隠された。

トマスが目を開けると、飛行機は去って行った。荷馬車は消えていた。奴らはまた来る。確認のために!
トマスは必死で逃げた。奴らは信じられない武器を持っている。そして俺は、奴らから狙われている!


町に着いた。ここで何とかしなければ、しかし今の俺は、ポケットの中に幾つかの工具を持っているだけ...

「僕の星間映話器を返せ!あ!壊れてる!お前のせいだ!早く直せ!」
子供達が、けんかをしていた。

「ちょっと見せてくれ」
トマスは子供から、その玩具を預かった。裏返すと、複雑な突起があった。トマスは、ゆっくりとそれを撫でる。
「あ!このおじちゃん、開けちゃった!本当に直せるの?」
「少し、見せてくれ」
トマスはじっと中身を見つめた。見た事もない程、複雑だった。しかし、その内に、仕組みが少しづつ判って来た。


「ほら。なんとか直ったぞ」
「本当?...すごい、本当に直っている」


トマスはお礼に貰った食事を食べながら、更に、逃げ続けた。


「これが、その映話器か?」
エリック長官は部下の報告を聞いていた。

「はい、過去からの男が修理したものに、間違いありません。そして、これは、
   もはや玩具ではありません。八光年先の戦艦とも通話できるのです」
「やはり、彼は危険だ。奴の行動は我々の理解を超えている。すぐに捕まえろ。
   殺しても構わん!奴は、この現代には相応しくない、混乱をもたらす過去の遺物だ」


トマスは逃げ続けていた。しかし、あてはなかった。山の中で寝た。ここで動物を狩って暮らすか?しかし、冬はどうする?

その時、上空に影が出来た。仰ぎ見ると、巨大な船だった。トマスは逃げ出した。船からは降下部隊が飛び降りた。次々と。

トマスは必死で逃げた。しかし、彼らに追いつかれた。取り囲まれた。そして拘束された。
「お前は逃げられない。いいな。一緒に来てもらおう」


トマスは空中艇に乗せられた。船は飛んだ。
「始まりましたよ」
操縦士が上官に言った。モニターには、彼が先ほどまでいた。アルバーティン山脈が映っていた。
しかし、雷光が数発光り、その後には山脈は残っていなかった。

「危ない所だったな。わたしはピョートルだ。君を抹殺するために、エリック長官は、あらゆる事をする。
   しかし我々は君の貴重さに気づいている。強力してくれないか。それでないと、君の命を守れない」
「何をするんだ?」
「君の修理の才能は特別だ。我々にはないものを君は持っている。我々は研究員ヘッジの書いた設計図を基に、
   ある装置の配線をしている。しかし、進まない。私達には恐ろしく複雑なのだ。しかし君なら力になってくれそうだ」


研究所の地下実験室、そこにイカロスの制御タレットは有った。トマスはそれに触れた。これが何かは知らない。
しかし判る。確かに難物だ。これまでない程の複雑な機械。しかし触れているうちに彼には、少しづつ見えて来た。
どうすれば完成するのか。どうすれば。


「長官!ケンタウリのスパイから連絡が来ました。ケンタウリ人はイカロスの事を知っています。
   そしてシェリコフ研究所長が、それを完成させつつある事を。過去から来た者の手を使って!」
「何だと?じゃあ、あの男はシェリコフが救ったと言うのか?
   くそ!シェリコフめ!奴の研究所の防衛隊などのくらいだ?」
「空挺隊がひとつ、地上軍は車両ゼロ、防衛砲とバリヤのみ、兵士員は約200名です」
「よし、シェリコフを捕まえるぞ。イカロスは地下だ。私が直接行動する!援軍を準備しておけ!」


エリック長官の突然の訪問に、シェリコフ研究所長は驚いた。
イカロスの進行状況の確認が目的である。後ろには中隊が控えている。

「シェリコフ所長、君たちの行動には地球の未来がかかっている」
「ありがとう、ございます。イカロスはもうすぐ完成します」
「おい!こいつらを拘束しろ」
エリック長官は指示を出した。
「何故です?」
「お前達が、過去から来た男を匿っているのは知っている。地球の未来への反逆罪だ!」

シェリコフは猛然と壁に向かった走り出した。そして、体がぶつかる、その瞬間、シェリコフの姿は
壁に飲み込まれた。彼の圧力に反応するエネルギーバリヤだ!しまった!逃げられた。

その後は、地獄の様だった。
あちこちの壁が火が噴き、エリック長官の部下達は火だるまになり倒れて行った。
シェリコフの兵は既に配置され、自動砲が長官達に迫っていた。
「頑張れ、あと二分だ!すぐにミサイルが来る!」


「長官、降伏したらどうだね。君達は袋のネズミだ!さあ、早く」
その言葉も終わらぬうちに、大音量が研究所を襲った。あらゆるものが吹っ飛んだ。

地球の反対側からの水爆ミサイルが着弾したのだ。こに研究所のバリアーを破壊するために!

大混乱の中、エリック長官達は、出口へ急いだ。

続いて、地上車両による攻撃が研究所を襲った。バリヤーを無くした研究所は裸だった。そこに装甲車が
   爆弾を打ち込む。地上棟は吹っ飛んだ。しかし、丘が破壊砲も、装甲車に向けて反撃した。
   多くの装甲車が原子に分解され消えた。

しかし、砲台も空からの爆撃には耐えられなかった。
生き残った装甲車は、地上攻撃設備を焼き払った。

シェリコフの警備隊は、単身装甲車と対峙する。空ではシェリコフの空挺隊が
   膨大な敵と死闘を繰り広げていた。しかし形勢は見るも明らかだった。


「もう良い。攻撃は中止しろ。さあ、変数人間を殺しに行くぞ!」
エリック長官は停戦を指示し、シェリコフの所へ向かった。

「これ以上行うと、君の地下研究所も破壊されるぞ。変数人間を出してもらおう」
「わかった。彼は地下だ。むずかしいタレット配線をしている。行こう」


しかし、実験室は空っぽだった。

トマスは配線を完了させた。イカロスは完成したのだ。そこに爆撃が起きた。彼は、逃げ出したのだ。
暗闇の混乱の中を。逃げる途中、長官の警官隊に出会った。彼らは発砲して来た。しかしトマスは即座に、
打ち捨てられていたバリヤ発生器を直し、それを背負って逃げ出した。丘まで走った。

そこに爆弾が襲った。丘を吹き飛ばすほど勢いだった。トマスのバリヤ球は吹き飛ばされた。炎が彼を包んだ。
バリヤ発生器の配線が切れ掛かった。バリヤは薄れ、彼の体は炎に包まれて行った。
後ろでは、激しい戦いが終わった様だった。


エリック長官は外に出た。
「変数人間が逃げ出さなかったか?」
「奴は出てきました。そこで黄燐爆弾を食らわせてやりました。あれで生き残れる人間はいません」

「これです」
黄燐爆弾の爆発地点で、長官達は、黒焦げの人体を発見した。
「外見的特長は一致している。よし、仕留めたな」
「長官!こいつはまだ生きています。信じられん!黄燐爆弾の直撃を浴びたのに!」
「これを見ろ。おそらくバリヤ発生器だ。この男は逃げながら、どこかで捨てられた
   バリヤ発生器を拾い、修理したのだ。恐ろしい奴だ。こいつを連れて来い!」


マーガレット大統領はエリック長官に聞いていた。
「では爆弾は完成したのですね。急襲艦隊の配置は済んでいます。では攻撃を始めましょう。
   しかし、もう一点、シェリコフ研究所長に対する糾弾は、これが終わってから検討します」
「では、イカロス発射!」


彼らは、戦略ボードを見た。
そして、信じられない数字を見た。100対1ケンタウルス有利!
いったい、何が起きたんだ?

地球軍艦隊は、主要艦艇が全て拿捕された。主星から発進した無傷のケンタウルス艦艇に拿捕されたのだ。
イカロス爆弾は、彼らの主星に向けて光速で発射された。確かに、そして、その中心へ
しかし、爆破しなかった。失敗したのだ。ケンタウルスはその強大な軍事力を損なう事無く、
   地球艦艇の無謀な攻撃に対峙した。そして当然勝った。


「失敗だ。我々は大失敗した...なぜ、失敗したのだ。あいつ、変数人間のせいだ。
   奴が細工したに違いない。光速で飛ぶイカロスが爆破しない様に」
「そうです。変数人間はイカロスが爆破しない様に改造しました。つまり、彼は成功させたのです。光速移送手段を!」
「し、しかし、戦争には負けた!失敗だ!」

マーガレット大統領は言った。
「戦争には負けました。しかし、我々は手に入れたのです。偉大なる光速輸送手段を」
「何だと?」
「ええ、トマスはイカロスの本来の目的を感じ、そして完成させたのです。不完全な爆弾としてではなく、光速輸送手段と
   して。私は、これを発表しました。多くの人間が既に応募しています。この輸送方式を使って、外宇宙へ出て行く旅に」

シェリコフが言った。
「戦争などは、もう些細な事です。地球全体が盛り上がっています。全ての軍事設備は、船舶設計に切り替える必要が
   ある。それだけじゃない。鉱山探査機、輸送船...我々がすべき事は、山積みだ。戦争などしている場合じゃない」

「ゆるさん!そんな事は!」
エリック長官は、マーガレット大統領に銃を向け人質に取った。
しかし、シェリコフは、エリックの横を突き、床に倒した。捕捉網がエリックを包んだ。


全身をやけどしていたトマスは全快していた。
「君は不思議な人間だ。原理など全く知らないはずなのに...」
「元の時代に帰してくれるか?」
「もちろんだ」
「俺のせいで戦争に負けたらしいな?」
「ああ、でも今の人々は未来への希望で一杯だ。宇宙へと飛び出すんだ。新しい星へ」
「しかし、砂と岩ばかりかもしれないぞ」

「それでも希望あれば良いのさ。ところで、俺の作った装置を見てくれ。これは人々の感情をそのまま吸い上げる機械だ。
   ここに人々が触れると、その意見は集められ、やがて法案となって運用される。
   議会などの非効率的なものは不要だし、少数の人間による独裁も不可能だ」
「なるほど」
「しかし、うまく動作していない。君の時代に戻る準備が出来るまで、これを見てくれないか」
トマスはその言葉を聞く前に、既に装置の内部配線に手を触れていた。

「じゃあ、一緒に夕食でもどうだね」
トマスは聞いていなかった。熱心に装置の配線を手で辿っていた。

..............

ここで繰り返し述べている、機械やロボットは人を騙さない、と言うディックの主の考え方ですが、この話でも、それは共通しています。

『爆弾が出来れば戦争に勝てる』と
『爆弾を完成させる変数人間が登場すると戦争に負ける』
と言う、一見パラドックスは、機械(SRBコンピュータ)の嘘を疑わせるものですが、この作品では、
『爆弾が、本当に完成すると爆弾でなくなる』と言う論理のアクロバットで、それを嘘にせず、成り立たせている訳です。
見事な大傑作小説だと思うのですが、実際読むと、この素晴らしいアイデアが、流れて行ってしまっている気もします。
その原因は、ヴァン ヴォウト的な展開(一人を殺すために、いきなり山を破壊→捕まった!と思ったら味方→また敵の大攻撃)
による部分が多いと思うので、この展開だけにした方が味わい深いと思い、この短縮版では、ヴァンボート的な感じを最低限にしました。

記:2012.08.05


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三分 小説 備忘録

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