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永久戦争 (1993)新潮文庫
永久戦争


奉仕するもの To Serve The Master / フィリップKディック 訳:浅倉久志のあらすじ
初出 Imagination(1956.2) 原稿到着1953 短編 第62作

アップルクィストは山を渡っていた。放射能地帯を抜け、"ロボットの谷"についた。
ロボット、錆びついて、壊れたロボット。とっくに破壊されていたはずのロボット達。
それが横たわり、弱々しい声で、何かを呼びかけていた。


アップルクィストは地下シェルターの検査ゲートを通り、仕事場へ戻った。

上司のジェンキンズは言った。
「どこに行ってたんだ?もう4時だぞ」
「すみません。しかし、5時間の外出許可証を出してもらえないでしょうか?」
「馬鹿言うな。警戒態勢中だぞ!外に出て何をしてる?大方、無傷の貯蔵庫でも見つけたんだろう?」
「そうだと良いですね」
アップルクィストは戦時郵便の仕分けを始めた。

「四級文書配達係が外に出る必要はない」
「そうですか。ところで、なぜロボットは破壊されたのですか?」
「歴史の分野は四級者には知る必要はない」
「しかし知りたいのです!何が戦争の原因かを」
「それは非公開情報だ。知る必要はない」
予想の範囲だった。アップルクィストは仕事に戻った。

子供の頃アップルクィストは産業センターを見学した事がある。そこには昔、働いていたロボットの
資料があった。しかし、そんなロボットは今はいない。すべて解体されたのだ。
工場で動いていた、ごく簡単な物も含めて。

谷底のロボット。おそらく昔の低級ロボットだ。戦争の原因になった高級な物ではない。
しかしもう100年。ロボットは谷底で呼んでいた...


アップルクィストは金属と雑草の間を抜けた。ガイガーカウンタが反応する。歩くアップルクィストの
姿を追うものがあった。ロボットの目。ロボットは静かに彼を見ていた。下半身は破壊され、動く事は
できない。表面は錆びている。指は折れ、片目も動かない。そして弱々しい声を出した。
アップルクィストはその声に気づいた。

「お前の声が聞こえた」
「今日は何年か教えて下さい」
「2136年さ。6月11日だよ。お前はいつからここにいる。もう100年以上?」
「その通りです。私を修理して下さい」


「僕は機械に詳しくないし、ロボットは昔、全て廃棄された。それ以降、作られていない」
「電子部品について、説明すれば、どんなものか判ってもらえるか?」
「ダメだよ。僕は四級だ。頭は良くないんだ」
「四級とは、社会を構成する大きなシステムの中で、上からの命令を機械的にこなす
   一群の総称だと思いますが」

「あはは、その通りさ。それにまずいんだ。法律があるから、ロボットなんか作ったりしたら...
   そうだ!教えてくれ。戦前の生活はどんなだったんだ?」
「知らないのですか?」
「当たり前だ!僕は四級だと言っただろ。上の命令をこなす機械なんだよ!
   各地下基地を回って命令を処理するだけの存在だよ」

「戦前にはそんな等級はありませんでした。1979年に始めのロボットは造られ、2000年を過ぎると、
   全ての単純作業はロボットの手で行われた。人間は芸術や科学研究、娯楽だけをする様になったのです」
「その、"芸術"って言うのは何だ?」
「内的な自己実現を達成する創造的活動です...ともかく、世界はロボットが維持していたのです。人々は
   都市に住んでいました。都市は清潔で...すいません。バッテリーの電圧が下がりました。中止します」

「待ってくれ!バッテリーを探してくる。何があれば良い?」
「Aパック原子電池と、アルミ線材です。リストを渡しましょう」
「持って来たら、戦前の事を話してくれるね」


「はああ?何でこんなものが要る?半時間遅刻したあげくが無理な注文かよ?」
上司のジェンキンズは言った。
「いや、あの地下貯蔵室への通路を作りたいんです」
「何だ!失われた地下貯蔵室を探していたのか?それで見つけたんだろ!すごいぞ。報奨金が貰えるかもしれない」
「ともかく、早く手を打たないと!崩れるかもしれない」
「よし準備してやる。だが、この次は俺も一緒だ」
「無理ですよ。危険ですし、私がいない間の業務もあるでしょう。電池さえあれば、うまく行くんです」


ロボットの瞳に、灯がともった。
「ありがとう、貴方に出会えたのはとても幸運でした。もう少し遅れていたら、動く事はできませんでした」
「それで、戦争はどうだったんだ?」
「ロボットは産業システムを維持するために、人間の替わりに働きました。それが我々の存在する理由だから。
   しかし、狂信的な人間の集団がいました。彼らは『神は人間が額に汗して働く事を望んでいる』と主張しました。
   復古主義者です。古い価値観だけを大事にしました。そして人間は二派に別れました。復古主義者と芸術主義者に。
   『復古・芸術戦争』。我々は、彼らの戦いを見ていました。我々の運命を左右する戦いを。
   そして、信じられない事に復古主義者は勝ちました。理性は敗北したのです」

「そうか...なあ、理性の時代はまた来るだろうか。生まれた時からの等級。運命づけられた労働。
   何をするにも、恐ろしく面倒な書式を大量に書き、気まぐれな高官が、勝手に判断する。
   俺達は奴隷だ。この人間らしい社会では」
「人間が造ったシステムに、文句は言えません」

「君は元々何の仕事をしていたんだ?」
「私はロボット製造工場の責任者です」
「それなら、もう一度ロボットを造る事ができるのか?」
「それなら、道具と部材を準備して下さい。壊れた下半身を修理すれば、動ける様になります」


アップルクィストは、また外出許可を取り付けた。
持って来た部材を使い、ロボットはみる間に自分を修理して行った。
「よし!これで修理工場まで行ける」
ロボットは歩ける様になった。

「修理工場に連絡すると、ロボットから回答が来ました。工場はまだ無傷で運用できます」
「君、意外にもロボットがいるのか?」
「いや、ロボットとは、ただの自動機械です。私は違う。アンドロイドなのです」
「アンドロイド?君はロボットではないのか...」
「復古主義者に、我々アンドロイドは殺されていき、全滅した。今も、彼らの勢力は大きい様ですね。
   慎重に進める必要があります。貴方もも強力して下さい。もう一度、ロボットと人間が共に暮らせる様に」


「支部長、質問があります。この支部は『復古主義』ですか『芸術主義』ですか?戦争の時は
   どちらの立場だったのですか?『復古・芸術戦争』の時には?」
「何の話だ?どちらって、人間に決まってるじゃないか。『人間・ロボット戦争』の時は?彼らの一部、
   優秀なアンドロイドは自分達が、人間より優秀だと思い始めた。そしてロボット・家畜と人間は同様だと考えた。

   そして戦争が始まった。彼らは嘘がうまかった。始め、弱々しく人間に取り入り、やがて残虐な本性を露にした。
   彼らは人間社会の隅々にまで浸透し、人間に信頼されていた。それがある日、反旗を翻した。
   あっと言う間に、人類は絶滅する所だった。それが歴史だ。おい?アップルクィスト?お前は何をしたんだ??」


「ここか?お前がロボットを見つけたのは?」
「はい...」
しかし、そこには、既にあのアンドロイドはいなかった。
「戻ろう」
アップルクィストは武装車に戻ろうとした。
「お前は、別だ」
兵士の一群が憎悪を露わにし、アップルクィストに襲い掛かった。

ぶちのめされたアップルクィストは、谷底に蹴り落とされた。
彼の意識は暗くなっていた。巨大な闇が死に掛けた彼を包んでいった。


..............

ここでは、『騙すもの』としてのロボットが登場します。
私はディックの全て発表短編を読んだ訳ではありませんが(未邦訳品が数点残っています)、本作に登場するロボットが、
最も『騙し度』が強いと思います。後は『ウォーベテラン』くらいですか?(あれは、本人の自覚の点で、どうか?
と言う気もしますが)。
しかし、このHPで何度も言っていますが、ロボットが忠実な僕であると言うのがディックの短編作でのベースの考え方です。
これはブレードランナー以降に作られた、ディックのパブリック イメージとは異なる結果だと思います。
この作品でも、ロボットとアンドロイドを微妙に分けていますね。

しかし、ここまで、考えて振り返ると、ロボットの話が真実であっても、この作品は成立します。違和感無く。
つまり、どんでん返しを想定して書き進めていったら、ロボットの方に肩入れし過ぎてしまったんでしょうか?

記:2012.07.22


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三分 小説 備忘録

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