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ウォーゲーム (1992)ちくま文庫
ウォーゲーム


ジョンの世界 Jon's World / フィリップKディック 訳:仁賀克雄のあらすじ
初出 Time To Come(1954) 原稿到着1951 短編 第11作

ライアンはなんとか出来上がったタイムシップの最終調整をしていた。

「どうだ?出発の準備は出来たか?」
カストナーが聞いた。今回の開発のスポンサーUSIC(統一産業同盟)からの派遣者だ。

「ああ、不恰好だが完成だ」
「ではライアン、僕が同乗する」
「君がか?」
「ああ、戦争前の様子を見てみたいんだ。そこは土地は肥沃で、廃墟など無く、人々は放射能を
   恐れずに、歩く事ができたと言われる。僕の家には戦前に書かれた絵本がある。
   それは復興に役立つが、僕は実際の様子を見てみたいんだ」

その時、ライアンに緊急連絡が入った。
「ライアン!すぐに家に帰って欲しい。息子さんの発作が起きた!」
「ジョンが!」

彼は家へ急いだ。空中艇から見える景色は、荒廃した大地だった。
そこに、月基地から移住した人々が働くオフィスが点在している。その姿はまるで毒キノコだ。
かつて戦争があった。初めは人間対人間。それはやがて人間対機械になった。クロウである。始めは
クロウは作った側の人間には従順だった。しかし、やがて全人類を敵と認識し、自己増殖を始めた。


家に着くと、ジョンの体は硬直し、意識はなく、汗を噴出していた。
「この前と同じだ」
様子を見ていた祖父が、詳細を教えてくれた。
「気が付いたら床に倒れ、痙攣していた。ベッドに運ぶと例の"あれ"が始まったんだ」
「前と同じ話でしたか?」
「ああ、同じだ。話は止まらなかった。えんえんと喋り、また気を失った」


やがてジョンは気が付いた。
「どうだ?気分はどうだ?」
「元気です」

「お前の話なんだが...」
「あれは、本当の景色なんだ。父さんも見れば判る。夢なんかじゃない!僕は本物を見ているんだ」
「僕らの背後にあるんだ。建物、空、町。今のこの町より、もっと活き活きしている妄想なんかじゃない。
   今、この部屋よりも現実的なんだ!でも、みんなには見えない...」
「その鮮やかに見えるものを、もっと説明してくれ!」

ジョンは返事をしなかった。あちらの世界に入ってしまったのだ。超現実の幻影に。
息子は退化してしまったのだろうか。この絶望的な現実から逃れるために。

激しい発作の後。
「...田畑が見える...」
ジョンが喋り出した
「他には何が見える?続けて...」

「男と女...ゆったりとした服を着て、林を歩いている。空は青く、鳥が飛ぶ。動物もいる。海も見える」
「町はないか?町は?」
「あるけど、ずっと小さい。公園の様な場所でみんな暮らしているんだ」
「工場はないかい?」
「田畑だけ」
農耕社会だな、とライアンは思った。

「お前は今、どこにいるんだ。どこか別の星か?」
「ちがう。地球。ここだよ」
「じゃあ、今の現実は何だ?」
「ここだけど、いつもある訳じゃない。見えたり消えたりする」
「どうして、お前だけ見えるんだろう?」
「判らない。でもみんなに見せてあげたい」


祖父はライアンに言った。
「あの子の発作はどんどん激しくなり、幻覚もはっきりしている。やがて現実を侵食し始め、危険だ。
   しかし、お前のタイムトラベルはもうすぐだ?どうする」
「私は決断しました。息子に脳手術をさせたいのです」
「やるのか?」
「はい」


ライアンとカストナーはタイムトラベルの計画を話しあっていた。
「われわれは時空連続体の中に幾つかの中継地点を作って進む。
   そしてスクナーマンの研究書類を手に入れるのだ」

スクナーマンは2030年から2037年の間に重大な発明をしたが、その重要さが判ったのは、
数年後だった。彼の人工知能の発明を基にし、最初の『クロウ』が造られたのだ。
しかし彼の研究は、誰にも受け継がれなかった。

「もしも、彼の研究書類を盗み、邪魔をすれば、クロウは生まれないかも知れない」
「しかし、彼の研究はクロウと直結している訳ではない。また、彼が発明しなくとも、別の誰かが。
   例えば車輪。車輪はアーリア戦争で戦車に使われ、多くの人命を奪った」
「しかし、チャンスはある。もしUSICが軍事転用しないのだったら」
「それは大丈夫さ。人口知能はこの地球の復興に使われるんだ」


ライアンは家に戻った。この所、ジョンの発作は出ていないそうだ。
「幻影が消えたそうじゃないか?」
「うん」
「寂しそうだな?」
「うん」
「じゃあ、パパはタイムトラベルに行って来る」
ジョンの目は虚ろで、もの憂げだった。死んだ様だった。


「中継地点では観測を行う。それにより我々の行動の結果が判る」
「さあ、こいつは途方もないエネルギーを使う。爆弾に乗ってる様なものだ」
「もしも爆発したら、どうなるんだ?」
「原子に分解されて、時間の流れの一部になる。そして、過去へ、今度は未来へと永遠に流れる」
「しかし、それも理論に過ぎない」
彼らは旅立った。


まず、戦争の終結時期に到着した。
カストナーが外を覗くと、地面は廃墟になっていた。クロウが地上を支配している頃だ。
「タイムシップは襲われないか?」
「クロウは今頃、同士討ちで忙しいんだろ」
「おい!あれを見ろ!」

クロウの隊列だった。同じ顔をした、男性タイプのクロウが行進をしていた。どれも同じ片脚だった。
遠くには別のクロウの隊列がいた。あっちにも!クロウには4つのタイプがあった。

女性タイプのクロウが、負傷兵タイプに衝撃弾が投げた。閃光がひかり、機体は揺れた。
「危なそうだ。もう行こう!」


次の観測地点は、戦争の初期段階だった。

大地から、煙が何本も上がっていた。軍用トラックが走るが、まだ大地には働く農民の姿が見えた。
「人間対人間の戦いだ。馬鹿な事をしたもんだ。さあ、目的地に行こう」


観測地点から、さらに一週間前に着いた。
ライアンとカストナーは目的の建物を探し当てた。
「これがスクナーマンだ。残っている1枚だけの写真だ」
眼鏡をかけた小柄な男が笑っていた。
「この時点で、彼は25歳だ。そして、必要物、つまり彼の研究書類以外は、
   勝手に動かしてはいけない。また熱線銃も禁止だ」

町には、まだどこにも破壊の跡は無かった。戦争はまだ始まってはいない。
しかし人々はバクテリア防護マスクを着けていた。

彼らは、人々とは異なる特殊なマスクを着けた。そして催眠ガス結晶を持った。
いざとなれば、これを噴霧すれば周囲、数百メートルの人間を眠らせる事ができる。

研究所前でスクナーマンを待った。
「おい、来たぞ!」
「よし!」

スクナーマンが事務所に着いた頃を見計らって、門に入った。
「我々はFBIの者だ。この研究所には調査が必要だ」
そして、偽のFBI証明書を読んで言る警備兵の前で、催眠ガス結晶を握りつぶした。

「さあ、急ぐぞ」
倒れている人々を避けながら、研究室へ急いだ。すぐにスクナーマンは見つかった。作業机にうつ伏して
気を失っていた。机の上には作業机の鍵があった。彼らは机を開けると、中の書類を洗いざらい持って行った。

「速くしろ!サイレンが鳴っている。効き目が弱かった様だ」
「待ってくれ!」

二人はタイムシップへ急いだ。しかし、追っ手は、すぐそばまで近づいていた。このままでは捕まる!

銃弾が横をかすめた。タイムシップに当った。
「まずいぞ!しかたない!」
カストナーは熱線銃を撃った。炎の波が、追っ手達を包んだ。二人は、タイムシップのスイッチを押した。
その時、外に、炎に包まれながら、この船めがけて、辿り着こうと歩いて来る者がいるのに、気がついた。
男の服は燃えていた。
ライアンは驚いた。その男はスクナーマンだった。


「危なかった!」
「しかし、あれはスクナーマンだった!」
「一体、どうなるのだろう?彼は助かるのか?」
「ともかく研究書類は手に入った。正しく使われるロボットは地球を速く復興させてくれるさ」
「しかし、これで我々の時代はどうなるのだろう。それを観測地点が教えてくれる」


一週間後。町はロシアのミサイルで破壊されていた。
人々は、この地を離れ、人通りは少なかった。戦争が始まったのだ。

彼らは新聞を手に入れた。
ロシアのミサイルがアメリカに投下され、アメリカは円盤爆弾をロシア中の上空に送った。
「他の記事はないか?」

ロシアのスパイの研究所への侵入記事があった。警備兵が2名、そして研究員1名、死亡していた。
その名前は...

「スクナーマンは死んだんだ!やけどが原因だ。我々は徹底的に歴史を変えてしまった!」


次の観測点に飛んだ。2051年。始めにクロウが登場した年だ。

「この時点ではクロウは30cmほどの球体だ。気をつけろ」
彼が廃墟を歩くと、トラックがやって来た。敵か味方か?
彼らは銃を構えた。

トラックから降りてきた兵は行った。
「銃を降ろせ。戦争は終わった。もう一週間前の事だ」
「本当か?」
「ああ、ロシアに反革命が起こった」
「じゃあ、クロウは登場しなかったのか?」
「クロウ?何の事だ?」
「殺人機械だ。人工知能を搭載した」
「...ダウリング地雷の事かな?あれは自己修復できないので、それほどの脅威ではない。
   しかし、あれが敵兵に脅威を与える宣伝材料になった事は確かだ」


社会は根本的に変わったのだ。
ライアンとカストナーはタイムシップに乗り込んだ。
二人は不安になった。巨大な連鎖が作動した。おそらく彼らをここに送ったUSICは存在しないだろう。
そもそも五十都市連合すらあるのか?研究所や建物が、存在する必然はない。
「その代わりに我々は何を見るのだろう」
「すぐ判るさ」


田畑や公園。そこに暮らす人々。
それらを見ながらライアンは思った。これはまるで、ジョンの見た世界だ。
しかし、この世界に、元の人々はいない。もちろんジョンも。全ての因果律は変更された。
ジョンは、この世界の変容を予測していたのだ。だから、ライアンの研究が成功に近づくに連れて、
ジョンの発作は激しく成って行った。彼は優れた並行時間感覚を持っていたのだ。


「元に戻そう!」
「本気か?」
「書類をよこせ」
「やめろ」
カストナーはライアンに銃を向けた。ライアンはカストナーに体当たりをする。銃を床を滑る。
二人はもつれ転がる。しかし、その銃を再度、握ったのはカストナーだった。
カストナーは熱線銃で、スクナーマンの書類を焼き払った。


「悪かった。しかし、人類は、ここから、歴史を再開するのだ」

タイムシップは公園の一角に移動した。
ライアンは見慣れた木を見つけた。
「あそこに、常緑樹がある、胡椒の木だ。以前、うちの庭にあったものだ」
「さあ、みんなに会いに行こう。そして昔の世界の事を教えるんだ」
「ああ、これまでの事はまるで、夢だった気がする」


..............

長編マーシャン タイムスリップにも似た内容ですが、それよりも
映画のターミネータがこの話に似ています。とくに2のストーリーの背景は、同じと思うのですが、いかがでしょう?
また、『変種第ニ号』お読みに方には、なるほどのエピソードも。
それに、この「落ち」。バタフライ効果ですが、良く考えると、かなり「怖い」落ちです。
「考え怖わ落ち」と言うジャンルでしょうか。

ちなみに、この作品は第11作。途中で出てくるクロウのエピソードは第21作のSecond Variety(変種第二号=人間狩り)
で、後先が逆になっています。よく読めば、ねたばらしである事すら判ります。
記:2012.06.15


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三分 小説 備忘録

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