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ウォーゲーム (1992)ちくま文庫
ウォーゲーム


パットへの贈り物 A Present For Pat / フィリップKディック 訳:仁賀克雄のあらすじ
初出 Starting Stories(1954.1) 原稿到着1953 短編 第52作

「それ、なあに?」
「え?何でもないさ。つまらんものだよ」
「私に対するお土産でしょ?」
「いや、違うよ。僕は地球金属社の代表として、ガニメデに出張したんだ。おい、やめろよ」
「いつもの、宝石でしょ。みせて!...まあ、何これ?」

パットは勝手に箱を開けた。
「何?こんな変な人形!これがお土産?」
「いや、これは、とても貴重なものなんだ。神様だよ。ガニメデの神様。
   二流だけども、とても貴重なもんだ。高かったんだ」
「こんなものが、高かったの?馬鹿らしい!」

箱の中には25cmほどの像があった。その顔は昆虫の様だった。クチバシもあり、にやにや笑っていた。
「でも偶像ね。動かないもの。それとも死んでいるの?」
「いや、動くよ。お供えをすれば良いんだ」

エリックは、像にある碗の中にハムの切れ端を入れた。
「神の名前はチノククノイ アレヴロパポ」

「こんにちわ」
「よろしく」
「!え、英語を、しゃべったわ!」
「なるほど。エリック、この女はお前が言う通りバカだ」

「彼は神様なんだ。何でもできるんだ」
「こんな人形が?危険はないの?」
「彼は情け深い性なんだ」

「わしは、ガニメデの原住民の願いに合わせ、気象を制御してきた」
「でも、みんな過去の話ね。地球で役に立つのかしら?彼らは結局売ったんでしょ?」
「彼の力は本物だ。ガニメデの住民だって、本当は売りたくなかったんだ。彼が売らなければ嵐を起す!
   と言って、凄い風を巻き起こしたんで、仕方なく僕に売ったのさ。格安で」

そこに会社の同僚トムがやって来た。
「やあ、エリック!社長が報告をお待ちかねだぜ。お!そりゃ何だい?」
「ガニメデの神様さ。買う事ができたんだ」
「神様?そりゃ、非科学的な話だな。本当は何だい」

神様が口を開いた。
「そこの者、わしと神学論争をしよう。お前は神を否定する立場だ。良いな」
「?何だ、こりゃ。新型のロボットかい?」
「だから、神様だよ。奇跡を起せるんだ」
「そう言われてもなあ。じゃあ、ここで一つ見せてくれよ。インチキじゃないなら」

「わしの術は、見世物ではない」
「ふ〜ん。じゃあ、神様。あんた自身は誰が作ったんだい?あんた万能なんだろ。自分で自分を創ったの?」
「『神』と言うのは、次元の高い存在のものが、低い次元に行くと、
   そこで『神』と呼ばれるのだ。そこで奇跡をなし、崇拝される」

「何だ。ただの、通りすがりの『余所者』ってだけだ。あんたなんて、ちっとも『神』じゃない」
「しかし、その転移そのものが難しく、めったには為されないのだ。わしとても、一族の中の
   犯罪者ナル ドルクの逮捕のために、この時空で奴を追っている途中だ」
「なんだ、くだらん。こんなモノを相手にしてもしょううがない...」
トムの言葉に、神は怒った。
空間に亀裂が入り、トムの体は摘みあげられ、開いたドアから庭へ放っぽり出された。

「ちくしょう、やったんな!」
「やめろ!君が相手にしてるのは、神だ。忘れるな!」
「こんな奴、神じゃない。ただの、余所者だ!ふん捕まえて、標本にしてやる!」

突然、部屋は静かになった。トムのいた所には、小さなカエルがいた。
「口は慎むべきだ。結果を恐れぬ愚か者め」

「トム!トム!こいつめ!よくもやったわね!」
パットが怒り出した。
「やめろ!やめろ!彼が神様だと言う事が、まだわからないのか?」
「ねえ。トムを元に戻して、今ならまだ許してあげる」
「この者は、何を口に出すべきか知らなかった。だから、罰を受けた。それだけだ」

「早く元に戻しなさい!戻さないと、お前を、ゴミ処理機でバラバラにするわよ!」
「落ち着いてくれ!彼が神だと、何度言えば判るんだ!」
「あなたも、どうして、こんな汚い人形なんて持って来たの!こんなくだらない人形のせいで...」

パットの言葉は途中で消えた。
「あまりに、やかましいので、黙って貰った」
パットの姿は、石になっていた。

「あああ...で、でも、石にしなくても良いだろ」
「静かになったので、わしは休む」
「彼女には僕の言葉は聞こえるんだろうか?」
「ああ、おそらくな」
「ねえ、パット、怒らないでくれ。これはアクシデントだ、直ぐに戻すから。約束するよ...」

貴重な人形を手にいれたはずが、これだ。友人はカエルに、妻は石に。
「全く、お前は素晴らしい神だよ!」

もうすぐ午後4時。ビデオフォ−ンで会社に報告する時間だ。

「社長。今、着いた所です。明日、出勤して報告しますので」
「やあ、エリック。ごくろう、だが、すぐにガニメデの話を聞かせてくれ」
「でも、まだ荷物の整理も出来ていません」
「じゃあ、トムを出せ。そこにいるんだろ?」
「いや、今はちょっと...すぐに戻ると思いますが...」
「じゃあ、10分後に会社で会おう。じゃあ」

しかたなく、エリックはカエルをポケットに入れ、石の妻にくちづけして、会社に向かった。


「つまり、君は、これがトムだと言うのか?おい、トム!聞こえるか?」
ケロケロとカエルは鳴いた。

「なんて事だ。我が社は有能な社員を失った!未知のバクテリアの影響か?」
「すいません」

そこに、研究部門主任のブラッドショウがやって来た。
「やあ、ブラッドショウ。こちらが昨日ガニメデから戻ったエリック。
   そして、このカエルがトムだ。トムは知ってるな?」
「はい。しかし、私の知っているトムは、もう少し大きかったです」
「でも、これが今のトムだ」
ケロケロとカエルは鳴いた。

「じゃあ、もう良い。エリックお前はクビだ。トムと言う貴重な人材をカエルにし、会社に甚大な
   損害を与えた。ジェニングス!お前達は、カエルをトムに戻すんだ。いいな!」
エリックは叫んだ。
「社長!僕にも弁明させて下さい」
「まだ居たのか。非科学的な奴め。早く消えろ!」

帰りのロボットタクシーでエリックは運転手に言った。
「どうすりゃ良いんだ。親友はカエル、妻は石。僕も職を失った」
「ロボットには妻も友人もいません。それにクビになれば、溶かされてしまいます。
   我々の方がもっと深刻です」

エリックは家に入ると、神の碗に肉切れを入れた。たちまち、それは消化され、眼が開いた。
「よく眠れたかい?」
「眠っていたのではない。宇宙の根本問題について調べていたのだ。しかし、お前の声には
   不快な成分が混じっている。何か不愉快な事があったのか?」
「何もないさ。妻が石になって、友人がカエルになって、僕自身もクビになった。他には何もない!」
「クビ?よかった。その人間的な現象は一度研究してみたかったんだ」
「ふざけるな!早く妻を石から戻せ!」

「そんな事か。じゃあ、戻そう」
パットは元に戻った。

「あの、ゴミ人形め!さっそく、ゴミ処理機にかけてやる!」
「エリック。ほら、これは、こういう女だ」

エリックはパットを引き戻した。
「やめてくれ!また石にされちまうぞ!」
「...わかったわ」

「それで、トムも元に戻して欲しいんですが」
「良いぞ。早速、ここに連れて来い」
「いや、今、彼は研究所にいます。僕はクビになったので、そこには入れないんです」
「わしが、空間をいじれるのは自分の周囲だけだ。遠方の物は不可能だ。あきらめろ。規則なのだ」
「でも...」
「じゃあ、金はどうだ。これで、何日か暮らせるだろう」
神はカーテンを金に変えた。

「残念ながら、今は金本位制じゃないんです」
「じゃあ、プラチナならどうだ」
テーブルが銀色になった。

「ともかくトムを戻して下さい。これから会社に行きましょう」

その時、爆発が起きて、家のドアが吹っ飛んだ。

「そいつがエリックだ。捕まえろ。あと、その人形もな」
ロボットポリスが突入して来た。
「あなたを地球外生物の不法輸入の容疑で捕まえます」
「エリック!カエルが全てを話したぞ。お前は逮捕だ。終身刑は間違いない」
ジェニングスも一緒だった。

「助けてくれ!チノククノイ アルヴロパポ!」
「よし、今、まかせろ!」

ロボットポリスは全員、吹っ飛んだ。
後にはブリキのネズミ人形が転がっていた。

ジェニングスは見えない巨大な手に捕まり、空中に持ち上げられた。
「なんだ!お前は?放せ!」
ジェニングスは銃を放り投げた。

「放してやってくれ」
神がジェニングスを放すと、彼は逃げ去って行った。
「だが、お前らは逃げられん!この家は包囲されているのだ」
ジェニングスは言った。
家の周りはロボットポリスが固めていた。大きな破壊砲も見えた。
「何とかしてくれ!」
「あいつらは私の力の範囲外にいる。シールドなら貼れるぞ」
「頼む!」
家を不透明な球形膜が覆った。そこに原子砲が浴びせられた!
激しい衝撃に家の中はメチャクチャだった。家具も壁も壊れていた。そこに第ニ弾が!
「...たいしたシールドだわ...」
「ダメだ...降参しよう」

エリックは交渉を始めた。
「...我々はトムの姿を元に戻す。そして、人形はガニメデへ帰す。そして僕は会社へ戻る...」
「馬鹿な!我々は自力でトムを戻せる」
社長のブラッドショウは言った。

「しかし、人間の技術力ではあと100年はかかるぞ!」
「...わかった。これからカエルをそっちに渡す。人間に戻せ!騙しっこなしだ!約束だ!」

神はカエルを元に戻した。
「ああ、よかった。もう、カエルはごめんだ!」
トムは逃げて行った。

「ありがとう〜!エリック〜!それで、あの約束だが、残念ながら法律を変える訳にはいかない」
ブラッドショウは、外から大声でそう言った。

ロボット ポリスは家に入り、エリックは拘束された。
「ちくしょう!」
「エリック、悪かった。しかし、法律は法律だ」
ブラッドショウは言う。

エリックが呆然としていると、
「ナルドルクめ!ついに見つけたぞ!貴様がこの星でのうのうと暮らしていたのは判ってうたのだ!」
突然、神は巨大な風の姿になった。
ナルドルク=ブラッドショウは慌てて、逃げ出した。

走るナルドルクの背中から巨大な翼が生え、空に浮いた。手脚は、もう触手になっていた。
そこにチノククノイ アレヴロパポは掴みかかった。両者は空中で転がり回った。

ナルドルクは必死で逃げようとしたが、やがて、閃光を残し消えた。
チノククノイ アレヴロパポはエリックの方を見ると、うなずいて消えた。

ロボットポリスはジェニングスに尋ねた。
「どうしましょうか?ブラッドショウがいなくなったので、貴方が指揮官です」

「いや、もう終りだ。俺達は何年もあんな奴に騙されて来たんだ!」

エリックは、ようやくほっとして、パットを抱きしめた。
「ごめんよ。贈り物がなくなってしまった」
そして、キスをした。
「私には、それだけで充分よ」


..............

ディックはヴァン ヴォウトが好きだと言っているのですが、ボートのスラップスティックなまでのスピード感のある展開を、
うまく小説に出来たのはディックの方ではないかと思います(ただし、短編だけね。長編は、冗長です)。
第52作で、「にせもの」「父さんに似たもの」「非O」などの円熟期の作品です。
ただ、この「まっとう」な終わり方は、この時代のもので、これが、1960〜の作品となると
(「カンタータ140」や「パーキーパット」となると、こうはならなくなります。



記:2012.06.05


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三分 小説 備忘録

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