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宇宙の操り人形 (1992)ちくま文庫
宇宙の操り人形


地球乗っ取り計画 Project Earth / フィリップKディック 訳:仁賀克雄のあらすじ
初出 Imagination(1953.12) 原稿到着1953 短編 第54作

バスルームには子供が三人いた。

椅子に乗って穴を覗きながら、トミーが言った。
「見つからないかな?」

「大丈夫に決まってるよ!早くしろ」
デイブが答えた。

「ねえ、私にも見せて!」
ジョアンが言った。

「次は俺だ。さあ、退け!」
デイブはトミーを椅子から降ろし、自分が乗った。そして、穴の奥を見つめた。


その老人はエドワード。隣の部屋住人は書斎でタイプライターを打っていた。書斎とは言っても、
書類や図面、地図、辞書...辺りは散らかり放題だ。


「あれはスパイね。モスクワの指令で爆弾を爆破させるのよ」
穴を見ていたジョアンが言った。

「違うな。スパイにしては老いぼれ過ぎる。それにスパイは髭を生やしてるもんだ」
「じゃあ何?一日中タイプを打っている」
「報告書を作っているんだ。あれだけ熱心に作っているんだ。きっと大事なものさ」


ようやく、タイプを打ち終えた老人は、コップの水を飲んだ。振り返った彼は、トミーが覗いている穴の方を見た。
老人の表情が見えた。目は透明で、無表情な鷹の様だった。造り物の様だった。

やがて、老人は外へ出て行った。
トミーはタイプで打たれた文章のタイトルが何とか読めそうな事に気づいた。そこには、こうあった。

『プロジェクトB 地球』
トミーは、あの中身が読みたくなった。


老人の部屋は鍵がかかっていなかった。部屋に入ったトミーはその、ぶ厚い冊子をめくった。

開いた頁には、デンマークとあった。
国の状況と無数の記事が載っていた。意味の判らない単語が沢山あった。

更に、開くとアメリカの所だった。ニューヨーク、カリフォリニア...膨大な情報が書かれていた。
ベランダに出た。そこから屋上に登れた。

一角に昆虫標本、鳥の剥製、薬品瓶、地図、植物の種など、があった。そして木箱があり、ネットが
かかっていた。その中には小さな繭が並んでいた。

トミーはネットを突付いた。繭が動いた気がした。見ていると、いきまり繭から何かが飛び出した。走り去り、
影に隠れ、泣き声を上げた。


「誰だね?君は」
エドワード老人だった。

「見ていたんだ。何もしてないよ」
「そうか。じゃあ手伝ってくれ。水を運ぶんだ」

トミーは老人の持つバケツを持った。
「ありがとう。年は幾つだい?」
「11だよ。ねえ、あの繭は何?」

「あれを見たのかい?ふ〜ん。何だと思う?」
「...ええ〜と。触角があったから虫かな?。でも、そんな感じゃなかった」

「ほら、良く見てごらん」
老人はネットは外した。トミーは中を覗いた...人間だ!小さい!

「彼らには、どこにも問題が無い」
「そうなの。僕に何匹か、くれないかな?」

「それは出来ない」
「どこから来たの。他所の星から?」
「説明のしづらい答えだ。ただ、他所の星からではない」

「...あの報告書は、何のため?」
「報告書?部屋に入ったのかい?」

「何時から書いているの?」
「もう長い期間だ。君にとっては、とても長い時間だ」

「あんたは地球人じゃないね?」
「えっ?どうして判る?」
「僕は色んな事が判るんだ。あんたの正体なんて、お見通しさ。ねえ、あれは何?プロジェクトB!」

「報告書さ。そしてプロジェクトCに応用する。アンテナをつけたのもそのためだ。知覚能力は完全に、
   感情の起伏を抑え、個人的な経験則を重視し、思考はより柔軟に...」
トミーには何の事か良く判らなかった。

「ねえ、BとCなら、Aもあったんでしょ?」
「A?ああ、昔の事だ。翼を持っていた。自尊心と名誉心を持っていた。しかし、やがて互いの抗争に
   明け暮れ...そしてプロジェクトAは廃棄され、Bに受け継がれた。しかし...」

「Bはどうなったの?」
「プロジェクトAは即刻廃棄されるべきだった。しかし生き残りがいて...彼らが影響を与えた。
   結局、この失敗の原因になった」

箱の中にいたのは小さな男女。合わせて九人。
「僕はもう、帰るよ」

しかし、トミーは、その夕、また戻って来た。
エドワードはタイプを叩いていた。トミーはこっそりと木箱に近寄って、開けると、
一人づつ捕まえて、箱に入れた。そして逃げ帰った。


白ネズミを飼っていた箱が、彼ら9人の住まいになった。トミーは台所から、こっそりレタスとミルクを持って来た。
「何か飼っているのかい?」
「別に?何も飼ってないよ」
「ヘビならごめんだよ。もう二度と...」
「飼ってないよ!」

トミーはそっと、一匹を捕まえると、手に乗せた。
「怖がらなくて良いよ」
頭の触覚が揺れていた。


「すごい!どこで手に入れたの?」
「秘密さ」
「それ私にくれない?」
「あげないし、それ、じゃない!『彼』だ!」
「裸じゃ寒いわ」
「じゃあ、何か着る物を作ってきてくれ」
「いいわよ。一匹くれたら」
「じゃあ、要らない!」

でも翌日ジョアンは四人の女性用のスカートとブラウスを作って来た。
彼女達は、それが何か判らない様だった。
「着せ方を教えてやれよ。それから『隠れん坊』をしよう」

小人達は大慌てで、逃げ回った。トミーは彼らを一匹づつ捕まえて、カゴに戻して行った。最後の一匹はなかなか
見つからなかった。ビー玉の袋の中に隠れていた。
「結構、頭が良いのね。私、本当に欲しくなっちゃった」
「ダメだよ。絶対にあげない!」

学校の帰り道ジョアンが男物のズボンを5着くれた。
「ありがとう」

一緒に帰っていると、目の前に老人がいた。
「お前だな。さあ、彼らを返して貰おう!」
「何の事?さっぱり判らないや」
トミーは後ずさりした。

「お前は知っているか?」
ジョアンに聞いた。
「え?...あの小人の事?」
「そうだ。じゃあ、ゲームをしよう。お前は何が得意だ?」
「ビー玉で決めよう!僕が勝ったら、僕のもんだ。いいね!」

ビー玉は得意だ。ビー玉なら負ける訳がない!

トミーは地面に丸を書いた。ビー玉を並べた。
「さあ始めるよ。僕からだ!」
三連続で成功した!24個だ。どうだ!

「これは、どうやるんだ?」
「知らないの?親指で弾くんだよ。こんな感じさ」
「判った」
老人がしゃがんでビー玉を弾いた。閃光が光った。ビー玉はすべて弾き飛ばされていた。大逆転だ!
「ふう、しゃがむのもシンドイわい」

唖然とするトミーを尻目にエドワード老人は、「さようなら」と小人達の入った箱を持って行ってしまった。

さあ、もう報告書をまとめる時間だ。
Aタイプを失敗し、Bタイプも彼らの管理下から離れた。
しかし、それも、もう良い。プロジェクトCに移行するのだ。

エドワード老人は、箱をそっと開けてみた。
たちまち、中から数人が飛び出した。部屋の周囲に散った。驚くエドワード!
しかし、第二段が飛び出し、あわてて箱を閉めたようとした時には二人しか残っていなかった。

エドワードは一人を捕まえた。しかし、指に痛みを感じ、彼は小人を落とした。
木片だった。木片を鋭利に研いでいたのだ。小人達は、窓からポーチに躍り出た。

エドワードも後を追った。しかし、一匹も見つける事は出来なかった。


エドワードはタイプの前に座った。
まただ!

プロジェクトは破綻する。反抗と脱出。AはBに影響を与えた。そして、今、CもBからの
影響で破綻した。

彼は報告書を、そうまとめた。

彼は、あの箱をちらっと開けた時に、見たのだ。
あの時と、同じだ。Cの小人達は、服を着ていた。

大昔の人間の時と同じ様に。


..............

ジャッキーチェンがプロジェクトAを行う前にプロジェクトBは進行していた訳です。
ただA→Bへの移行は何となく判りますが、B→Cは、ちょっと、どうなんでしょうか。
体力的に弱すぎる気もするんですが...



記:2012.05.10


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三分 小説 備忘録

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