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シビュラの目(2000)早川文庫
シビュラの目


シビュラの目 The Eye of the Sibyl / フィリップKディック 訳:浅倉久志のあらすじ
生前未発表 The Collection Stories of PKD Vol.5(1987) 短編 第175作

我らローマ人は、どうやって敵から自衛しているのか?
ローマ人と言えども不死ではない。しかし、我らを守るものは強大だ。

それらは、未知の世界の者で、我々の危機に現われ、解決すると去って行く。例えばシ−ザーの暗殺。
そこにはキュメの巫女(シビュラ)の助けがあった。『シビュラの書』、そこに未来は書かれている。
ローマ人は、必要が生じると『シビュラの書』を開くのだ。

私は一度見た事がある、シビュラがどうやって、未来を知るのかを。


「シビュラなんて、どうとでも取れる曖昧な言葉の羅列を元に、予言をした!と言い張るペテン師よ」
現代の妻が言う。私は古代ローマ人ディクトスの生まれ変わり。現代の妻は理解していない。シビュラの力を。

私があの時、見たものは。

キュメの神殿でシビュラが聖座に前かがみに座っていた。
その前の丸い球の中には、二人の生物が立っていた。人間には似ていたが、人間ではなかった。例えば目には
瞳孔はなく、ただの穴だった。両手は鋏だった。口もただの穴で、発声はしなかった。

シビュラは私の背後に未来を見て、叫び声を上げ、倒れた。抱き起こす私にも、
シビュラの見たものが見えた。巨大な船、見た事のない乗り物、背の高い建物。


私は、その昼、芝生で子犬と遊んでいた。
「フィリップ!ごはんですよ。帰ってらっしゃい!」
「わかったよ!」
でも私は、戻らなかった。大きな蜘蛛の巣に、かかっている蜜蜂を見つけたからだ。
私が、蜜蜂が絡んだ糸を取ってやろうとすると...

蜜蜂は、私を刺したのだ!


私は学校で、ジルと言う女の子が、くるくるとダンスをしているのを見た。その日の国語の授業は作文だった。
私はジルの事を書いた。女の子が住んでいる不思議な国の事。そこでは、彼女は裸だと書いた。

翌日、母親が学校に呼ばれた。何故、怒られているかは良く判らなかった。女教師は持って回った言い回しで、
私を責め、ブラジャーと言う言葉だけ覚えている。

でも、私の文章は、校長から激賞された。もちろん、裸の件は削除した後だ。

私は蛇の夢を見る。あいつが知恵をつけてくれるのだ。


将来の希望を書く作文の時間だった。私は、SF作家になると書いた。怒られた。
いつも、何かを書いていた。学校は最悪だった。ただキャロル先生だけは別だった。

放校処分になるのは時間の問題だった。キャロル先生は、私に本格的にSFを書く事をすすめてくれた。
私は学校を辞め、テレビの販売店に勤めた。キャロル先生は言った。

「夢は集合的無意識の一部なのよ」

私は、彼女のお尻ばかりを見ていたが、彼女の瞳の中には、あの蛇がいた。


やがて、小説が雑誌に載る様になった。原稿料もようやく入る様になった。

『ラブ プラネット アドベンチャー ヤーンズ』誌から短編を依頼された。
希望のあらすじと、設定画が送られて来た。そこに書かれていたのはローマ人。
その手首には、使者の杖(カドケウス)の印があった。


「カドケウスって何?どうして、知っているの?」
現代の妻が私に聞いた。

「知らん。ただ、知っているんだ。ところで今日は何時だっけ?」
「三月十四日よ」
「年号だよ」
「1974年だけど」
「じゃあ、まだ暗黒の時代なのか..まだ暴君が権力を握っている..」
「???何の事?」


私は妻の返事を、聞いていなかった。
妻の左右に、あの生物が現われたのだ。シビュラの球の中にいた、あの生物が。
「それ以上、何も言うな。この女の記憶は消去しておく」
「なぜ、お前達はここにいるんだ?」
「この時代にはシビュラはいない。だから、我々は普通の人間に霊感を与えているのだ。
   我々は、自由を破壊するものから、君たちを守る」

2000年の暗黒の時代はやがて終わる。私は古代人の生まれ変わり。あの生物=不死人は、
どんな時代でも我々を助力してくれる。人々は、やがて救済されるのだ。


..............

『凍った旅』(『悪夢機械』にあります:名作!)の妄想シーンは、作者の実体験だったんですね。
ディックの『いっちゃってる小説群』は、このオオカワ流の自動筆記だったんでしょうか?
だとすればフィリップ オオカワ ディックとなれば、PODつまりポッドですね。預言者には相応しい『篭った』感じです。

そうか、フィリップ オオカワ ディックの著と考えれば、何故、私が、ヴァリス系の作品が好きではないかが、判ります。
短編小説を書くディック=PKDと、自動筆記するディック=PODの両輪が、ディックの作家性と言う事でしょうか。
ディックの小説の、奇妙な二面性は、短編/長編の違いではなく、『自動筆記』か、自アイデアかの違いなのかも知れません。


記:2012.04.20


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三分 小説 備忘録

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