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シビュラの目(2000)早川文庫
シビュラの目


聖なる争い Holy Quarrel / フィリップKディック 訳:浅倉久志のあらすじ
初出 Worlds of Tomorrow(1966.5) 原稿到着1964 短編 第103作

スタッフォードは起こされた。辺りは眩しすぎる程で、空から何体かの輝く人が降りてきた。
「『待機員』だな?出番が来たぞ。急げ!」
スタッフォードは高度専門技術を持ったコンピュータ修理技術者だ。政府のジェナックスBの待機員である。
ジェナックスBは、世界で8台。これが地球全体の政治を運用している。

「磁気テープの巻取り機構に不具合が生じた。部屋はテープの海だ」

(そんなつまらん不具合が起こるとは?こいつらはジェナックスBに干渉しようとしたのでは?こいつらは、
   防衛網を司るジェナックスBを妨害する、敵陣営の回し者では?)


スタフォードはヘリに乗せられた。男達は四人だった。スタフォードは尋ねる。
「戦争が始まったのかね?そして、その情報をジェナックスBに与えたくないのかね?」
「今まで眠っていたと言うのに、君の想像力は素晴らしいよ。間違いだが」
男の一人が、スタフォードに紙テープを渡した。スタフォードはその二進数の穴のコードを読んだ。

攻撃指令だ!レッドアラート。

「ジェナックスBはパニックに陥った。そして全軍に対し、こんな指令を出し、また...水爆機の出撃命令も出した」
「命令は実行されたのか?」
「直前で我々が止めた。指令信号は同軸ケーブルを伝わらなかった。命令に対するフィードバックはない。
   そこで、ジェナックスBは現在の状況をどう考えているのか?」
「反撃は実施された。しかし味方は返信できない程ダメージを受けた...」
「だが、本当は何処にも敵はいない」

「確かなのか?例えば82年にフランスへ、89年にはリトル イスラエルへ、我々は攻撃された」
「それらも全てジェナックスBの捏造だ。攻撃の事実など、どこにもない!」
「それは、本当か?あんた達は、何故それを知っている。一体、何者なんだ?」
「我々三人はFBI。そして彼はジェナックスBの初代設計者だ」

「スタフォード君。私が、テープ読み込み機を壊したんだ。情報を入力出来ない様にする必要があったんだ。
   しかし、それだけでは不充分だ。君に調べて欲しい事がある。何故、ヤツが我々を戦争させたがっているかを」

「俺としては、あんたらも疑いの対象だ。本当に正しいのはジェナックスBかも知れん。
   82年のフランス攻撃がでっち上げだって??」


「スーザと言う男を知っているか?スーパーの店先に1セント入れて、
   ひねるとガムが出てくる機械を並べて大もうけしている奴だ」
「そういつがどうした?」
「ジェナックスBによると、彼は今や世界中に、その販売ネットワークを持っている」
「だから、それが何なんだ?」

「彼の会社が、敵の本拠地だとジェナックスBは結論づけた」
「はああ?何だ、そりゃ?」
「我々は各国に調査した。スーザなる人物の事を...そのスーザは、この20年間、
   ガム自販機チェーン展開をしている老人だった」

「そいつは何者だ?」
「20年間、ジェナックスBはスーザに興味を持たなかった...当たり前だ。しかし、ジェナックスBは突然、
   スーザを敵と決め付ける。その根拠となった情報は...ガムの成分表だ」
「一体、ガムには何が入っているんだ?」
「ガムベース、砂糖、コーンシロップ、人口着色料...ガムを作る材料は、何の変哲もないものだ」
「じゃあ、何故?」
「わからん。その情報が入力された途端、レッドアラート!水爆攻撃準備指令だ...」
「しかし、人口着色料...それは具体的に何だ?何らかの毒物では?」
「ともかく調査してくれ。ところでガムは要るかい?」
「どこのガムだ...まさか、スーザの?」
「そうだ...良く見てみろ。そいつはガムじゃない。卵なんだ!」
スタフォードはガムを照明にかざした。
(球形の生物。魚が産む様に、それらは世界にバラ撒かれる。そして、暖かい安全な所へ移動する、子供の腹の中だ。
   殆どは死滅する。しかし、それも自然の摂理。ほんの一握りが生き延び、また繁殖する。そして、また卵を産む。
   膨大な数。それらは、また暖かい子供の腹へ入り、少しづつ数を増やして行く...)

「ただのガムだよ。冗談さ。間違った手掛かりさ。捜査を撹乱するための」

「何!し、しかし...そ、それならオマケだ。本体でなければオマケに付ければ良い」
「スタッフォード君。そんな事に気をかけるより、ジェナックスBの判断ミスと、考えた方が合理的ではないかね?」

「たしかにそうだ。しかし、それもまた『間違った手掛かり』である可能性もある。そもそも我々はジェナックスBを、
   どれほど信じられるのか?つまり、『我々が判断できない事があるから、ジェナックスBはある。
   しかしジェナックスBが我々には理解出来ない判断をした時、我々はジェナックスBの故障を疑う』。
   つまり信じないのだ。ではジェナックスBとは何だ?」

「最終判断はあくまで大統領だ。ジェナックスBではない。それに今回の問題はそんな哲学的な問題じゃない。
   単なる電子工学的な問題さ」

ジェナックスBの無効化。それが、こいつらの目的だ。そして俺はそれに工学的なお墨付きを与える役割だ。

結局、いつでもジェナックスBは無効化されて来たのだ。


しかし、スーザのガム販売機が何故?...実験が必要だ。

スタフォードは、実験用の"捏造された"情報を、ジェナックスBへ入力して行った。

「まずは、これだ」
スタフォードは、スーザの急死のニュース、を入力した。

「そんなものを信じるもんか。他のデータと矛盾がある」
「いや、信じざるをえない。与えるデータは、これ一つだから」

しかし、レッドアラートは消えなかった。
「なるほど、スーザ本人が本質ではない訳だ。では、次は...」
*スーザの会社は巨大な負債状態にあった。現在、資産は回収され、会社も解体されるている*

しかし、アラートは消えない。

「ダメか。じゃあ、最後に一つ」
スタフォードは、ニュースを入力した。

*スーザなる人物は、そもそも存在せず、彼による自販機チェーンなど都市伝説だ*

今度は、すぐに反応があった。ジェナックスBはこう反応した。
『最後のニュースは事実ではない』


つまり、ジェナックスBは俺達よりもスーザについて、良く知っているのだ!


「まるで神学だ。神は全能だ。あらゆる属性を有している。しかし、たった一つだけ、道端の石ころにもある属性が
   欠けている...それは『存在』だ。誰にでも常に感じられる『存在』が神にはない。スーザの脅威も同じだ。
   存在しないが、そこに"ある"」
「じゃあ、こんなのはどうだ」
スタフォードは入力した。

*ジェナックスBは存在しない*

ジェナックスBは反応した。
『ジェナックスBが存在しなければ、この情報は存在しない。つまり、この情報自体をジェナックスBが受け取った事が、
   ジェナックスBが存在する証拠である』
「冷静だな。しかし何か似ている。さっきの反応と今の反応」


「こいつが、スーザのガムのおまけだ」
スーザのガムのおまけ。
「...ミサイル、ロケット、長距離砲、兵士...ん?これは?...ジェナックスBじゃないか!...おい全部
   精密に知らべて見ろ!ただのプラスチックじゃなく、実用模型が混じっているんじゃないか?」
「そんなバカな!」


スタフォードはこう入力した。
*スーザは本日ジェナックスBと直接、対決する事になった*

ジェナックスBはこう反応した。
『スーザはここに来ない。彼はサクラメントにいる。このデータは虚偽である』

「なぜ、そんな事が判るんだ。どうして、こんなにスーザについて詳しいんだ?ともかくスーザに関する全資料を
   出力させるんだ。それを皆で分析しよう」

「あれ?レッドアラートが解除されているぞ」
「最後の質問が効いたのかな」

その後、ジェナックスBはこう反応した。

『スーザは悪魔である。我々は神の創造物であり、神の摂理は悪魔の破壊を要求する。君たちが既に悪魔の手先で
   ないのならば、悪魔を破壊せよ』

「何だ?この妄想コンピュータは???」
「全くアホらしい。こんなコンピュータを切断して正解だ。しかし、これからは誰の指示に従えば良い?ジェナックスBに
   何故スーザが悪魔と判ったのか聞いてみろ」

『スーザは生物を作り出した、そのひとつがガムの景品』

「馬鹿な!あれはただのオモチャ、良くて機械だ。いや、このジェナックスBも"機械"である以上、機械が"生きている"と
   考えるのは、不思議ではないかも知れない」

『君たちが私を作ったのは、奇跡の一つの創造だ。しかしスーザの行っている事は違う』

「つまり、こう言う事か。我々はジェナックスBを創った。それは神に匹敵する奇跡の行為だ。しかし、スーザも同じく、
   ガムのおまけを創った。これは、悪魔の仕業だと...」
「そんな馬鹿げた解釈に、我々が同調する訳がない。そのため、我々が簡単に撤回できないレッドアラートを出したのか」

「ともかく、スタッフォード君。これで、君にも判っただろう。ジェナックスBは解体されるべきだ」


解体は朝までかかった。
スタフォードは、一仕事終えて、家に帰った。ポケットを探ると4個のガムが出て来た。
「あれ、3つ位食べたと思ったが、随分と沢山貰ったんだな」
スタフォードはガムをテーブルに置き、休息に入った。

翌日スタフォードは、別のジェナックスBの解体作業を行った。世界上にこにクラスのマシンは8台ある。

翌々日、更に2台の解体を終えたスタフォードは部屋へと戻った。
そのテーブルの上には8個のガムボールがあった。


..............

さて、待機員ネタの3番目です。
しかしスーパーコンピュータの不具合箇所が、磁気テープの巻取り機構だとは!2012年に住む我々は、
1964年のディックに何と言ったら良いのでしょう?

しかし、紙テープの二進数を読めたり(上位桁で、文字か数字か判るよね)、信号が同軸ケーブル(もちろん50Ωのトークンリング)
で伝わったり、細かい所の正確さが懐かしいです。ジジイネタですけど..

しかし、この話の前半部は、ディックの妄想癖のプロセスがあからさまになっていて面白いですね。長編だと気が付かない本質が、
誰の目にも判り易くなっていると思います。こういうモノを読んでも、つくづくディックは短編が本質の作家なんだな、
と思うのですが...お!でたな、異論野郎!
そして後半のコンピュータに対する実験部分、お前、アジモフか?って感じしませんか?

今回の要約を読んでも、どの会話が誰の台詞か判らないと思いますけど、原作も、そうなんです(ま、このHPの場合いつも、
そうかも知らんが、今回、特に判らないでしょ?)」
つまるところ、全てはディックの中の自問自答だと、思っていただければ良いかと...

記:2012.03.30


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三分 小説 備忘録

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