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シビュラの目(2000)早川文庫
シビュラの目


待機員 Stand-by / フィリップKディック 訳:大森望のあらすじ
初出 Amazing(1963.10) 原稿到着1963 短編 第97作

チャンネル6の朝ニュースは、太陽から800天文単位の地点に、未知の艦隊が航行している事を報じた。
ニュースは人類の住む3惑星と7衛星に伝えられた。
彼らを発見したのは、ワシントン、ホワイトハウスに置かれた、恒常的問題解決機構ユニセファロンDである。
人類の発展、安全を維持しているのは、この巨大コンピュータである。

ユニセファロンDは、ただちに軍用艦を派遣した。
「さて、もっと楽しいニュースはないかな?」
ニュースのアンカー、ジムは構成作家のプリスキンに聞いた。

「ガス老人が亡くなったって聞いたぜ」
「ガスって誰だ?」
「待機員さ、それも相手はユニセファロンD!」
「ああ、彼か!」

待機員は、この国の悪弊の一つ。この社会を牛耳る「組合」は、各地に、何かが起こった場合に人をあてがう。
ある人間が病気になった場合に、代わりを勤める人間だ。実際には、そいつ等には出番はなく、殆ど仕事はない。
日長ぼんやり、暮らしていれば良い。"待機"だ。それで給料がもらえる。「組合」が、組合員のために行っている
水増し雇用の例だ。そして、それは、コンピュータにさえいる。

亡くなったガス老人がそれだ。ユニセファロンDの待機員。ユニセファロンDが故障した場合に、世界の最高決定権は
ガス老人に与えられる。しかし、彼の存命中には、"幸い"にして、その事態は、発生しなかった。
彼の趣味は"稀こう本"の蒐集と製本。羊皮紙で閉じ、金文字を入れる。時間と手間のかかる趣味だ。
ただ、彼には、その時間が腐るほどあった。

「じゃあ、それを記事にしましょう」


フィッシャーは朝、電話で起こされた.求職中の彼には、職案に行く事くらいしか用はないのだが...
「フィッシャー!職が見つかったぞ。すぐ組合に来い!」
やれやれ...とフッシャーは思った。このまま職もなく、組合からの失業手当で食って行くのも、
悪くないと思っていたからだ。酷い仕事だったら、どうしよう...

「ガス老人の替わりだ。すぐに仕事を引き継ぐぞ。ぼやぼやしてると、
   マスコミの奴らが、『無駄だ』なんぞと騒ぎ出す。すぐに交替するんだ」
「いや、しかし、給料は幾らなんだ?」
「お前に選択権などない!すぐ来い!誰かが文句を付け出す前に交替だ!既得権を守れ!」


ホワイトハウスは見学の子供達で一杯だった。
フィッシャーは、今後一年中、24時間、常に、このユニセファロンDの半径100ヤード以内に
いなくてはならない、と言う。とんだ"仕事"だ!
さて、どうしよう。まずは、国家行政コースのテレビ通信教育でも受けるか。

フィッシャーは組合担当に聞いた。
「ユニセファロンDの待機員って言うのはだんな仕事なんだい?」
「まず椅子に座る......」
「......それから?」
「それだけさ。後は毎日、ユニセファロンD相手に愚痴を語っていれば、お前の存在に気づいてくれるかも知れない」

ホワイトハウスに着くと、せまい部屋に通された。
そこには、爺さんの退屈しのぎが山とあった。クラッシック カーの模型達だ。

そこに、テレビクルーがやって来た。
彼らは、新しい"間抜け"を見つけて、インタビューを始めた。アンカーのジムは"大統領"、"大統領"と持ち上げ、
フィッシャーは真面目に豊富を語った。それが彼らに受け、インタビューは順調に進んだ。

途中で通信担当が声を上げた。
「通信回線が切れた!緊急放送に変わったぞ!」
番組は、臨時ニュースに変わっていた。
「...800天文単位で見つかった艦隊は、人類に対して、攻撃を開始しました!
   詳しくは情報が入りしだい、お伝えします。繰り返します。800天文単位で...」

24時間後には、エイリアンは太陽系に侵入した。ユニセファロンDは、活動を停止した。



「現在、修正憲法が発令されました。ユニセファロンDが復旧するまで、あなたが全軍の最高司令官となります。
   復旧には約1ヶ月かかる予定です!」

彼はせまい部屋を出て、大統領執務室に呼ばれた。よし!やつらに目に物を見せてやるぜ!

しかし、そう簡単ではなかった。
攻撃は果たして成功するのか。国内問題はどうする?経済は破綻寸前だ...くそお!誰か胃薬を持って来い!

「よし!奴らに一発食らわしてやるか?」
「はい、ご賢明な判断です。それから、今、妙なニュースが入って来ました。ニュース アンカーのジムが、
   連邦裁判所に、貴方の大統領資格停止調停を提出しました。同時に彼は、大統領選挙の実施と自身の立候補を
   表明しました。彼は世間の人気者で大きな力を持っていますので、選挙になれば...」


投票日の一週間前。調査会社の支持率が発表された。当然の様に、フィッシャーはジムに大差を付けられていた。
今も、テレビはジムのイメージアップ番組が流れている。大量のCM、あかいカツラ、スマートな肢体。流暢なしゃべり口。
冥王星のはるか遠く、身の安全を確保しながら、ジムは全太陽系に大宣伝を行っていた。

「フィッシャー!ジムに追いつきたいんなら、エイリアン相手に、デカイのを一発、ぶっ放す必要があるぜ!」
「ああ、でも俺はそんな事をしたくないんだよ...」
フィッシャーはサンドイッチに手を伸ばし、テレビを点けた。

番組では、女の歌手がジムのために賛歌を歌っている。そして、鳴り響く拍手と歓声!
ばかやろう!冥王星に観客などいるものか!

「さて、みなさん。フィッシャーは大統領に相応しいでしょうか?今の地位は彼の欲求を満たすためだけのものです。
   しかし、我々は今、大変な危機にある...」
たしかにジムの言う通りだ...俺は大統領には相応しくない...

しかし、中継は突然乱れた。そして中断した。
「どうしたんだ!エイリアンの攻撃か!」
「今、調査中です...」


突然、テレビから合成音が鳴り響いた。
「緊急放送です。ユニセファロンDの機能停止は終了しました。選挙運動は中止されます。フィッシャー氏は
   解任されました。立候補であったジム氏には、これまでの政治活動が、公共の利益を損なっていた嫌疑が
   かかりました。なおエイリアンとは交戦中です」


緊急放送は終わった。カメラはジムの顔を写した。
「...さあ、政府による介入は終わりました...じゃあ、皆さん番組を続けましょう...」
大音量の録音拍手が鳴り響いた。


フィッシャーは食べかけのサンドイッチに気がついた。
「これは、まだ俺の物だ!」
彼はサンドイッチを口一杯に頬張った。あと、何回ここで食事ができるのだろう?


フィッシャーは思う。技術者達にユニセファロンDの緊急修理を依頼したのは誤りだったのだろうか?
テレビではジムが政府に対して、からかいの台詞を言っている。自信たっぷりの、気の利いた、含蓄の"ありそうな"台詞。

しかし、俺は自分の頭で考えるんだ。フィッシャーはテレビを消した。


..............

これは、Soler Lottery(太陽クイズ、偶然世界)っぽい世界ですね
先日 White Country Bluesと言う、戦前からの白人のカントリーが黒人のブルースから、どういう影響を受けているか、というアルバムを
聞いていたのですが、その解説を読んでいると、中に出てくる、有名とは思えない(かつ、上手くもない)歌手が、その後、州知事等になった
と言う件がニ人あり、昔からシュワちゃんみたいな事はあったのだな、と思いました。

よく、「民主主義とは最悪を避けるための手段であって、最良とは、ほど遠いものだ」、と言う話を聞きますが、
まあ、そう言うものなのでしょうね。

そこに無理に"最善"を求め様とするので、"勘違い"をして、結果的に"ハシシタ"などと言う間違った選択をするのだと、思います
(と、2012.3月に書いて置きます。お!出たな政治バナシ)。


記:2012.03.20


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三分 小説 備忘録

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