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パーキーパットの日々 (1991)早川文庫
パーキーパットの日々


にせもの Imposter / フィリップKディック 訳:大森望のあらすじ
初出 Astrounding(1953.6) 原稿到着1953 短編 第42作

「そろそろ、休暇を取るか」
オーラムは妻に言った。
「アルファ ケンタウリの奴らを殲滅するのも、時間の問題さ。そんなに危険な訳じゃない。久々にキャンプに行きたいな。
   山さ。ほら、前にも行っただろ。サットンの森だよ」
「あら、でも、あそこは燃えちゃったのよ。山火事で」

「えええ?ちっとも知らなかった。この所、戦争の事しか。頭になくて...」
「みんな、そうよ」

そう、メアリの言うとおりだ。全てが戦争の事になった。

アルファ ケンタウリのちっぽけな艦。しかし、それは地球の巨大艦隊を出し抜いた。
ひっくり返った巨亀も同然に打ちのめされ、その後、地球軍は一方的に戦線を後退させている。

しかし、今は安心だ。わが研究所の発明した、防護バブル。これで、地球は守られているから、外宇宙からの攻撃は
はね返せる。しかし戦争は、防御だけでは勝てない。そのため、全世界の研究機関が、戦争のために投入されている。
オーラムの働く施設はその最前線だ。

「じゃあ休みはどうしようか?でも、もう研究所に行く時間になった。後で話そう」
「行ってらっしゃい。残業もほどほどにしてね」


空中バスに乗り込むと、同僚のネルソンが乗っていた。見知らぬ軍人と一緒に。
「おはようオーラム君。私は君に会いに来たんだ。よろしく」
ピーターズ少佐は、銃をオーラムの腹に付きつけた。

「外宇宙スパイである君にね」
「少佐、今すぐ殺した方が良いと思います。時間を無駄に出来ません。すぐに、解剖しないと...」
「ネ、ネルソン...何を言うんだ??俺が何をした、と言うんだ?」


空中バスは空高く、飛び始めた。まるで宇宙へ向かう様に。ピーターズ少佐はビデオスクリーンに向かって話した。
「こちら、ピーターズです。オーラムを確保しました。堂々と空中バスに乗ってきました。馬鹿なのか。大胆なのか?
   それとも、自分でも気が付いていないのか...これがオーラムです」

ビデオスクリーンの前にオーラムは立たされた。
「これが、人間爆弾の男なのか?危険はないのかね?」
「極めて危険です。しかし、起爆するためには、何らかのキーワード口に出して言う必要があるはずです。
   すぐにムーベースに移動します。そこで解剖を行います」

「一体、どう言う事なのか説明してくれ...」
「聞きたければ教えてやる。二日前だ(管理者注:覚えておいてね)。一隻の外宇宙船が防護バブルをすり抜けて、
   地球へ着陸したと連絡があった。その中にはヒューマノイド型ロボットが乗っていた。
   ロボットは、ある人間を殺害し、その人間になりすました」
「....」

「奴の体の中には『U爆弾』が仕掛けられている。爆弾の起動法は、我々の研究では、ある種の合言葉だ。
   特定の単語に反応する。アンドロイドは擬似人格を与えられており、殺害した相手の生活をそのまま乗っ取る。
   本人そっくりに設計されているからだ。解剖してミクロの違いを調べなければ、誰にも違いは判らない。
   もしかすると、擬似人格を与えられた本人にすら」

「でも僕はオーラム本人だ!」
「ロボットは8日前(管理者:ええ??日付が合わんぞ!)に船から降りて、"交替"を行った。
   オーラム、君が山に散歩に行った日さ」

「なあ、ネルソン!君は大学時代からの友人だ。君なら判るだろう。僕は僕だ。ロボットじゃない!君なら判ってくれるだろ?」
「うるさい!貴様はオーラムを殺したんだ。俺を騙そうとしても無駄だ!ロボットめ!」

「君達は、間違っている。僕はロボットじゃない...そうだ、何か間違いがあったんだ。
   きっと船は着陸に失敗してロボットは壊れたんだ。だから"交替"はなかった」

「偽の記憶だな。心も体もオーラムに成りきるんだ。見かけも、能力も、記憶も同じ。
   ただ一つ違う所は、体の中のU爆弾だ...無駄話はおしまいだ。もうすぐ月に着く」
オーラムが月面を見ると、爆弾処理班らしい一群がいた。あいつらは、俺をX線にもかけず、"解体"する。
そして、気が付く。間違いだったと...


「さあ、着陸の準備だ。気密服を着るぞ」
「こいつに気密服は要りますか?」
「ロボットに酸素は要らんだろ」

空中バスは着陸した。ネルソンがドア スイッチに手をかけた。
「ドアを開けるな。僕は死ぬ!」
「ロボットめ。まだ人間の振りをするか?」

ネルソン。一番の友人だった。それが、戦時下の異常な恐怖に、馬鹿な過ちをしてしまう。彼らにもう、理性はない。
ただ本能が恐怖に支配されているのだ...そうだ!

「じゃあ、開けろ。猶予は15秒間だぞ。あばよ!」
ネルソンとピーターズ少佐はお互いを見つめ合った。そして、ドア スイッチに飛びつくと、開け、転がり出た。
気密服を膨らませた不恰好な彼らは、一目散に、逃げ出した。

オーラムは猛烈な排気流の中でドア スイッチを押した。空気は流出を止めた。
「あと、1秒遅かったら...」

そして、操縦席へと戻り、空中バスを地球へと向けた。


オーラムは家に映話をかけた。
「メアリ。僕だ。家にチェンバレン医師を呼んで欲しい。X線や透視鏡を準備させておいてくれ!」
「ねえ?あなた一体どうしたの...わかったわ。準備しておく」


家の前に付き、オーラムは思った。
(チェンバレン医師は立派な人だ。彼が検査してくれれば大丈夫...しかし...)

玄関チャイムを押す。メアリが出た。しかし、その顔でオーラムは判った。逃げ出し、藪に身を潜めた。
飛び出して来た保安局員が銃を発砲した。オーラムは闇へと走り出した。


辺りはすっかり暗くなっていた。
オーラムは当てもなく、空中バスまで戻った。

「オーラム!手を上げろ。まだ自分がロボットだと判っていないようだな!」
空中バスのドアが開き、ボリス銃を構えたピーターズが出てきた。

オーラムは、すぐに藪へと隠れた。
「よく聞け。君は偽の記憶を植え付けられたロボットだ。君の体内には爆弾があり、それが何時キーワードにより発動する
   かは判らない。発動したら、我々全員が死ぬ」

オーラムは闇に身を潜め、じっとしていた。
「隠れても無駄だ。この辺りは既に包囲されている。すぐに見つけ出す!」

オーラムは、声を聴きながら、そっと、その場を離れて行った。
しかし、時間の問題だ。見つかれば、その場で射殺され、"分解"される。本物のロボットは、どこかにあるのに...
どこかに墜落し、炎上でもしたに違いない...そして、山火事が...??そうだ!サットンの森で
山火事があったと、妻が言っていた!あそこだ...サットンの森!あそこに、俺が俺である証拠がある!

夜が明けそうだった。包囲網を慎重に突破し、オーラムはサットンの森にやって来た。
空き地一面に拡がる焼け焦げた跡。山火事だ。

オーラムには事故現場の見当はついていた。降下途中に当るとしたら、それは、あの岩山だ。
この辺りの地理には詳しい。そして、その下に、宇宙船の残骸が...あった!

しかし、その付近には既に、警備兵がいた。奴らはオーラムを見つけ次第、撃つだろう。誰か、話が出来る相手でないと!
しかし、そこに、ピ−ターズの影を見た。イチかバチの賭け。

「おーい!ピ−ターズ!僕だ。撃たないでくれ。そこに行く!」

「撃て!こいつは僕の友人を殺したんだ!」
ネルソンだった。
「ま、待て!もしかしたら本当かもしれん。彼はロボットでは、ないかも」
ピーターズ少佐は警備兵に、銃を降ろさせた。

「ありがとう。さあ、この宇宙船を調べてみよう。僕の言った事が本当かどうか判る」
(しかし、損傷は激しい。既にロボットが灰になっていたら...見つからなかったら?)


「これはニードル シップです。宇宙人の物に間違いありません。そして、何かの死体があります」
「それが、ロボットだ!よく調べてくれ」

引き出された、それは、手足がバラバラな形をしていた。口は開き、空ろな目...。

「ほら!ロボットだ。ロボットは着陸に失敗し、僕を殺せなかった...」

死体の胸は開いていた。その中に、金属の光る物が見えた。
「爆弾だ!慎重に回収しろ...オーラム君、君の言っていた事は正しかった様だ。我々は君に謝まらなくてはならない」
「よかった...」
その時、ネルソンが、ロボットの死体に近づいた。そして、突然、その胸に手を突っ込んだ。爆弾を引きずりだそうとした!

「ネルソン!危険だ!やめろ!あぶない...みんな逃げろ!」
ネルソンは胸の物を引き抜いた。

「これはナイフだ!みんな!見ろ!」
それは外宇宙人が使う、ニードル ナイフだった。

「これで、お前はオーラムを殺したんだ!お前は...オーラムじゃない」

「...オーラムじゃない...としたら、僕は...」

最後まで言い終える事は出来なかった。
その爆破は遠くアルファ ケンタウリからも見えた。

..............

いやあ、傑作!さすがです。

さて、このHPの"非O"をお読みになった方なら、U爆弾の威力はご存知でしょう。Universeを破壊する爆弾ですからね。
そりゃアルファケンタウリからも見えますわ。しかし、アルファケンタウリ、お前は大丈夫なんかい???

ちなみに、この元本(1991年版 大森望訳)では、主人公の名前はオルハムなんですが、改訂版(2011年版の短編集 アジャストメント での大森望訳)では、
オーラムになっています。オーラムの方が正しいと思いますので、オーラムにしました。、オールドファンの方は違和感あったと思いますが、
やはり、多少なりとも原音に忠実にと思いました。
アレサ フランクリンじゃない!アリーサ フランクリンだ!ピーター バラカンさんも言っていますし...



記:2012.01.20


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三分 小説 備忘録

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