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パーキーパットの日々 (1991)早川文庫
パーキーパットの日々


報酬 Paycheck / フィリップKディック 訳:浅倉久志のあらすじ
初出 Imagination(1953.6) 原稿到着1951 短編 第18作

ジェニングスはロケット クルーザの中で目覚めた。
「おはよう。2年振りだね」

同僚のレスリックだった。
「君が、俺と"あっち"で働いている間に、状況は悪くなった。新政府の公安警察は強力だ」
「そんな事より、僕は何をしていたんだ?2年の間...」

「ともかく報酬を受け取れ。5万クレジットだったかな。ホテルでケリーから貰え」
「5万クレジットも?」
「それが、君が属していた秘密の仕事に対する報酬さ。そして、その仕事の記憶は消された。機密保持のために」

ホテルのロビーについた。そして2年勤務したはずの会社の報酬係、ケリーに会った。
「こんにちは、ジェニングス。報酬の支払いの件だけど。実は...」
「どこにサインすれば良いんだ?」
「ねえ。良く聞いて。たまに起きる事なんだけど、この書類を読んで。『第3項、甲レスリック建設は、乙契約者が
   希望すれば、甲は報酬を金額の替わりに、乙が望む物品で支給を受けることも可能である』」
「何だ?その5万クレジット替わりの物品って?」
「これよ。そして、これが、貴方の筆跡の物品書」

ジェニングスがケリーから受け取った袋に、入っていたのは...針金?チケット、メダル、古鍵...何だこりゃ?

「これが5万クレジットの替わりだって!!ふざけるのも、いい加減にしろ。とんだペテンだ。2年の労働報酬がガラクタだと!」
「でも...たまにあるのよ。貴方みたいな人が。私も理由は判らないし、受け取った人も、みんな怒るわ。
   でも...書類上はこれで間違いない。これを選んだ貴方の記憶はないし...どうすれば...」


ジェニングスはホテルを出た。どう言う事だ。2年間働いて、ガラクタを手に入れた。
しかし、2年間働いた記憶もないし、このガラクタの理由も判らない。
この子供騙しのペテンには、どうしてくれよう!

「そこまでだ。ジェニングス!止まれ」
公安警察だった。訳も判らずジェニングスは警察車に乗せられた。SPの銃口を向けられ、体を調べられた。凶器は...
何もない。ポケットの中はガラクタばかり。

「大丈夫です。武器は携行していません」
「さて、ジェニングス君。君はレスリック建設で働いていたね。どの位の期間、どこのプラントでだ?」
「2年間...だと思う。場所は判らない」

「答えないのか?まあ良い。で、君の職業は?」
「電子機器の整備士です」
「それで、中では何の仕事をしていたんだ?」
「し、知らない。記憶がないんだ」

「黙秘を通すって訳か。良いだろう。それなら、これを単なる一般市民に対する尋問でなく、
   何か罪状を見つけて、犯罪者に対する取調べにする必要があるな。多少、手荒くなるが...」
「いや。本当に知らないんだ!」
「あんまり、レスリック建設に忠誠を尽くすと、後悔する、はめになるぞ」

車は警察署の前で止まった。ジェニングスは、この仕事に応募した時を思い出した。
『整備技術者求む』高給だった。しかし、その条件は、退職の際に、従事期間の記憶を抹消する事。
奴らはここで俺を拷問に掛けるだろう。俺は記憶を取り戻す事ができるのだろうか?
今、車はロックされている。しかし俺は整備技術者。構造は判っている。中をショートさせれば良いんだ。

ああ、針金の様な細い金属があれば...

針金?針金は...俺はさっき貰った。あの袋の中にあった!今は、俺のポケットに!

ジェニングスはポケットから針金を取り出し、ドアロックを探った。そして、スパーク!
ジェニングスは監視の目を盗んで、ドアから忍び出た。そして、走った!一目散に!ここはどこだ!ともかく走れ!

気が付かれた!二人が走ってくる!ジェニングスは走る。しかし、差は縮まる。苦しい。しかし、捕まったら...
横を走り始めのバスが...ジェニングスは、飛び乗る!

「あぶない!お客さん!飛び乗りは禁止です。もう止めて下さい。それで料金は?」
「えええ?料金...料金か..」
ジェニングスはとぼけて、ポケットを探る振りをした。しまった、バスを止められ、降ろされる!
と、思った時に、指先が金属に触れた。そっと摘み上げると...トークン(バス チケット硬貨)だった。

「はい。結構です。これからは、危険な事をしないで下さいよ!」


ジェニングスは思った。これは偶然じゃない!このガラクタ達には『意味』がある!
ガラクタは7つ。2つは既に使った。俺の身を守るために...
しかし、あいつ、記憶を失う前の俺。あいつは何を知っていたんだ。


この世界。全体主義国家。奴らは、個人がただ道を歩いていても、勝手に捕まえてなぶりものに出来る。
ただ資本主義の残り香はある。個人の権利は奪われたが、法人であれば、まだ資産保有権と法人権はある。
会社が、この世界のアサイラムだ。奴らと言えども、勝手に、法人の中にいる人間を、拘束できない。
20世紀に古い法律は、ここでも多少、活きているのである。

では、俺はどこに逃げれば良い。レスリック建設?いや、彼らとの契約は終わった。
2年で終わったと言う事は、"俺=あいつ"は延長契約をしなかったと言う事だ。
こんな、無法の世界に、裸一貫で出るとは、"俺=あいつ"は一体、何を考えていたんだ?
いや、裸一貫ではない、俺には身を守るものがある。残り5つのガラクタが...

ともかく、レスリック建設と接触しなければ!鍵はそこにしかない。"俺=あいつ"俺にパズルを仕掛けたんだ。
"俺=あいつ"なら解けると言うパズルを...自分の身を危険にしても、解くべきパズルを...

レスリック建設のプラントがあるのは、どこだ。それすら俺は覚えていない。
何処だ?きっと市外だ。俺はロケット クルーザで目覚めた。市内である可能性は低い。
他に何か...ポケットを調べると、紙は小包の預かり証だった。預け日は...二日先!!
何か判らないが、この小包は、二日後に預けられる。それを俺は取りに行くのだ。
そして、チケットの半券。ちぎれた文字には、こうあった。
------------------
ポートラ 劇...
スチュアート...
   アイオ...
------------------

たぶん、「アイオワ州 スチュワートヴィル ポートラ劇場」
鍵はそこだ!


スチュワートヴィルに着いたジェニングスは、あてもなく軽食屋に入った。

「いい町だね。ここで働きたいんだが、働き口はないかな?」
「お客さん、仕事は何?」
「電気器具修理者さ」
「この町じゃ農業の手伝いくらいしか仕事はないよ。お客さん..干草運べる?...ま、無理か」
「あら。でも何か良く判らない政府の研究所はあるわよねえ。あそこなら...以前、募集をしてたけど...」

ジェニングスはタクシー乗り場に行った。1台止まっていた。
「ここに政府の研究所があって人を募集しているそうだけど」
「いや、もう終わりましたよ。建設労働者でしょ。あそこは厳しいんだ。きっと軍の関係だね。今は募集してないよ。
   それに、あそこに入るためには、特別の印がいるんだ。俺達は特別に貰っている。ほれこれさ!」
運転手は、自分の肩を指差した。緑色の布...

ジェニングスは微笑んだ
「知っているよ。これだろ」
ジェニングスはポケットから緑色の布切れを取り出した。
「え?どうして、持ってる。誰から貰った?」
「友達さ。俺の事をよく知ってる奴さ」

そしてジェニングスは考えた。そして、侵入計画には協力者が必要だ、と思った。
街を出ると、ジェニングスは見かけた顔に会った。ケリーだ!受付嬢!彼女だ!

「やあ、こんにちわ」
「あら、ジェニングスじゃないの?いったい、どうしたの?」
「警察に追われているんだ」
「じゃあ、アパートに行きましょ」

「どうして、警察が貴方やレスリック建設を狙っているの?」
「僕も考えた。レスリック建設は、みかけと違って優秀な最先端研究を行っている企業だ。たぶん、彼らはタイムスクープを
   作ろうとしているんだ。法律で禁止された、あの研究を。だから僕を雇ったし、厳密な秘密主義なんだ」

タイム スクープ。それはバーコウスキー理論による未来を覗く装置だ。タイムトラベルは不可能と判った。しかし、
   タイムミラーで未来を覗きみる事、そして、スクープで小さい物をすくいとる事。それは可能と判ったのだ。

「僕のポケットにあるガラクタ。今まで僕を助けてくれた。これは"あいつ"が、僕にくれた贈り物だ。きっと"あいつ"は
   未来を見たんだ。そして、5万クレジットより、この"ガラクタ"を選んだ。僕が警察に捕まる未来も見たのかも知れない。
   そこで気がついた。バスに乗れれば、逃げ切れる。トークンさえあれば...」
「...それを信じろ、と言うの?」

「ああ、強力して貰いたい。お願いだ。僕は君が協力してくれないと生き残れない!レスリック建設に行って交渉したいんだ。
   僕を警察から守ってくれるように。でもただ頼んだだけじゃ、無理だ。会社を強請れる証拠を持つ必要がある。
   もちろん潰しはしない。それでは誰も僕を守ってくれない。お願いだ!」

ジェニングスとケリーは丘にいた。
「この下が建設予定地ね。作業者がやがて、トラックでやってくる。貴方は作業中、その中に紛れ込む。やがてトラックは
   作業者を回収し、レスリック建設へ戻る...でも大丈夫かしら。もし作業者の人数を数えたら?」
「"神"は知っていたのさ。数えない事を...この緑章さえあれば」


ジェニングスは、レスリック建設に潜り込んだ。
プラントに入った。そこにはかつての同僚レスリックがいた。まずい!顔を見られたら!

こそこそと隠れると、目の前に不思議な機械があった。きっと、タイムスクープだ。見つめるジェニングス!
「おい、何で見ている?お前、見かけない顔だな。名前は?おい、名簿を持って来い」

ジェニングスは逃げ出した。ポケットを探る。鍵がある。きっと、これが、この先のドアの鍵だ。俺はそこに逃げ込む
しかし、ドアは開かなかった!か、鍵が間違っている?それとも、未来は不安定で、変化する事もあるのか?
あいつが見たものとは、俺はズレた未来にいるのか?

しかし、振り返ると半開きの倉庫部屋のドアがあった。ともかくそこに逃げ込む。そして、中から施錠する。
「おい!ここに逃げたぞ!袋のネズミだ。ドアをぶち壊せ!」
熱線銃が鍵を溶かす。追っ手が中に入ると、ジェニングスはいなかった。部屋の隅には机が積まれ、
天井の通風孔蓋が開いていた。

狭い管の中をジェニングスは這って進んだ。そして、明りを見つけ、下を見た。
!!そこはタイム スクープのある研究室だった。ジェニングスは降り、図面をかき集めた。
そして、逃げようとすると、装置の裏で働いていた作業者達を発見した。

その二人は、ポカンとしていた。まだ若い。子供だ。ジェニングスは銃を突きつける。
「おい!ドアを開けろ!」
「ぼ、僕達は鍵を持っていない!鍵は貰っていないんだ。だから、僕達は出られない」

ジェニングスは笑った。
「お前達、人間にとって大事なものは、何か判るか?それは信念だよ。諦めちゃいけない。人生は切り開くんだ」
ジェニングスはポケットから鍵を取り出すと、開け、出て行った。
外では、ケリーが空中艇で待っていた。二人は飛び立った。

「ケリー!この書類を預かってくれ。それも、どこか安全な所に、俺は戻って、奴らと交渉する」
「交渉って?」
「この社会は、うんざりだ。秘密警察だらけ。自分を守れるのは、レスリックの様な独立企業だけだ。俺はこの図面を
   持って、彼らと交渉する。俺も仲間に入れてくれと。それも不安定な従業員じゃない。経営者の一人としてでだ。
   ケリー、明日、俺はレスリック建設に行く。君に面会だ。そしたら中へ入れてくれ」

「でも、彼らもタイム スクープを使って、あなたの行動を監視したかも知れないわ。危険じゃない?」
「ああ、でも俺は、"あいつ"を信じる」

ジェニングスは町へ戻った。しかし、レスリック建設の周辺は、警察が警備網を引いていた。

とんでもない所に来てしまった、とジェニングスは思った。ここで、もしも警察に捕まったら、全ては水の泡だ。
この町で明日を待ち、レスリック建設に行かなくてはならない。しかし、どの店もホテルも警官が網を張っている。
一体どうしたら良い。

ジェニングスが汚いホテルの裏口に暖を取ろうと、近づくと、用心棒風の男が、せき止めた。
「見ない顔だな?お前、何してるんだ?何でこんな所に来た」
男は、ジェニングスを壁に押し付けた。

「ポ、ポケット...」
「なんだ?」
用心棒が、ジェニングスのポケットを探ると、中からポーカーチップの半欠けが出てきた。
「何だ。お客さんじゃないですか。すいません。朝までゆっくりやって下さい...」


レスリックは不機嫌だった。
「君がタイム スクープに細工をしたんで、我々は、これが使えなかった。大変迷惑している。
   しかし、君の様な優秀な技術者に戻って貰えて嬉しいよ」
「いや、技術者ではなく、経営者として迎えて頂けなければ、図面は返しません。私が戻らない場合は、
   自動的に警察に渡ります。しかし、私も、レスリック建設を潰したい訳ではありません」
「よそ者の君が何を言う。我々一族は、自由を守るために、働いて来た。そして、やっと究極の武器を手に
   入れる所まで来たのだ。他人は黙っていて貰おう」
「では、図面は警察に渡ります。残念です」

そこにケリーがやって来た。
「ごめんなさい。ジェニングス、図面は会社に戻そうと思う。実は私、レスリックの娘なの」
「ええ?そ、そんな...」
「君の唯一の計算違いだったようだね。君は優秀だ。経営者でなければ、君を仲間にする事に問題ない。ジェニングス、
   こんな全体主義国家はダメだ。いつか我々や平凡な人々が決起して、この国の独裁を倒す。我々はそのために働くのだ」

「ケ、ケリー...君は、書類をどこに隠したんだ??」
「安全な所よ」
「銀行の貸し金庫か。今日が受取期日の...それなら、それは俺の物だ。受取券は俺が持っている!」

「何を言っているの?受取券は私が持っているわ。貴方に取れる訳がない」
 ケリーはバックを開いて、その券をジェニングスに見せた。

その時、ケリーの頭上で何かが起きた。空間が丸く開き、そこから、小さなピンセットが現われ、
ケリーの指から、紙をかすめ取った!

「さあ、これで書類は安全だ。元の場所に戻った。さあ、交渉を始めようじゃないか。
   ところで、僕が君達の一族に入る事だって、やぶさかじゃないよ!」


..............

この話、初期作(第18作)なんですが、ここまで、"腑に落ちる"伏線を張っている点で、私が思う所の理想に近い展開です。映画にしたくなるのも、
判りますし、その映画が、結果的にいまひとつなのも、ここまでディックの作品の映画化を見て来た者としては、納得です。

しかし、この展開は、余りに鮮やか過ぎますね。どこかに、お手本があるのでしょうか?いや、ディックの才能を疑っている訳ではないのですが、
何もない所から、このスムーズな展開が書けたとは??
いや、やっぱり、どっかにお手本が...と思い数十年、古典のSFを読んでいますが、未だに出会えません。邦訳されていないのか、
それともSF以外がお手本なんですかね。まSF以外がお手本なら、それはそれでOKですが。

記:2011.02.02


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