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パーキーパットの日々 (1991)早川文庫
パーキーパットの日々


変種第ニ号 / Second Variety / フィリップKディック 訳:友枝康子のあらすじ
初出 Space Science Fiction(1953.5) 原稿到着1951 短編 第21作

「"イワン"がやって来ました!殺りますか?」
そのソ連兵は、丘を登り、この米軍前線壕に近づいて来た。

「その必要はない。"あいつら"が始末してくれるだろう」

ソ連兵の周りには、金属球が、集まっていた。
そして、それが突然、飛び上がり、ソ連兵を襲った。ソ連兵は、銃でそれを破壊した。
1台、2台...しかし、そこまでだった。3台目が、ブンブンと鋏みを振り回しながら、ソ連兵の脚を裂き、
倒れた彼の喉に、別の球体の回転刃がえぐり込んだ。

その後は、その辺りは複数の金属球の山になった。蠅の様にたかった金属球="クロー"達はソ連兵の体を切り刻んでいった。

警備係のレオーネは、スコット中尉に尋ねた。
「"イワン"の体を調べたいのです。奴が何故、ここにやって来たのかを?」
「よし、注意して行け!」

レオーネは、手首に金属バンドをはめた。防護タブ。短く強烈な放射能が、"クロー"を無効化するのだ。

レオーネがソ連兵に近づくと、クロー達は後ずさりした。レオーネは、ソ連兵の体から、アルミの密封容器を見つけた。


中に入っていたのは、話合いの依頼書だった。

「なぜ、今頃になって、停戦の要求を出して来たんだ?」
「この1年、クローを使って来て、効果が現われ出したんだ。奴らの塹壕に、潜り始めたんだよ。先週、連絡があった。
   大型クローが敵小隊の塹壕に入って、そいつらは全滅したそうだ」

「...しかし、クロー...あんな物に、頼らなくても...」
「我々が発明していなければ、彼らが発明していたさ。我々の勝利は目前だ。ムーンベースに連絡しろ!」


「スコット中尉。彼らの要求は、法策決定レベルにある、代表者一人との面会なのだね。それなら、ヘンドリックス
   少佐が適任だ。彼らの文書にある、ソ連軍の前線基地位置は正確だ。この申し出は、本物だ。我々の勝利も近いぞ!」


ヘンドリックス少佐は、ソ連軍前線基地へと向かった。
そこは廃墟だった。時折、クローらしきものの影が見えた。きっと、ネズミでも捕まえているのだろう。
大きなロボットも見た。新型のクローなのだろう。初めて見る奴だ。

米ソの戦争。ソ連は戦争を始めた者の常として、緒戦に成功を収めた。
米国の主要都市は地図から消えた。
しかし報復もすぐに行われた。ソ連各地の上空は、米国製円盤型爆撃機が飛び回った。

そして、地上戦が始まった。米国政府はムーンベースに移動した。

北アメリカは元より、欧州も使い物にならなくなった。
一般民は、月に移住した。地球に残るのは軍隊だけになった。

そして、クローが登場した。

始めは未熟だった。出現して、すぐにソ連兵の銃の餌食になった。
しかし、改良が続いた。地球の工場はクローを改善し、生産する基地と成った。
工場はやがて、人の手を離れ、効率が上がった。

続々と新しい、優秀なクローが発明され、ソ連兵を悩まして行った。
クローは身を潜め、近づくソ連兵に飛び掛る。

その内、飛び掛らずに、こっそりと後を付け、地下基地に忍び込み、回転刃を振り回す。
どんどん効率は上がって行った。

クローは誘導ミサイル、結晶バクテリアや円盤爆撃機とは違っていた。
生きているのだ。無人の地下工場で、次々と新型が作られる。防護タブを持っていない者を始末するもの。


そして、今日、奴らから、連絡が来たのだ。我々の成功だ!

ヘンドリックス少佐は、ソ連基地へと向かっていた。時折見える動物とそれを襲うクロー。
それ以外に動くものはなかった。さらに進むと、丘影から人が現われた。少年だった。

「止まれ!」
ヘンドリックス少佐は銃を向けた。
(年の頃は8歳くらい...しかし、この放射能汚染と食料不足の地上では、もっと上かも)

「君は、どこに住んでいるんだ?」
「地下」
「仲間は何人くらいいるのかな?」
「何人って、どう言う意味?」
「君の年は幾つ何んだろうか?」
「13」

「いつもは、何を食べて暮らしているんだ?」
「いろいろ」
「??君は目が見えるのかい?」
「少しだけ」
虚無的な返事。身体の障害。この状況下では仕方ない。戦争のせいだ!
「早く帰れ。ここにいると危険だ」
「みんな、死んだ」

「どうした?...まあいい、とにかく、着いて来い」
少年は胸にティディベアをしっかりと抱え、ヘンドリックス少佐の後を着いて来た。

「あんな所で、いったい何をしてたんだ」
「待っていた。誰か来るのを」

「ともかく、君はアメリカ側の人間のようだ」


ヘンドリックス少佐は、双眼鏡で先を確認した。そろそろソ連軍前線基地のはずだ。
銃を空に向かって打ち、白い布を大きく振った。面会のサインだ。基地の上に、3人の影が現われた。
銃を降ろしている。

ヘンドリックス少佐と少年は、基地に近づいた。そして、あと20mと言うところで、突然ソ連兵が、銃を構えた。
そして、ヘンドリックスに向けて銃を撃った。

「あぶない!ふせろ!」
しかし、銃弾は少年の体を貫き、少年の体は吹っ飛んだ!

ソ連兵達が出てきた。
「ど、どうして、撃ったんだ?」
「馬鹿、よく見ろ。ヤンキー」

少年の遺体からは、歯車が飛び出していた。ソ連兵が蹴飛ばすと、電気部品が転がり落ちた。

「ロボットだよ。人間の振りをして、兵士と一緒に地下基地に潜り込む。入ったら、金属の本性を現すんだ。
   俺達の前線基地はこいつらのせいで全滅だ」

ヘンドリックス少佐は、地下基地に入った。中にいたのは、マクサー伍長、クラウス兵士、タッソー女兵士。
「あの少年を調べたら、型式は第3号だったわ」

「そうか、第1号は負傷兵。これで、俺達の基地はやられた。そして、あの少年は最新の奴だが第3号。
   まだ第2号がいるはずだ。どんな姿をしているのか?」
「しかし、あれがクローの変形なら、俺は防護タグを持っている。俺には近づけないはずだ」
「奴らは、とっくに進化してるのさ。もうソ連兵も米兵もない。奴らは全人類の敵になったんだ」
「進化?まるで生物みたいな言い方だな。奴らは生物じゃない。ただの人殺しの道具さ」

「すぐにムーンベースに連絡しないと...しかし、繋がらない」
「放射能雲が厚すぎるんだ」
「しかし、もしも奴らがムーンベースに潜り込んだら..」
「次から次へと仲間を呼ぶさ。そっくりな格好をしたロボット。そして月は、完全に平等な世界となる」
「共産主義バンザイだな」

「俺達の司令基地とも、連絡は取れない」
「ああ、あそこはもうダメだ。第2号にやられたんだろう。いったい、どんな奴だ!」

「しかしよお、このヘンドリックスとか言う米兵。ロボットじゃないって言う、保障はあるのかい?」
「まあ、やめろ。こいつだけじゃない。この基地は元々、全滅していた所に、俺、タッソー、マクサーと集まっ
   たんじゃないか。だれがロボットでも不思議じゃないさ。ロボットは相手が一人じゃ殺さないのかもしれない。
   沢山集まるまで待っていて、いきなりドカンかもしれん」

「餌食が3人も集まったら、そろそろ発動するかもな」
「お前、随分詳しいな。本物のロボットじゃなければ、思いつかない話だ」

「だが、俺がにらんでいるのは、クラウス。お前だよ」
「ふざけるな!」

クラウスはマクサーに向かって銃を撃った。
「おい!第2号をやったぞ!みんな見ろ!」
「どうしたの!まあ、なんて事を...見なさい。マクサーは人間よ」

床を血が染めて行った。


「ともかく、ここに居てもしょうがない。俺はムーンベースとの連絡を取る、米基地へ戻る」
「あたしも連れて行って、あなた一人じゃあぶないわ。ここにはもう食料も少ないし」
「おれも行く。連れて行ってくれ」

ヘンドリックス、タッソー、クラウスは米基地へ戻った。


「こちらヘンドリックス。聞こえるか。今、戻った。迎えに上まであがってくれ」
「...中に入って下さい...」
「いや、ともかく、上に上がって来てくれ」
「...中に入って下さい...」

「おかしい。何故、俺達に顔を見せられないんだ?」
「もしかすると、あんたの基地は、既に奴らに占領されているのかも」

しかし、その彼らの背後から、金属球クローが近づいて来た。ソ連兵はタグを持っていないのだ。
そして、その後ろからは、松葉杖を付いた傷痍兵が...
「しかたない、中へ入るぞ」

下に降りると、向こうに無数の目が見えた。少年だ。そっくりな形の群れ!

ヘンドリックスは駆け上った。
「逃げろ!逃げるんだ!」
「さあ、こっちに来て!」
「待て!まだクラウスがあそこで戦っている!」
しかし、クラウスは既に、傷痍兵と少年に追い詰められていた。

タッソーが、クローの方に手榴弾を投げ込んだ。
変種クロー達は吹っ飛んだ...クラウスも一緒に?

「...どうして、手榴弾を...」
「もう無理だったの。あれが最善の手よ」

「...でも...」
その時、爆風の中から、人影が現われた。
「クラウス!無事だったのか!」
ヘンドリックスは駆け寄った。そして、クラウスの姿を抱きしめようとする前に。

ダーン、と銃声が響いた。
「え?」

タッソーが撃ったのだ。クラウスに向けて。
「何故?何故、君は???」
「よく、見なさい!」

クラウスの体から、その傷口から、歯車がバネが零れ落ちていた。
「どう?わかった?...納得できたかしら?あれが2号よ。怪しいと思っていたの」


とりあえず、クローはやっつけた。しかし、ヘンドリックスは、腹を負傷していた。
「タッソー、ありがとう。少し楽になった。でも、もう俺は長くない。
   もう地上は、お終いだ、ムーンベースに連絡しないと」
「何か方法はないの?」
「最近、放射能雲のせいで、連絡は取れない。しかし、ロケット式巡航船ならこの基地にある」

「じゃあ、それで月へ逃げましょう」
「ああ、だが一人乗りなんだ」
「じゃあ、あたしが行くわ。そしてすぐに救援を呼ぶ。どっちみち、今の貴方の体じゃあ、
   大気圏離脱のGには耐えられそうも無い」
「しかし...」
「他に方法があるの?」

「わかった。枯れ井戸に宇宙艇がある。あそこだ!」
タッソーは宇宙艇に乗り込んだ。

その時、前方に人影が見えた。大勢だ。
「じゃあ、すぐ戻ってくるわ」
タッソーの乗った宇宙船は、空へ消えた。

ヘンドリックスは人影に銃を向け。双眼鏡で確認した。
傷痍兵だった。一人、二人、三人。同じ様に松葉杖を付き、やってくる。

その後ろの、影。ヘンドリックス、突然、気になって、クラウスの死体に近寄った。そして頭蓋骨を割り、中の認識コードを見た。
そこには<変種第4号>

クラウスは2号では、なかった。では2号は誰だ?双眼鏡を覗く。3号ティディベア少年が見えた。これは大群だった。
30人はいるだろう。同じぬいぐるみを抱え、とぼとぼ歩く。

そして、そして、その後ろに見つけた。
タッソーだ。タッソー女兵士。一人、二人、三人...後は数え切れず。奴が2号だ!
ヘンドリックスは先頭の一群を、銃で薙ぎ倒した。

しかし、その後から、更に大群が続いて来た。
ヘンドリックスは、銃を撃ち続けた。しかし、防衛線はどんどん手前に迫って来た。

そして、タッソーが持っていた、あの手榴弾を思い出した。
奴らは、もうお互いを、敵として認識し始めている、と。


..............

名作ですねえ。仁賀さん訳は「人間狩り」、友枝さん訳は「変種第二号」ですが、どちらの邦題も、今いちですね。
やはり原題の Second Varietys= 第2改良版、のシンプルな不気味が、一番しっくり来ます。

原作が充分刈り込まれているのを、更に1/10くらいにしましたが、感じが判ったでしょうか?
この作品は、やはり、元を読まないとダメですかね (ま、全ての話に言える事ですけども...自己否定かい!)

記:2012.01.31


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三分 小説 備忘録

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